相席でヤキモチ
私は今日のバイト先で、甘木七菜さんがどういう感じで働いているのか、気になって目で追った。
なんとも240円で、泣きじゃくっていた人とは思えない。
笑顔を絶やさない、別人っぷりだった。
「相席いいかしら?小さなお嬢さん」
ジャングル状態の店内なので、分からないけど多分隣の席で座っていた、品のいいお婆さんだった。
私は少し緊張したけど、OKした。
何でかな?
この店の落ち着いた雰囲気が、そんな気にさせてくれたのかな?
「お嬢さん、お名前は?七菜ちゃんの妹さんかしら?」
「いえ、お婆さん。私は七菜さんの妹さんじゃなくて、筑波聲です。七菜さんとは.......友達?友達以上?です.......」
なんと答えていいか。
まだちゃんと自信を持って、友達です♪と言い切れない私だった。
私、弱い。
手が空いたのか、七菜さんがお盆を脇にして、近付いてきた。
「美羅お婆ちゃん、聲を見ていてくれて、ありがとう」
「年寄りは、暇なのよ。好奇心も手伝って、この娘とお茶したくなっただけよ」
「あんまり変な事吹き込んじゃダメだからね♪」
「やましい事かしら?はいはいわかってるわよ。そんな顔しない七菜ちゃん」
頬を膨らませて抗議する七菜さん。
いつも私と一緒の時とは違う顔をする。
見ていて飽きない。
だけど、何か胸がモヤっとした。
美羅お婆さんと相席してから、ホットだったコーヒーが冷えてアイスになったのに気づく私。
美羅お婆さんと二、三言交わしただけで、雑談が特に咲いた訳でも無いのに。
不思議と気まずくもなく、ゆるゆると時間が過ぎていってた。
私と七菜さんの時間もこういう風に過ぎたら良いなあと、ぼんやり思いながら。
「聲ちゃんは、まだいるの?」
「?はい。七菜さん仕事上がるまでいます」
特に考え無しに言った事が、美羅さんのツボに入ったようで、美羅さんはコロコロ笑いながら、
「ふふふっ!心配しなくても聲ちゃん、七菜ちゃんの友達以上よ」
夕陽が差し込み、紅く照らされた店内の植物達が、
私達を包む。
確信めいた笑顔で、美羅さんは言う。紅い世界で。
「友達の。友達以上と言う娘の。知らない事もあるでしょう。知らない顔もあるでしょう。まだまだ時間は、たっぷりあるからゆっくりと知っていけば、いいんじゃないかしら?」
じゃあね聲ちゃん。
と、美羅お婆さんは帰っていった。
私の胸に出来ていた、モヤモヤは消えていた。
焼きもちだったのか......。
自分の事って案外分からないんだな。
「ありゃ。聲ってば。ほんとに最後までいた」
すっとぼけた笑顔を見せる七菜さんに、
また別のモヤモヤが胸に湧いてきた私だった──
続く