ウエディング
「こ、こんにちわ」
スーツのお姉さんに挨拶を返す七菜さん。
私は、七菜さんの後ろに隠れた。
七菜さんの手を握りながら。
スーツのお姉さんは、綺麗な美人だけど、七菜さんに比べて、なにか安心出来ない雰囲気があった。
冷たいオーラが出ていると言ったら、言い過ぎだろうか?
「うふふっ、勘の鋭い娘ね。そんなに警戒しないで?」
お姉さんは笑う。
氷の微笑だ。
「貴女たち、モデルになってみない?」
冷たい笑顔でお姉さんは、聞き違いか!?という事を言う。
七菜さんも、警戒している顔だ。
「モデル料出るよ?」
ピクリと、七菜さんの眉が動いた。
早かった。
いや、生活苦しいもんなー。
まー仕方ないっちゃ、ない!
私は七菜さんの袖を引いて、目で伝える。
私なら大丈夫。
心配しないで、家計の足しにして?と。
その視線を受け取り、七菜さんはスーツのお姉さんと話をする。
どうやら、そのままの撮影では無いようだ。
着替えての撮影らしい。
モデルと言っても、中々本格的だな......。
着付けの人までいた。
今着ている服を脱いで、白いドレスに袖を通す。
ドレス!?
ハッ!と、七菜さんの方を向いてみると、七菜さんもドレスに袖を通していた。
ただし、黒い色の。
しかし、私達に色の違いはあれど、共通しているのは.......ウエディングドレスだった。
「.......七菜さん。これは、どうなんですか?イベント先取りし過ぎてませんか?」
「ごめん、聲!ギャラが結構よかったから、引き受けてしまった!いい思い出だと思って!」
「さすがに、夏休みの日記に、パートナーと2人で、ウエディングドレス着ました♪って書けませんよ」
ブツブツ言う私を、七菜さんがなだめていると、スーツのお姉さんが様子を見に来た。
「用意はいいかしら?ふふっ。思い通り2人とも素敵よ。良く似合ってるわよ」
「うん、綺麗だよ。聲」
同じニュアンスの言葉だけど、ダンチで七菜さんの言葉に、心が嬉しいと言う私だった。
──「はい、目線お願いしまーす。笑顔で。はい、いいね。お互い両手で組んで、はい、そう」
カシャリ!
カシャリ!
カメラマンさんの指示を受けて、撮影される私達。
私は純白のドレスで、七菜さんは漆黒のドレス。
両方とも、嫁なんだけど黒は、男性用のタキシードを浮かべたのかな?
じゃあ、七菜さんが夫役?
「昨日、あれだけ私が愛したのになあ」
「ふっふっふっ。聲、今晩は私は本気を出すよ?」
プクリと、膨れている私に、不敵に笑う夫役、七菜さん。そんな表情もカシャリ!と撮られ、しているうちに、撮影は終わった。
「お疲れ様。助かったわ、ありがとう。モデルの娘の都合がつかなかったのよ。でもおかげで、もっといいのが撮れたわ。はい、少ないけどモデル料」
けっして少なくないモデル料を、もらいながら七菜さんが、
「私達で、ほんとによかったんですか?」
「ええ。貴女たち、デキてるでしょ?いいのが撮れたわ」
........!!
お姉さんは、そういう雑誌の仕事の人だった。
言い当てられて、グゥの音も出ない。
経験値の差だった。
やっぱり、このお姉さん嫌い。
私の勘は当たっていた──
続く




