味噌ラーメン
駅から徒歩10分程歩いて、ビジネスホテルに到着した。
フロントでサインをして、鍵をもらう。
人懐っこい笑顔をした受付嬢をあとにして、エレベーターに乗って3階で降りる。
角から2つ目の部屋で、カチリと鍵を外す。
ペア招待券だけあって、もちろん相部屋だった。
私はその事実に、少し緊張する。
いつもなら、いつも通り流すんだけど、私はこの旅行で、心に決めた事があった。
「どーしたー聲?うつむいちゃって。てか、ツインベッドだよ聲!どーしろって?うはははっ!露天風呂もあるんだって楽しみだなあ!」
「.......ほ、ほんとに」
うつむいたままの私に、ん?といぶかしむ七菜さんだったけど、思い起こしたのか、テンション上がったまま、もう一つギアが上がった。
「ラーメンだよ聲!晩御飯はここで出るけど、お昼は出ない。北の大地の味噌ラーメン!堪能しない手は無い!」
「子供のような、私より子供らしいテンションですね」
七菜さんのテンションが上がったおかげで、私の決心は悟られなかった。
まだ。
1番いいところで伝えたい。
ホテルを出て、駅の周辺を歩く。
グーグルマップを見る七菜さんの表情は、真剣そのものだった。
ああそうか。
ラーメンアニメに救われたんだった、七菜さん。
そりゃ力も入るか。
果たして、到着。
観光地から少し外れた路地に、お店はあった。
私達は赤いノレンをくぐり、券売機で券を買う。
「へ~、券買うラーメンって初めて」
「私もだよ聲!ああっ!動画で見た通りだ!」
券をお店の人に渡し、出来上がる時間を待つ。
隣に座っている七菜さんが、コチンコチンに動かない。
「どーしたんですか?七菜さん。動かなくなっちゃって」
「いや、緊張して。あのアニメで見たままの店で。私もそこにいて、目の前で湯切りが、盛り付けられて、ああっ!」
「お待たせしましたー」
隣で、湯気がモウモウと立つラーメンのどんぶりに手を合わせている、七菜さんがいた.....。
そこまでか.......。
そこまでの地獄だったんだな......。
私はあきれそうになったけど、七菜さんを思うと、優しい声が出た。
「さあ、食べましょう七菜さん。せっかくのラーメンが伸びちゃいますよ」
こくり、こくりと涙目でうなずく七菜さん。
ズズー。
と、2人で味噌ラーメンをすすった。
──美味しかった。もう、死んでもいい。
「いや、私を残してですか?それは、勘弁です」
「ごめん聲。けど、人生の重要なイベントがまた一つクリアされたんだ。分かってほしい」
「仕方ないですね。私もイベント控えてますからね」
ん!?
なんの?なんの?
食いつく七菜さんを、スルーする私だった。
続く




