墓石
七菜さんのテント。
私はテントの中で、ゴロゴロと寝ていた。
こうしているのも、久しぶりな気がする。
実際のとこ、5日ぶりぐらいなだけなんだけど。
時空でも歪んでのかしら?
なんか違和感。
ああ。
七菜さんが、静かなんだ。
どーしたんだろう?
間が空いて、距離感が掴めないんだろうか?
.......私からいくか。
別段、ギクシャクした訳ではないけど、なんか緊張するな。
無口にしている、七菜さんの横顔に声をかけようとする。
すると、ほぼ同時に横顔は私に向いた。
「な、七菜さん昨日は」
「聲。今から時間あるかな?」
丸かぶりした。
七菜さんがいつになくシリアスな顔をしていたので、七菜さんに譲った。
「どうぞ。大した話しじゃないんで」
「そうか。聲、今から少し付き合って欲しい。すぐ終わる」
そこから、少し歩いた。
七菜さんの後ろをついて。
アスファルトから湯気が上がって、前の光景がぼんやりと映る。
ぼんやりした景色の中、七菜さんの背中だけは、はっきり見えた。
私は、ぼんやりとした世界に飲まれないように、七菜さんの横に駆けていって、手を繋いだ。
七菜さんは無口なままだけど、そんな私を見て少し微笑んだ。
途中、花屋さんで、花を買い、
そして、黙ったまま2人で歩いた。
歩いたその先は、お寺だった。
「七菜さん、ひょっとして」
「うん、お墓参り。お母さんの」
桶に水を汲んで、ひしゃくを入れて、先程、買った
お花を抱えて、墓石の前に立つ。
そして、荷物を脇に置き、かがむ。
墓石の周りに生えた雑草を、抜き出す七菜さん。
私も、七菜さんを真似てお手伝いする。
「ありがとう聲」
雑草を抜き終えて、墓石に水をかけ、スポンジで軽く磨いて汚れを落とす。
最後に、お花を刺して、線香の束に火をつける。
七菜さんは手を合わせて、まぶたを閉じた。
私も真似て、同じようにした。
少しの間。
1分ぐらいの沈黙の後。
「お母さん。この娘が聲。私の大事な人。この娘がいるから、もう大丈夫だよ。心配しないで。また来るね」
七菜さんが、お母さんに語る。
私を、お母さんに紹介したかったのか。
同じような、事考えるなあ。
お墓参りを終えた帰り道に、七菜さんはポツリ、ポツリと喋った。
「ごめんね、聲。私、昨日一つ嘘をついた。昨日私は、用事なんかなかったんだ」
「なんで嘘を?」
「試してみたかったんだ。今の自分が独りでいて、寂しくなるか」
「どうでした?」
「聲に会いたかった。独りで寂しくなった」
七菜さんは、腰をかがめて私の背に合わせる。
私は、小さな両手で七菜さんを抱きしめる。
この人がいとおしい。
私、小学生じゃないな。
「お母さんが死んで、1人でいた。孤独に慣れて、独りの方が楽になった。それでいい、と思っていた。でも聲と出会った」
七菜さんの髪を撫でる。
「そしたら、いつの頃からか、独りでいるのが、寂しくなった。周りに人がいても、心は独りだった。でも、大事な人が出来た。心から、そう思える人が。お父さんは......」
言わなくていい。
ギュッときつく抱きしめる。
「.......ありがとう。私は独りじゃない。お母さんに報告したかったんだ。一緒に来てくれて、ありがとう」
大丈夫、大丈夫です、七菜さん。
少しの間、そのままでいた。
続く




