独りで七菜さん
パシッ。
飛んで火にいる夏の虫。
つかんだ手の内には、小さなバッタが。
そのまま口に放りこむ。
ムシャリ、ムシャリ。
「うん、海老に似た味がする」
それは知ってた。
動画か何かで、昔見た。
私は、チラリとテントの中の、寝袋を見る。
──「どんな男性がタイプなんですか?」
「七菜さんしか、こんなに近い人いないから分からない」
「別にいいですよ。私も七菜さんでお腹一杯です」
「怖いです、七菜さん。優しい七菜さんがいい」
聲の事を思い出す。
柔らかくて、温かかった娘の。
私は昨日、確かめたい事があって、聲に嘘をついた。
「ごめん、明日は少し用事があるんだ」
たった1日の事だけど、一瞬聲が寂しそうな顔をした。
私は、チクリと心が痛んだけれど、
ごめん。
と、心の中で聲に謝った。
──そして、聲に嘘をついてまで、手にした時間でボーとしていた。
いつの間にか、夕方になっていた。
いつものように、飯ごうでご飯を炊いて、ハムステーキでも焼いておかずにする。
アチチッ!
よく焼けたなあ......。
──「旨い!旨い!」
「アハハッ♪やっぱりお肉なんですね」
こないだのカレーを思い出した。
聲の家で、野菜カレー作ったっけ。
確かに、私は肉食系だな。
今もお肉食べてるし。
苦笑しつつ、ご馳走さま。と、手を合わせた。
シュボボボ
小さなお鍋に、お湯を沸かしてココアを入れる。
日は落ちて、夜のとばりが公園を包む。
慣れたもんだ──。
独りでいたのは。
独りでいた時は、なんにも思い返さなかったもんな。
なんにもなかった。
独りでも平気なために。
でも、もう思い出すのは聲の事ばかりだ。
喜んでいいんだろうな。
確かめたい事は、確認出来た。
「ああ。寂しいな。」
早く、聲に会いたい。
続く




