鈴の音が
「ただいまー」
家に着いた私は、晩ごはんを食べて、お風呂に入って、パジャマに着替えて、歯を磨いた。
ソッコーだ。
「おやすみなさーい」
お父さんと、お母さんに挨拶をして、自分の部屋に入る。
寝るまでに少しの時間、眠気を殺して本を読んでいた。
「──と、いけない。もう23時前じゃない。そろそろ寝なきゃ」
手にしていた、赤川次郎のミステリー小説にしおりを挟んで、電気を消そうとしたんだけど、猛烈に襲ってくる眠気に勝てず、そのまま寝落ちするような形になった。
「──ん、んん.......」
浅い眠りから、目がぼんやり覚める。
また夢うつつだ。
また明晰夢?
あんなに寝ていたのに、まだ寝れそう。
違和感。
足元に、違和感。
いや、嫌な気配がした。
「!!」
黒い。
黒い影が、私の足元に立っていた。
起きようとしたが、体が動かない。
これが、金縛り!?
黒い影が、徐々に大きくなっていく。
近付いているのが分かる。
これは、人間じゃない。
スーパーで、七菜さんの言っていた死神だ。
嫌な感じが、どんどん膨れ上がっていく。
金縛りで、声も小さくしか上がらない。
「......七菜さん。た、す、けて.....!」
その刹那。
──チリリン
涼し気な鈴の音色がした。
死神の放つ、重苦しい空気が一変して、軽やかな気配に戻る。
机の中にしまっていた、夢で拝借したあの不思議な鈴が、なぜだか私の手の内にあった。
チリリン
先ほどまで、錆びて鳴らなかった鈴が、今鳴って死神を止めてくれた。
体が動くようになった。
私は、体を起こして叫ぶ。
「ごめん!まだ逝けない!大事な人を置いていけないの!」
私が腹の底から叫ぶと、死神らしき黒い影は小さくなり、スッと消えてしまった。
鈴の音に助けられた。
大量の冷や汗をタオルで拭きながら、その鈴を振ってみたけど、やっぱり音は鳴らなかった。
──翌日、七菜さん家のテントに来て、昨夜の死神の話しをした。
「えー!?聲んとこにも出たんだ!何、昨日の今日だよ!?どんなエンカウント率よ!」
「死神、一束いくらで安売りですね」
「ふーん、この鈴の音色が助けてくれたんだ。うん、鳴らないね。鈴の音色は、魔を払う。と、言うけどねえ。幽界の鈴だもん。本物だね」
「あと、愛の力です」
「すいません。呪文覚えてなくて」
深々と、慇懃に頭を下げる七菜さんだった。
ほんとですよ、焦りましたからね。
そう言うと、七菜さんは笑って誤魔化した。
雑だな。
今日も、暑い日になりそうだ。
今日も、七菜さんとダラダラ過ごそう。
でないと、昨日、今日の私が報われない。
そのための日常ですよ。
続く




