優し過ぎる白竜
「綺麗な白──」
夜の月光を浴びて、白竜の体を覆う鱗は、うっすらと光りを反射していた。
お日様の光りを、月が受けて光を地上に返して、その月光が白竜を照らして、きらびやかに舞うのだ。
あまりに幻想的な光景に、見とれてしまって、少しの間、ぼぅっとしてたようだ。
自分でも、なに考えてんのと我に返ったら、
触れるぐらいに目の前まで、白竜は降りてきてくれた。
「七菜さんのとこまで送ってくれるの?」
夢だから、会話出来るかな?と思ったけど、白竜は優しげな目だけで、肯定してくれた気がした。
夢なんだけど、なんか変なとこで現実的よね。
「よっとっと」
白竜の背中に乗りこむ私。
ツルツルした感触の鱗。
白竜が上手くバランスを取ってくれた。
「凄い!飛んでる!」
フワフワとした、乗り心地。
自分の目を通してみる、眼下の光景は、乗った事は無いけど馬のそれに近いんじゃないかな?
何回か、自分で空を飛ぶ夢を視たことはあるけど、それに比べてこの夢は物凄くリアルだ。
バーチャルリアリティ?
白竜が動く。
しっかりつかまったけど、すんごい高いのは怖いな。
落ちないようにしないと。
と、身構えていたら、電信柱の電線より低い、低空飛行で飛び続けている。
長距離走のトラックの目線だろうか。
これも、乗った事ないけど。
まあ、夢だから。
「──!ああ、そうか。お前、私が恐がるから低く飛んでくれてるんだね」
普段は無い、直感的に分かる感じがした。
見た目通りの、美しくて優しい白竜だった。
スルリ
スルリ
と空を飛び、車道の信号待ちをしている、車を追い越していく。
信号待ち無し!
ストレスフリー!
あっという間に、七菜さんのいる公園に着いたけど、
なんじゃこりゃ!?
公園に、古びた宿屋が出来ていた!
夢らしい突拍子もない展開が、また来た.....。
「ほんとに、七菜さんと会えるかな.....」
ボソリと呟いたら、白竜がグインと宿屋の周りを旋回した。
すると、宿屋の2階の窓から、女の子2人が手を取り合っている姿が見える。
見たことあるシルエットに、目を凝らしてよく見ると、それは私と七菜さんだった。
私はここにいるけど、そうじゃなくて。
「ありがとう。お前は優しいね」
白竜が、少し先の未来を見せてくれたのだ。
これも直感的に分かってしまった。
白竜は、ゆっくりと地上に着地して、私を下ろしてくれる。
古びた。
しかし、古いけど趣きのある宿屋だ。
その宿屋の玄関の前に、私は立った。
ガラリ
「いらっしゃいませ。ようこそお出でになりました」
中から丁寧な接客の、中居さんが出迎えてくれた。
──ただし、中居さんの顔が無い。つるんつるんだった。
そんな雰囲気はまとってたけど、そうかー、やっぱりそうかー。
いや、幽霊、お化けの類いって嫌いじゃないんだけどね、怖くないヤツなら。
不思議とその、ぬっぺらぼうな中居さんはフレンドリーで、嫌な感じはしない。
んじゃ、いっか。
「ささっ。お疲れで御座いましょう。中へお入り下さい。荷物は?無いですか。失礼いたしました」
プロだ。
続く




