スイカ割り
「少し涼しくなってきたね」
「そうですね、七菜さん。ところで七菜さんの後ろに、何か丸い物体が見えるんですが?」
「ジャーン!スイカ1玉!2人でまるまる食べようぜー!」
ででん!と存在感をはっきする丸くて緑と黒のしましまのスイカ。
まさかの、まるごと!
涼しくなってきたとはいえ、残暑厳しいお盆明け。
冷えてもないスイカは、食べたくない。
「だいじょぶ!川で冷やしてたから!」
この町のどこに川がある。
適当な設定を露呈する、七菜さん。
しかし、2人で1玉は量的にも無理でしょ~。
豪勢だけどさ!
「それもだいじょぶ!聲は普通に食べてくれていい。あとは私が全部食べる!」
「無茶ですよ。七菜さんのおへそから、スイカのツルが生えちゃいますよ?」
「......無茶じゃないさ。レジェンド芸人の志村さんも、食べていた」
「な、七菜さん!まさか!」
「そう。前から1度やってみたかったんだよね。......志村食い!」
誰しも1度はやってみて、もったいない食べ方するなと、親に怒られたスイカの一気食い。
伝説の志村食い......。
自分で買ったスイカ、
確かに、この場には親もいない。
PTAも、らち外なこの時に!
......止めるのは野暮じゃないか?
「でも、七菜さん。私達はシロウトなんですから、いつでも白旗を上げてくださいね?私は普通に食べれる分だけ、いただきます」
「やらせてくれるか。ではスイカを割るとしよう」
....!?
目かくしをし出した七菜さん。
木の棒を持ち、クルクルその場で回り出す。
「聲!誘導するんだ!」
スイカ割りも同時にやるとは!
どこまで夏を堪能する気だ、この人は!
私は声を張り上げる。
「右に一歩!まっすぐ!そのまま、そのまま!そこです、七菜さん!」
地面にビニールをひいた上に乗った、スイカの目の前に目かくしした七菜さんが立つ。
ベストポジションだ!
七菜さんは、木の棒を振りかぶって、振り下ろした!
「せい!!」
バイ~ン。
なんと、木の棒が弾かれた。
なんて、固いスイカなんだ!
え!?
これじゃ、食べれない?
企画倒れで、終了?
「なんの!」
ゴスッ!
バカッ!!
スイカが割れた。
目かくしを外した七菜さんが、頭突きで割った。
なんて、強引な.....力業!
「必殺、土下座割り!」
「背筋の寒くなる、恐ろしい土下座でしたよ?」
力業を称えた後は、
割れたスイカを、ちゃんと切り揃える。
10切れ、取れた。
私、1つで十分だね!
──さて、準備は出来た。
2人の乙女、が切れたスイカを虚ろな目で見ていた。
続く




