牛丼
「薬食いでも行くとするか!」
「そんな言い方、今の時代しませんからね七菜さん。牛丼屋さんに行くだけじゃないですか」
「むー聲が、時代劇風に付き合ってくれないー」
「十分、付き合い良い方ですよ?付き合っても、付き合わなくても、同じ事だ」
「付き合い?あっても無くても同じ?」
「嘘ですよ。七菜さんとの仲が、今さら付き合いだけの間柄ならサスペンス劇場ですよ」
「愛憎乱れ散る仲!!いやあ、愛だけでいいや」
「その通りです」
馬鹿をやりながら、オレンジ色した看板の牛丼屋についた私達。
最近は、看板はブラックになりつつあるらしい。
私は、牛丼を食べるのは初めて。
七菜さんは......?
サムズアップして、ドヤ顔をしていた。
あら、頼もしい。
牛丼屋のプロが隣にいる七菜さんだったとは。
「いらっしゃいませ~」
店員さんがお茶を持ってくる。
聲、おまかせでいいね?
と、七菜さんが目配せをしてくる。
お願いします、と返しておく。
「牛丼並みが2つで、卵がひとつ。お新香1枚で」
「はい、かしこまりましたー」
熱いお茶を2人ですする。
ほっとして待つんだ、と思ったらオーダーがもう出てきた。
は、早い!
「昔程では無いけどね。それでも和のファーストフードさ」
プロは、紅生姜を牛丼の真ん中にこんもり乗せて、
七味を目一杯かけるのだった。
お新香にしょう油を垂らして。
「おんなじ様にしてみ?後、聲は初めてだから生卵にしょう油を垂らして、そうそう......かき混ぜて牛丼にかける......と。お新香は2人で分けよう」
これが牛丼奉行様?
見事な手際です。
ではでは、いただきます!
ハムリ。
うん、すき焼きみたいな味!
甘過ぎず美味しい!
「初心者は生卵つけた方がいいぜ~。それでも少し甘くなるからね」
七菜さんは、七味と紅生姜だけで!?
「給料日前のフルコースさ!」
私は、強がりは美学というのを、牛丼屋のプロに学んだ。
「お新香、地味に美味しいですね」
「だろ~?ケミカルな味がくせになって、中毒性あるんよね」
その時、タオルを頭に巻いたジャージ姿の壮年の男性が入ってきた。
「並み。ネギダクで」
七菜さんは、その男性に目で敬意を示しながら、食べ終わった私を連れて、お会計をして店の外に出た。
「アレは、本物のプロだよ聲。年代からして、サラリーマンのワンコイン亭主の時代の人だ。昼休みの忙しい中、500円玉で食べれる牛丼屋に通ってきた歴戦の古強者さ」
「よく分かりませんが、敬意を示すぐらいなんですね?」
「もちろんだ。あの人達がいたから、私達の生活が今存在していると言っても過言じゃない」
私達は、感謝と敬意を心に灯して歩いた──
続く




