かき氷
「聲、暑い......。流石の私も暑すぎるから、かき氷でも食べに行こう......」
七菜さんが、フラリ、フラリとおぼつかない足取りで私の先をいく。
かき氷で、どうにかなる暑さとも思えなかったけど、七菜さんにくっついて行った。
外に30分もいたら、冗談ぬきで死にそうになる。
子供は風の子!
でも無理、物理的に。
だって、体温を上回る勢いの温度計の針だよ!?
暑い午後は、シェスタとか言ってたけど本当に。
命を守る行為だから。
怠ける為じゃない。
なんて事を、うだる暑さでヤられた頭が考えていたら、見覚えあるジャングルのような店にたどり着いた。
七菜さんがアルバイトを勤めてる喫茶店「コーデュロイ」だったかな?
観葉植物やら何やらの、植木ばちでいっぱいの店は涼しげな感じだ。
木陰に入る錯覚を覚える。
店内も、空調が効いていて涼しい。
ふ~!生き返る!
「待ってなよ聲!飛びっ切りのかき氷食べさせてあげるから!」
言って七菜さんは、厨房の奥に消えていった。
マスター!またアレ作らせてねー!
えーお願い、材料費払うし!
私だけじゃなくて、ウチの相方に食べさせてあげたいのよ!
.......それなら、いい?
流石、マスター!話し分かるね!
その娘を大事にしなさい?
分かってるよう!
奥で、そんなやり取りが聞こえてしまって、なんだかいたたまれない私だった。
少し赤面しながら横の席を見ると、いつぞやのお婆さんが座って珈琲を飲んでいた。
「ふふふ。お姉さんとはまた距離が近くなった感じかしら?」
「.......お恥ずかしい」
「そう想うのが、近くなった証拠よ。おめでとう」
祝福されて、余計恥ずかしくなる私だった。
早く、帰ってきてくれー七菜さん。
この気恥ずかしい空気を一変させてくれー。
「お待たせー!七菜さん特製・3種の氷だよー!」
「おおっ!」
大きいガラスの受け皿に、細く細やかなかき氷。
その山と積んだかき氷に、イチゴ・抹茶・レモンの3種のソースがかかっている。
.......このソース。
シロップでは無い!
「気付いたね、聲!お手製の1から絞り出したソースだよ!原価率上等!」
そして、サイドにはウエハース。
てっぺんには小豆。
小豆の上に3つのオレンジシャーベットが!
......インスパイア系?
「まずは、あーん」
横に座った七菜さんが、目をつむり、ぽっかり口を開けて待っている。
横の席のお婆さんが、
「あらあら、こんな七菜ちゃん初めて見たわ」
ひ、人前でデレ過ぎじゃない?七菜さん。
また顔が熱くなる私。
「ほら早く聲。この特製かき氷を作った功労者に、いたわりのアーンを」
「あーもう!はい、七菜さん!」
パクリ、シャリシャリ。
「うー染みる美味しさ!次は聲だよ。はい、あーんして♪」
.......ぬぅ。
甘えられているようで、攻められている。
高度な業だ。
私は、ヤケになって口を開けてアーンする。
冷たいかき氷が口の中に広がる!
お、美味しい!
食べた事ない美味しさだった。
マスターも、お婆さんも、美味しいものをありがとう。
という満面の笑みが、なんだか腹が立つ私だった。
続く




