火垂る
ドドーーン!パラパラパラ......
おそらく最後の一発だろう。
最後の花火が打ち上がったところで、
花火大会の終了のようだ。
ちぇー、もう終わりかー。
よかったなー。
ああ、寝ちゃったか。朝早かったもんな。
あちら、こちらの人達が、三々五々に散ってゆく。
私は、ゆっくりと、はぐれないように七菜さんの手をギュッと握る。
「聲、大丈夫?疲れてない?眠くはない?おんぶしてあげるよ?」
下心?
ありきの優しさを見せる七菜さん。
雪駄の帯が食い込んで、少し痛むけど子供扱いは嫌だ。
「いや、レディとして扱ってますけど?」
私の歩き方が少しぎこちないのを察知した、敏感お姉さんの七菜さんは雪駄の帯に当たる足の指の間を見た。
「......やっぱり。歩くのちょっとつらそうだったものな。ほら、お姉ちゃんの背中に乗りな」
七菜さんがしゃがんで、私を待ち構えていた。
足先が痛いのを、バレては仕方ないかな?
確かに、レディ扱いだ。
七菜さんもレディなんだけど。
観念して、七菜さんの柔らかい背中に体を預けて乗っかった私。
夜風が心地いいけど、七菜さんの体温も心地よかった。
なんか安心する。
「ふむ軽い。まだまだ女児だな。しかし、女児なりにもやっぱり女の子だな、非常に柔らかい。しかし若干肌が冷たいか。夜風に当たり過ぎたかな」
うちの変態なお姉ちゃんが、分析して解説してくれる。
というよりは、心の声が駄々漏れのようだ。
七菜さんも、しっかりお疲れのようだった。
「七菜さん!降りますって!」
「いーから、いーから!聲は、私の以外に高い体温で暖まっていきな!私は背中に当たる聲の感触を堪能している。お気遣いなき事、よろしくメカドック」
この変態紳士!
恥ずかしがるのか、怒るのか、まあ!と感激するべきなのか?複雑な気持ちが複数、私の中で渦巻いた。
「むーー!」
私は、訳の分からぬ気持ちを代弁するように、ギュウー!と七菜さんの背中に思いっきり抱きついた。
あったかい......。
私の体は、七菜さんの言う通り冷えていたけど、私の顔だけは熱を持っていたのが、自分で分かった。
「ははっ。いい思い出になりそうだ」
七菜さんが苦笑と共にごちる。
「でもね?聲の細い手が私の首筋を絞めてきて、ナチュラルに極ってしまって、お姉さん若干気が遠くなって、気持ちよくなってきて......」
「うわあ!ごめんなさい、七菜さん!落ちないで!」
「聲にだったら、堕とされてもいいけどね」
思いの外、マゾな七菜さんだった......。
「あっ......。小さい灯りが2つ。私と聲かな?」
「逝っちゃ駄目ですよ!七菜さん、しっかりして!って、私のお尻をサワサワしない!っ.....!小さい灯りが2つ。火垂るだ!」
「おー実物見るのは初めてだ」
七菜さんも私も、その小さな灯りに目を奪われる。
車道をカラン、コロンと七菜さんの雪駄の音だけが響く。
気づけば、周りに人もなく、車も通らず、まさしく刹那だった。
静か......。
痛い程の静寂。
私の心音が、七菜さんに聞こえてしまうぐらいの静けさ。
世界から、切り取られたような私達を導くかのように、2匹の火垂るが先導するのだった。
「こーゆーのは記憶に残るんだよなあ.....」
七菜さんが、独り呟く。
私も心の中で同意した。
帰りの夜道のことだった──
続く




