お揃い
「行ってきまーす!」
夕暮れに、家を飛び出す私。
飛び出すまでは行かないか。
今日、浴衣で走れない。
カラン、コロンと雪駄の鳴く音がする。
うん、イズ風流。
いい塩梅に、乙女してる今日の私。
「いつもお世話になってる七菜さん、一度家に呼んでおいで。ちゃんとお礼しないと」
お母さんに、そう言われて送り出してもらったけど、七菜さんを家族に合わせるかあ......。
なんだろう......難易度が高い気がする。
いや、多分大丈夫なんだろうけど、私の心の中のハードルが高い。
一緒に、裸で寝たりした女性を家族になに食わぬ顔で紹介する。
なんのプレイだ。
それに、まだ七菜さんとの仲が、どーゆー関係かって、いや、まー友達?マブだち?親友?
.......なんか、固まってない気がするので家族に合わせるのは控えたい私だった。
カラン、コロン。
雪駄を鳴かせていたら、七菜さんのいる公園に着いた。
ふふっ。七菜さん浴衣姿見て、何て言うかな?
小学生な私だけど、少しは年齢詐称出来るだろうか?
「なーなさん!」
........!!
目の前に絶世の浴衣美人がいた!
偶然にも、私と同じ蒼色の浴衣。
雪駄に、髪には鈴の髪飾りが。
こちらに一歩踏み出せば、
チリン
と音がする。
浴衣美人は、私を見て笑顔で歩み寄ってくる。
チリン、チリンと鈴を鳴らしながら。
「聲!浴衣じゃない!しかも色一緒だし!可愛いなー!」
「あ、ありがとうございます」
「聲、中学生ぐらいに見える!いやー聲は、大人びた娘だけど浴衣着たら余計大人びるね!」
「い、いや、恥ずかしいんで止めて下さい.....」
目の前の浴衣姿の七菜さんを前にして、褒められても恥ずかしい。
それほどに七菜さんが綺麗だった。
赤くなる顔を分からないように伏せて誤魔化す私。
「ふふっ。七菜さんもやるもんだろう!馬子にも衣装ってね!」
「ほんとうに.....。綺麗ですよ七菜さん。浴衣持ってたんですね」
「うん。母の形見なんだ」
私の手を繋ぐ七菜さん。
いつもの粗暴、いやワイルドさはどこえ?
の、綺麗な乙女姿の女神。
「お盆だからなあー。お墓参りしないとなー。聲も、ご先祖様は大切にしないと駄目だよー」
「七菜さんのお母さん、もういないんですか?」
「うん。体が弱くてねー。私が小さい時に、病気で亡くなったんだ。綺麗なお母さんだったよ」
七菜さんのお母さんは、こんな感じだったんだろうか?
目の前の七菜さんを見て勝手に想像する。
大切な人がいなくなるって、どんな気持ちなんだろう?
私には分からない。
「私はサバイバルで鍛えられているから、母さんと違って頑丈だからね。心配無用で元気な私さ!」
私の横でガッツポーズの七菜さん。
この人がいなくなったら嫌だな。
想像出来ないけど、それだけは分かった。
「私は隣にいるからね」
七菜さんは笑いながら、サラリと言った。
私は、家族に紹介する気になった。
私の隣にいるこの人を。
さて、地蔵盆の灯りが見えてきた。
手には、お線香を持って火を灯す。
手を合わせて拝めば、町内会のお爺、お婆にお菓子を山ほど貰える寸法で。
「さあ、沢山貰うよ!」
え、高校生はどうだろう......。
続く




