超越した場所で
......!?
あれ?
あれあれあれ!?
さっきまで一緒に洗いっこしてた、七菜さんがいない?
私、湯船に浸かってる?
周りには誰もいない。私1人だけが湯船に浸かっている。
おかしい......。
キツネに化かされた感じだ。
時間の感覚も曖昧で、さっきまでの出来事が遥か昔の出来事の様に感じる。
七菜さんの体を洗ってあげてたのに、その七菜さんが消えて、私はお湯に浸かっている。
浴内の電灯が薄暗い光りを放っている。
こんな暗かったっけ!?
不気味な銭湯だ。
もっと夏の夕立ちの風情が感じられたハズなのに。
完全にホラーテイストの展開だ。
「ん?お湯の中に何かいる......?」
ホラー展開に負けず、私は目を凝らしてよく見てみる。なんか、ブルン!ブルン!と震えている、水色をした塊がお湯に浸かっている。
頭?には、手拭いが乗っかっていて、「フィー!」と、声を上げそうな感じだ。口無さそうだけど......。
「と、とにかくお邪魔しちゃ駄目よね。どうぞ、ごゆっくり~」
私は、刺激しないようにその水色をした塊から離れる。湯船を出る。
すると、その物体はまたしてもブルン!ブルン!と気持ち良さそうに震えるのだった。
言葉も発してないけど......気持ちよくお風呂に浸かってる感じがした......。
「さて、訳の分からない世界ですなあ。また変なのが現れる前に、七菜さんと会えればいいけど」
さっきの水色の塊は無害だったけど、とにかく脱衣場に戻る事にした。
.......ガラリ!
磨りガラスのドアを開ける。
開けると、なんと宇宙人がいた。
「ウ、ヌ、ラ、バ、マ、サ、カ、タ、ナ、シ!」
私は一瞬で理解を放棄して、赤いトゲトゲの肌をした宇宙人の脇をすり抜けて、ダッシュする。
怖くて膝が笑う中、走る。
後ろで宇宙人が、とんがった口でまた何か言っている。
ガシャン.......!!
天井以外に、何もない空間から、透明なドラム缶状の筒が降りてきて、私を閉じ込めた。
......!
何よこれ!私を閉じ込めて何しようっての!?
透明な筒を叩いても頑丈で、どうにもならない。
万事休す!
.......ああ、七菜さん。
七菜さんだけは無事でいてください。
私は、もう駄目のようですから......。
「ゲッゲッゲッ!ゲ.......」
目の前で嫌らしい笑い声を上げていた宇宙人が、白目を向いた。とんがった口からは、泡が吹き出ている。ゆっくりと、前に崩れて倒れて気絶した。
その倒れた宇宙人の背後に、我らが、いや私の、七菜さんがバールを持って仁王立ちしていた。
「な、七菜さーん!!」
宇宙人が気絶すると、私を捕らえていた透明な筒は消えて、私は七菜さんに飛びかかるように抱きついた。
「こ、こら聲!抱きついていいんだけど!おおいに結構なんだけど!」
あっ.......。2人とも、完全に肌色が100%だった。
七菜さんが暴走しちゃう。
「鉄の理性で押さえてるけど、もーう無理!後5秒!5、4、3、2、1!」
私は七菜さんから瞬時に離れて、体を隠した。
あ、危ない!助かって、感極まって裸で思い切り抱きついてしまった。
危険がいっぱいだ。
「とにかく、服を着ようか。それからここをどう出られるか、探ろう」
私達の着替えは、普通に脱衣場にあった。
そこは、あるんだ.....。いや、助かったけど。
「でも、危なかったよ聲。さっきのまま私が助けれなかったら、聲はあの筒の中でコールタール漬けにされて、ブロンズ象にされてたよ」
「そ、そんな危ない奴だったんだ!」
危機一発である。
私は、浴場で会った水色の塊の物体の事を、七菜さんに話した。
「ふーん。そいつは何考えているか分からないからなあー。でもお陰で分かった。ここは、異次元だ」
「七菜さん、なんか偉い詳しいですね?」
「うん、まあ少年少女の嗜みってやつで。.......異次元、四次元でも正解だな」
私達は、服を来て番台を見上げる。
お金を払う人が座っている所に掲示板が置いてある。
.......何々?
「2人で一番やりたい事をしなさい?」
「七菜さんこれ?」
「うーん、したい事色々ありすぎではあるんだけど、一番したい事はもう達成してんだよなー」
「あ、やっぱり七菜さんもそうでしたか。んじゃ、これ普通に出れそうですね」
私達は、番台をぬけて、靴を履き外に出た。
夕立ちの雨は上がっていて、世界に色が着いている。虹もかかり、異次元から帰ってきたみたいだ。
「ねえ?聲の一番したい事って?」
七菜さんが意地悪で聞いてくる。
「もー!そんなの七菜さんと一緒です!」
出会えた大事な貴女と、ずっと一緒に居たい。
七菜さんは、ニヒヒと嬉しそうに笑う。
私も、恥ずかしいながらもアハハと笑った。
続く




