最後まで洗うぜ?
貸し切り状態の銭湯だった。
私が、初銭湯でホエーとしていると、七菜さんが、
「ほら、聲。かけ湯して」
七菜さんが、背中から温かいお湯をかけてくれた。
冷たくなった体に染みる温かさだった。
七菜さんも、自分にかけ湯をしたら、
「とりあえず、おっきいお風呂であったまろー♪」
「おー♪」
私達は広々とした浴槽に、ちびり、ちびりと足先を湯につけて、ゆっくりと体を湯に沈めていく。
じわあっ。
と、体が湯の熱さに対応していくのが、分かる。
ゆっくりと、ゆっくりと、熱さが体に浸透していく。
『ふいーーー』
私は、思わずオッサンみたいな声が出てしまった。
しかし、オッサンみたいな声を出したのは、隣の七菜さんもだった。
2人で笑う。
「は、ハモってるし!」
「かけ声も同じだし!」
広々とした屋内に、私達の笑い声が響き渡る。
すごくお湯が温かい。
肩まで浸かって、十分体をあっためた私達は、ザブリと湯を出て、鏡とシャワーの前に座り、体を洗う。
「聲?今日の私は三助だから」
「三助?なんですかそれ、七菜さん」
「お客様の背中を流す僕の事さあ!」
「すいません、そんなサービスは頼んでません!」
私は、少し気を緩めすぎたかも知れないと、ジト目で七菜さんを見た。
七菜さんは、少し寂しそうな笑顔だった。
.......その顔をされると、私は弱い。
「変な事しないって、信じてますからね七菜さん!」
七菜さんに背中を向ける。
いや、預ける。
大丈夫。七菜さんは変だけど、変な事はしない。
紳士だから。
ソフトな手拭いに、石鹸を泡立てて、私の背中を優しく撫でるように洗っていく。
何か、背中に熱い鼻息が当たるのを、意識からスルーする。
「はい。腕上げてー」
私が片腕を上げて、七菜さんは腕も洗っていく。
ワシャ、ワシャ、と小気味良く洗っていく。
暖まったのもあって、少し気持ちいい。
「前は、自分でね。いや洗うけど?え?どうする聲?」
七菜さんがお約束なボケを挟んできたので、チョップを頭にコツリとやる。
「自分で洗いますよ。今度は私が、七菜さんの背中流します」
「え!?えっ?いや、でも、いや。お、お願いします!」
テンパり七菜さんだった。
この人、想定外に弱すぎ。
私がお返しする性格て分かってても、テンパるし。
「うひゃー♪聲の手、ちっさー♪気持ちいいー♪」
ワシャ、ワシャ、と背中を擦る。
私は小学生なので強めに擦る。
これぐらいで、ちょうどいい。
伸ばした、腕の手の先の、指先まで丹念に。
「.......た、大変結構なお手前でした」
「.......どこの茶道教室ですか」
......ザザザ!
お湯で体の泡を流して、頭を洗うつもりで、シャンプーに手を伸ばす。
その手が防がれる。
最後まで洗うぜ?
七菜さんの双眸が光りを放ち、そう訴えていた。
まあ、お返しで洗ってあげますけどね?
続く




