物分かりのいい変態だ
カポーン
銭湯の。
それは、それは心地いい音色だった。
外は夕立ち。
ザンザブリの雨の軒下。
小学生と女子高生が2人でずぶ濡れ。
「これは、もうひとっ風呂浴びてけYo!っでOK聲サン?」
「NOです七菜さん!直ぐにやみますよ夕立ちなんだから!」
「でも、ちょっと冷えてきてない、聲?」
「そ、それは.......くちゅん!」
「はい、かわ!こんなん駄目、駄目。鼻血出ちゃう可愛さだからね?自覚しないと!聲サンや。さあ、温まっていくよ!」
私のくしゃみに過剰反応する七菜さん。
鼻血ちょっと出てる。
どっ引きだ。
でも寒くなってきたのも事実。
しょうがないなあ、流れだもんなあ。
手を引かれて、湯のノレンをくぐる。
ずぶ濡れの靴を木箱のロッカーに入れて、木製のカギを取る。
女の文字の曇りガラス扉を開き、番台の婆さんに小銭を払う。
「........良かった、お婆さんで。男だったら無理だった」
「七菜さんでも一応気にするんですね?」
「聲の裸だよ?見たらコロす」
──そこですか。
私のですか。
いや、まだ小学生なんですけど。
想いが若干重い。
というよりこの人に見られて大丈夫か?
いや、寝袋の時も我慢してくれたか......。
そういや、紳士だった。
見くびってたよ、七菜さん。
信じてるからね!
.......ゾワッ!
恥ずかしいから後ろ向きでシャツを脱いだんだけど、凄い視線を感じた。
視線って、こんなに分かるものなの!?
ギギギ.....!とゆっくり視線の元へ顔を向ける。
視線の主は、ガン見だった......。
鼻血を押さえながら、小学生の背中を。
「ひ、ひい!」
思わず後ずさると、七菜さんは笑顔で
「大丈夫、聲。2メートル離れてるから、大丈夫だよ。触ったりしない」
どこまでも紳士だった。
変態的に。
でも駄目だ。視線の圧が凶悪過ぎて。
「七菜さん、見ないで下さい」
「OK。チラ見で行くよ」
......譲歩された。
けど譲らないとこは、譲らないつもりの様だ。
.......仕方ない。
余り抑えすぎても、逆に危険だ。
抑えすぎて欲望が暴発したら、一番近い人だから身を守れない!
「わかりました七菜さん。普通に入りましょう。普通に」
「?」
首をかしげる七菜さん。
心底分からない?というジェスチャー。
腹立つな。
「意識しすぎず、お風呂入りましょう。出来ないなら出ましょう」
「OK、聲」
物分りのいい変態だ。
物分りが良すぎて、何か見落としてないか気になる。
けど、もういい加減冷えてきたので、タオルで体を覆い、七菜さんの手を取ってガラス扉を開く。
「七菜さん。私、銭湯って初めてなんです!」
続く




