一人もいい
「七菜さんのバカァー!!」
あー、やっちゃった。
聲が走り去っていく。
私は、甘木七菜は、忘れていたように、ノロノロと顔を拭く。
「ごめん、聲。1人が気楽ってのは本音」
普段から、1人が気楽ってのは思いはしたし、1人言もあったけど、誰かに伝えたのは、聲が初めてだった。
相手、小学3年生で私高1なのになー。
なにやってんだろ、本当。
我ながら、大人げが無い。
いくら距離が近い聲が相手でも、言っちゃ駄目な本音もあるんだ......。
勉強になった。
今日はバイトも休みだ。
自分の望み通り1人になれたんだ。
休日を謳歌しよう。
私は、ガスコンロでお湯を沸かしながら、カップにインスタントのコーヒーの粉を入れて、ガスコンロの火をぼんやり見ている。
「聲、泣いてんのかな......」
誰に聞かせるでもない1人言。
私は振り返ってみる事にしたみたいだ。
親とは不仲で、このテント生活の大元なんだけど、この独り暮らし。嫌いじゃないんだ。
周りには奇異にしか見られなくても。
バイト先の人も、お客さんも良い人ばっかだ。
そこに、聲。筑波聲との出会いもあって、毎日笑顔が絶えない。
幸せだ。
うん。
幸せ。
「だけど1人もいいんだよなあ」
ニマリと笑う私は、おかしいんだろう。
サイコパスなのかも知れない。
240円を無くして助けてもらった、命の恩人、筑波聲の、心の叫びの友達以上になってくれ!からの、
短いながらも、濃いい雰囲気のお付き合い。
そこから、何気なく突き放した。
本当に何気なく。
聲を傷つけた。
でも、近すぎても駄目なんだ。
ずっと、ずっと、誰かと一緒にいると、狂う。
私が狂う。
ずっと一緒にいると聲を本当に傷つけてしまう。
なんて言い訳しながら、
入れたホットコーヒーを飲みながら、夏の公園の青臭い空気に触れながら、聲を想った。
初めて本音を溢した聲を想った。
時間の進みがこの公園だけ早いのか、結界でも張られているのか、誰1人立ち寄らず私は邪魔されず、聲を想えた。
想っていたら、もう夜だった。
どうりで肌寒く感じた。
結界に誰か1人入ったようだ。
夜の帳に、
筑波聲が立っていた。
「結構回復早いのね」
私は、減らず口を叩いた──
続く




