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第4話 譲れない戦い

「アイネ。なんで一人で領地を出た? 俺たちが迎えにいく予定だっただろう」


 リアは地面に伏していた御者の手当てをしてくれている。

 馬車が壊れた際に軽傷を負ってしまったらしい。

 しかし、馬車を引いていた馬は逃げたのだろうか? 辺りを見渡しても見当たらない。


「……仕方ありませんわ。旦那様に逢えると思うと、気が早ってしまいますの。少しでも早く逢いたいと思うわたくしのこの気持ち……貴方は分かってくれませんの?」


 う……潤んだ瞳で上目遣いは卑怯だろう。

 戦闘後だというのに艶のある赤い髪に、見目整った相貌そうぼうのため、その表情がより男心に響いてくる。

 彼女がリュートの許嫁いいなづけとなる少女、アイネだ。


「──だからってな……ブリッツも連れてこればいいじゃないか」

「嫌ですわ! いつもいつも私の側に彼がいたのでは、我が旦那様との逢瀬おうせもままなりませんもの!」


 本当にめんどくさい! なんでこんな娘になったんだ……俺のせいか。

 しかし、その我儘わがままのせいで御者の彼が……あるいはアイネ本人まで死ぬかも知れなかったんだ。

 許していいはずもなく、かといって説教ってのはな……したことがないんだよ。


 沈黙の時間にバツが悪くなり、小さくため息が漏れた。


「リュート様、御者様のお手当が終わりました。この後はどうなさいますか?」


 なんともいえない空気の中、リアが間に入ってくれた……正直助かったよ。


「……そうだな。とりあえずここにいても仕方ない。屋敷に戻るとしよう」

「分かりました。……しかし、アイネ様たちを乗せてきた馬が見当たりませんね……どうしましょう?」


 馬車は半壊、馬は俺たちの乗ってきた二頭のみ。他には猫と鳥が数羽いるだけ──


「おい、アイネ」

「はい。アイネにございますが、なんの御用ですの?」


 荷を漁る動物たちに視線を向け、彼女の視線も誘導する。


「あれはなんだ」


 半壊した馬車。その荷がなにかは知らないが、その馬車を漁るようにさっきの猫と鳥たちが群がっている。


「あれはおそらく、荷を取り出そうと──」

「ほう?」


 その割には、漁ってる彼らの口元から咀嚼そしゃく音のようなものが聞こえるな……?


「──いえ、違いますわ。彼らへのお食事がまだでしたので、勘違いしてしまったようですわね」


 こいつは悪びれた様子もなく……いくらダメになったものとはいえ、勝手に食べるのはどうかと思うんだが。


「御者のお方、少々お話しがございますの」

「は、はあ、アイネ様。なんのお話でございましょう」


 老年といってもいいほどの男性。

 御者をするには少し辛そうだが、よく手綱を握れていたものだ。


「どうやら私の親友たちが、貴方の荷物を漁ってしまった様子。その無礼を詫びさせて欲しいのですわ。馬車の荷全てを私が買い取らせて頂く、と言う事はできますの?」


 ……アイネのやつ、そんなことを考えていたのか。もしかしてあの動物たちも──いや、考えすぎか。


「そんな滅相もございません! この命救われただけでも感謝しきれないというのに、廃棄になる商品の買い取りまでされてしまっては、私の人生全て費やしたとしても返しきれません!」


 まあ、商人なら当然の対応だろうな。

 しかし、アイネの不満げな表情を明るくするには、買取を受け入れてもらうしかなさそうだ。


「そう言わず、彼女の言う通りにしてやってくれ。そいつも少しは反省してるんだろう。人助けだと思って、な?」

「旦那様……そんなに私のことを思ってくれますのね……?」


 アイネの視線が変に痛いが、気にしないでおこう。

 しかし御者の男性は中々受け入れてくれないな。……仕方ない、多少こちらにも利益を設けさせてもらうか。


「……それじゃ、今後うちとの商売の時に手心を加えてくれ。まだまだ先の長い付き合いになるだろう? 未来にはこちらにとっても利益になる。どうだ?」

「──参りました。では後ほど、手続きの方をさせて頂きます」


 折れてくれたか。理解のある人でよかった。アイネもどこかホッとした様子だな。


「リュート様! 聞いているのですか?」

「──ってぇ。なんだよリア」


 彼女の力で耳を引っ張られるとかなり痛い……なんか声音が怒っているように聞こえるのは何故だ……?


「私との話が済んでいませんよ? どうやって帰りますか?」


 そういえばそんな話の途中だった……結局馬は二頭しか居ないし、そうなれば二手に別れるしかないだろう。


「まあ、二人一組で乗るしかないだろう」


 他に選択肢が無いしな。


「私がリュート様と乗ります!」

「旦那様の背中は、このアイネがお供させていただきますわ!」


 ほぼ同時の発言。当然二人の間に視線の火花が散るわけで……。

 制止しないと面倒な事になりそうだ。


「いやそこはどっちでも──」

「遠慮なさらなくてもいいんですのよ、旦那様? 私は旦那様の将来の妻……! 旦那様と共にあるべきはこのアイネに他なりませんもの!」

「アイネ様は何をおっしゃられているのでしょう? 一生涯、リュート様のお側にいるのはこの私、フローリアですよ? いつも旦那様、旦那様と、迷惑でしかありませんから」


 なんだこの流れは。ただ、誰と誰が同じ馬に乗るか、と言う話でなぜここまでの言い合いになる……?

 なまじ二人の感情を知っているだけに怖くなってきたんだが……。


「そもそも! アイネ様はいつもいつも、リュート様を困らせるようなことをして、どれほど迷惑を掛けていると思っているのですか?」

「私がいつ旦那様に迷惑をかけたと言うんですの? あなたの方こそ、いつも旦那様のお側にいて、元──」

「アイネ!」


 ……あー、思わず叫んでしまった。

 二人の表情もどこか怯えている気がする……。

 おかしいな、確かにアイネの言い分に少しむかつきはしたが、こんな風に言い放つつもりはなかったんだが……なんだか疲れたな。


「俺が決める。二人は黙っててくれ」


 悪いな、二人とも。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が書いた本が重要な道具であり世界観でもあるというのが面白いです。 [気になる点] キャラの掘り下げが少ないというか……主人公は全てを知っているというのが逆にこの際はネックではないのか…
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