表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第2話 読めなかった本

「思ったより軽傷のようで良かったです」

「あ、ああ。情けない主人で悪いな」


 少し腰を抜かしていただけだが、フローリアが心配して確認してくれた。

 ……服を脱がされた時は、恥ずかしさで死にそうだったがな。


「もう……心配させないで下さいよ? リュート様に居なくなられたら私……」


 頭の耳を折り、悲しげに顔を歪める彼女というのは、とても心苦しい……。

 ()()()()()()()()()()()()、彼女のこんな表情をみるのはやっぱり辛いな。


 フローリア──いや、リアに体を見てもらっている間、その気恥ずかしさと闘いながらも、自分の頭を整理していた。

 その整理の中で、いろんな記憶が混ざり合っていることに気づいたんだ。


「本当に馬鹿げた話だな」

「……やっぱり、頭は大丈夫では無さそうですね」

「いや、大丈夫だから! なんでもないから、な?」


 また彼女に心配をかけてしまった……。

 この森の記憶があるのも、彼女を見てすぐに誰なのかを判断出来たのも、これなら理解できる。


 どうやら俺は──我ながら馬鹿な話だとは思うし、あるいは夢の中なのかもしれないが──


 自分の書いた小説の中に居るらしい。


 何を言っているか分からない? 当たり前だ。俺にも分からないからな。

 

 トラックにねられて死んだはずの俺が、どうしてこの世界に居るのかは分からない。

 しかし彼女との過去の記憶も、今の自分の状況も、何故か鮮明に思い出せるし、何より今のこの状況は原作で書いた記憶がある。


 今は確か領主の息子であるリュートが、領地に現れた出所不明の生物を討伐しに来た場面だ。

 リュート──多分俺だな。が傷つき、俺の付き人である彼女──フローリアことリアに助けられる。

 

 ただの偶然かもしれないが、俺の置かれた状況からして十分に考えられる。


「……まあ、リュート様が大丈夫と言うなら、そう言うことにしておきます。では、一度帰りましょうか?」

「ああ。報告書も書かないといけないしな」


 リアと二人、リュートの屋敷に向けて歩き出した。

 

 ……この後の話は確か──くそ、三年も前だと細かいとこが思い出せん! どうしたものか……。



「はは……これがいわゆる、ご都合主義というやつか?」


 思わず声が漏れてしまう。

 あの後屋敷に戻り、狼についての問題を、リュートとして報告書にまとめた。その後に彼の部屋まで来たのだが……。


 リュートの記憶を辿ると、どうにも文字を読めない書物についての記憶があった。

 しかも、本人にも分からないまま、大切に保管していたらしい。


「この世界の人間じゃ読めないだろうな」


 日本語で書かれた本。その表紙には、この世界に存在しないはずの印刷技術が用いられており、機械による明朝体でタイトルが書かれている。


 【最初で最後の物語。】


 俺が初めて書いた作品であり、現世での俺が最後に見た作品。

 ……そして、俺の最高傑作だ。

 幾らかページをめくっても、残念ながら可愛いイラストたちは無いが、そこに記された内容は紛れもなく、俺の書いたそれだ。


「やっぱり一緒だよな」


 物語の冒頭はやはり、さっき俺が出会でくわした場面。

 ホーンウルフとの戦闘中、リュートが手傷を負って、リアに助けられるシーンから始まっていた。

 

 先を軽く読み直しても、この体の記憶にある名前と、登場人物の名前が一致している。

 いよいよ、現実だと認めるしか無さそうだな。


「……まてよ? てことはこの後──」

「リュート様! 大変です!」


 俺の部屋の扉を勢いよく開いて叫ぶのは、当然リア。

 そしてこの後続く言葉は──


「アイネ様が先に立たれたという報告が!」


 ……やはり、書いてある通りだな。本当に困ったお嬢様だ。まったく、誰があんな娘にしたの


「ブリッツ様からありました!」

「なに!」


 ブリッツから報告? 

 おかしい、今回はお供であるブリッツを連れての先走った行動のはずだ。

 彼が一緒にいるから、途中の戦闘も難なくこなして、俺たちのもとへとくることになっていた。


 なのに何故、彼から報告が? 一緒じゃ無いのか?


「アイネとブリッツは一緒にいないのか?」

「はい。ブリッツ様からの報告では、『アイネお嬢様が一人で出立してしまった。すぐに追いたい所だが、僕も今は身動きが取れない。不本意ではあるが、リュートに迎えを任せてやる』とのことです!」


 流石はあのお転婆娘の世話をしているだけあるよ……。こんな状況でも悪態は吐いてくるらしいな。

 彼の性格も俺の知っている通りのようだ。


「……仕方ない。俺たちも急いで向かおう。──嫌な予感がする!」

「分かりました、すぐに準備しますね!」


 リアは嬉しそうに耳をピンッと立てながら部屋を出て行った。……こっちもやっぱブレないな。


 ……しかし、すでに俺の書いた話とは状況が違う──そのままあの小説のように展開する、と言うわけでは無いのか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ