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第8話 原初の力


「ばか野郎……が」ニトが呟つぶやいた。


 丘陵にルナが倒れている。その全身から湯気が立ち昇り、服は裂け、肩口から胸を通り腹部まで大きな焼け焦げた跡が見えている。

 

 髪も半分ほど解け落ちたルナは、落雷の直撃を受けて無残に横たわっていた。シスターの証であるスカラプリオは焼け焦げてその傍らに落ちていた。


「ちくしょう! コイツはもうだめだ。おい、そいつを連れて行くぞ。急げ」


 ニトはダナンに向かって吐き捨てるように言った。


「ああっ……ほれ来い」


 あまりにも唐突な現状に、ダナンも声少なくパルネの首縄を引き移動を始める。パルネは呆然と口を開き、全身をガタガタと震えさせて曳ひかれるままに付き従った。


 残された三人は歩み始め、ルナから離れ丘陵を避けて急いだ。雨がその惨劇を包みこむように降り続けた。


 ザーザーと激しい雨が、丘に捨て去られたルナを打ち続けている。地に横たわるその無残な姿はピクリともすぜ、呼吸も止まっている。


 だがしかし、その魂はまだ活動を続けていた。


 ルナが理性や人としての感情を捨て去り、本能にて活動していた瞬間に雷光を受けたことで偶然に、魂が未知の存在と繋がっていたのだ。


 それと意識の深遠で通じ合うことによりルナとそれは会話を始めていた。ルナはまるで夢を見ているようだった。



◇◆◇◆



 あれ、光の中? なんて温かいの。痛くないし……夢かな。


 あなた……しぬの……いのちのおわり……。


 えっ誰!? なんでなんで……まだ私は生きてるけど……あっ! そうだ、雷に打たれたんだ私……。


 もうおわり……いきもとまった……たましいも……じききえる……。あなたは……ただ……むにかえるだけ……。


 私はまだ死にたくないよ。走ったの、逃げたの……怖いことから。やっと自由になれたのに。そう、死んじゃうんだ私……。そう召めされるんだ私……神様のもとへいくんだ……。




 そういえば……あなたは誰?


 わたしは……わたし……。


 お名前無いの? 私はルナだよ。


 なまえは……ない……ただのわたし……たまたま……そら(宇宙)から……。ひかりで……つながっただけ……ことばは……あなたのをかりているだけ……。


 空から? ……神様なの?……。


 ちがう……かみって……なに?……。


 神様は……優しいんだ……みんなを救うの。


 あなたは……すくわれた?


 ううん、私はダメ……逃げたもの、怖かった、痛かった……。悪い子を、神様は救わないから。ああ、パルネごめんね……おかあさんごめんね……。もっと……いっぱいしてあげたかった。


 ごめんなさい……もっと見つけたかった。もっと生きて……私のできること……。




 わたしは……もういくね……。


 行っちゃうの……空に……。


 わたしは……さがしてる……わたし……わたしはなにか……。


 そう……あなたもなにかを探しているんだな。ごめんね……ひきとめて、でもありがとう。


 ……ありがとう……ってなに……。


 感謝の言葉だよ……有り難いてっことだって。おかあさんから聞いた亀のおとぎ話……だれかの幸せが、わたしの幸せになる。そんな、ふしぎな言葉……愛の始まりの言葉だって。


 わたしに……なぜ、ありがとうと……いってくれるの……。


 だって、消えて行くだけの……悪い子の私の最後に来てくれた……話しかけてくれた。私は覚えてる……あなたがあかりを……煌めきをみせてくれた……。あなたの温かい光りが、私を優しく包んでくれた……だからありがとうだよ。


 わたしのこと……しあわせにしたいの……。


 あなたは、ここに来てくれて……私に話しかけてくれたじゃない。よくわからないけど……でも、先にあなたが与えてくれたよ……だからお返し。


 あなたは……わたしが……ある……ことを……おもってくれるの……。ありがとう……こんなこと・ば……あい()・か……。


 あなた……ルナ……ありがとう……。しあわせ……よくわからない……けど……ほっとする……。ねえ……もっと……いっしょに……いよう……ルナ……。


 えっ!? ……。


 あなたのこと……もっとしりたい……わたしも……じぶんがしりたい……だからいっしょに……。


 どういうことなの……一緒にって……。


 あなたと……わたし……いっしょに……つながる……。ルナ……いき(生き)なさい……ルナ……。


 まってよ! ……なにが、起きるの……。


 あなたを……みたすだけ……。


 私は、死ぬんでしょ……なんの事なの……。


 つくり……なおすだけ……。


 あなたの……たましいは……まだ(ゼロ)じゃないから……。

 

 さあ……はじめるよ……ルナ……。



 ねえまってよ! ……あっ……。


 

◇◆◇◆



 豪雨が降りしきるなか、倒れてくすぶっているルナの胸の上に突如として黒点が現れ、周囲から集まるものがあった。


 空から大気から地から、そこらじゅうから無限にあるかのよう黒点を中心にそれは収束を始めると急激に球体として膨張し、光を成して輝き始めた。


 球体内の振動か衝突かのため、周囲の大気や雨水も煌めき始める。球体の中で目には見えず渦巻くそれは【原初の素粒子(インフィット)】だった。


 この世界を生み出した起源となる物質らの呼称。すべての根源である。目に見える事の無い未知なる物質は、原子などの元となるもので、ある世界では「神の素粒子(かみのそりゅうし)」と呼ばれている。


 ルナを包む球状の煌きらめきは、さらに球体の中からあふれ出る輝きにうながされて光度を増しながら回転しルナのすべてを包みこんでいく。


 それは一瞬の出来事であった。わずか半径2ヤートほどのまばゆいい光体に周囲の大気はそれに耐えかね、歪み引き裂かれて轟音をたてる。ルナを中心に光と風と音の暴威が降り撒かれた。


 ギュギギギギギギギギ――――――――ン!

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 このけたたましい光と音に気づいたニトらが叫んだ。


「うひゃ~! 急げ急げ。死んじまうぞ!」


「なにが~起きてる~!」


 遠ざかっていたニト達は背後に現れた、巨大な現象に恐れを抱き、とうとうパルネを抱えて逃げるように走り出した。


「シスター襲った……神・怒った~!」


「ばか野郎! そんなことあるものか!」


「怖い~!」


 賊の二人とパルネは畏怖の念を覚えて、山小屋を目指して無我夢中に走り去っていく。



 それから半時ほど経つと、丘陵を包んでいた雷雲も先ほどの現象もかき消えて、何事もなかったかのように夏の日差しが周囲に降り注いでいた。




 丘に倒れている少女へ日差しが差し込んでいた。


 ……ここどこ……暑い……。


 少女は目をそっと開け、手を持ち上げた


 ……うっ、眩まぶしい……指……。


 少女はゆっくりと体を起こしてみた。


 ……見える・丘・草の匂い……そう……光のなかにいた……。


 少女は、おそるおそる自分の頬をつねってみた。



「痛った~い! ……えええええっ!」



「私……死んでないの……生きてるの……?」



 ぽかんとするルナ。丘陵に夏草の匂いをまとった風が、そっと吹き抜けて行く。


瀕死のルナへ空から来た謎の遭遇! これが運命の出会いとなります。今後の展開にご期待を!


皆さまから応援していただけると励みになります。

お読みいただきありがとうございます。

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