第4話 逃亡
急な襲撃を受けたルナ達へ更なる悲劇が襲う!
野営地からルナとパルネの二人は木々の合間を縫い、草をかき分けて暗い林の中を二人は互いに身を寄せるように歩く。どこに向かっているのかすでにわからない。月が隠れれば林の中は真っ暗だ。
靴を履き忘れたので足裏を何かが傷つけていく。二人は手を取り合い歩くことで精いっぱいだった。頭部のショールはすでになく顔や腕、足も草木で切り、白い肌に鮮血がにじんでいる。
「「はあはあ」」
ルナとパルネは野営地から60ヤートは離れた。すでに二人は憔悴しきっていたが歩みは止めない。見えない恐怖がそうさせるのだ。
動転から落ち着いたのか、やっとパルネが口を開いた。
「ねえ、なにが起きたの……」
「知らない、わかんないよう……でも矢が刺さっているのを見た」
「襲われたの? どうすればいいの」
「わかんないったら……でも……逃げるの」
「なにからよ、なにから逃げるの、怖い怖い、わたし怖い」
「うるさい……うるさい……黙れ黙れ馬鹿パルネ! 早く走るのよ!」
ルナがパルネを握る手に力を込め先導すると、よろよろと歩いていた二人の歩みが早まって小走り程度にはなった。
生物としてこの世界で命を摘むいできたものは、祖先から受け継いできたものがある。親から子へ自らの生活環境で培った様々な情報を伝えている。
知的な生命であるものは、慣習や風土、知恵や習慣などを子々孫々とつなげている。
しかし、今の彼女らはそんなものではなく、ただ単純に「死にたくない」の一念が体を動かしている。生命進化の過程で培われ、誰しもがその体にその魂に刻み込まれている。
暗い場所にはなにか潜んでいるのではと恐れ、明るい場所は見通しがよく安心と無意識に感じる事ができる。「本能」の「生理的欲求」や「安全欲求」は生存競争の過程において遺伝子に刻み込まれ、次世代に受け継がれている。
ルナとパルネの二人は無我夢中に逃げた。暗い林の中にも木々の隙間から空が暗闇から朝焼けを迎える時間がせまる様子を伝えてくる。
夜目の中で木々もうっすら見えてきた。もうすぐ夜明けがくる。明るくなればきっと助かる。二人は何の裏付けもなく、そんな思いを抱き始めていた。
「きゃあ!!」「ぎゃっ!」
無我夢中に逃げていた二人が、もんどりを打って転倒した。
「痛い! 痛い! 足が……」
「なに!?」
二人の思いは、単なる幻想や希望だった。木々を縫い地面からワンキュピックの高さに泥で汚れた小太い縄が張られており、それに足を引っかけて転倒したのだ。
それは狡猾に目立たず獲物を絡めとるために無情に張られた襲撃者の罠。
突然の転倒で強く体を地面に打ちつけた二人。体中が林の土壌に汚れ、全身に痛みが走る。
再び襲った恐怖と痛みにパルネが大声を上げた。
「痛い~やだ~助けて~!!」
ルナはパルネの前をかばうように走っていたため、パルネにのしかかられて、パルネ以上に顔面や肘・膝をしこたま打ちつけ裂傷を負っていた。白い太ももには枯れた枝が刺さり悶絶する。
「くうう~!」
苦悶の表情とともに意志とは関係なく言葉にならない悲鳴がもれたルナ。
ガサッ・ザザッ!
草が揺れ、音が二人に近づく。
それは二人にとってさらなる厄災を告げる音だった。
注)1ヤート:ヤードと同様にこの世界の長さの単位。90~100cmほど。
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