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第45話 冷たい刃と心変わり

ウヌムに見つかったルナと飛び立ったインフィニティ! ガスパルはまだか!



 ガスパルの元を黙って離れたルナは、パルネの元に急いでいたが、砦内へ至るとすぐに地下二階への搬入トンネルに落ちる事態に陥った。そんなルナを案じたインフィニティは、急ぎガスパルの元へ飛び立つ。一人残されたルナは、不審な扉の中のどこかにパルネがいると考え、扉の鍵を探すために一室に潜入したが、変質狂のウヌムが扉の後ろに隠れ待ち構えていた。


 突如声を上げて押し扉の裏から、ウヌムが現れてルナの背後から襲い掛かる。


「血だ、血の匂いがする。ひゃあははははは! 何処から来たんだ!? いいぞいいぞ! お前も実験体にしてやる!」


 ウヌムは叫びながらルナの背中へ手を回すと、ブラウスを掴んで石床へ投げ飛ばした。あまりに急な出来事に反応が出来ないルナは、なすすべもなくもんどりを打つように転倒したが、すぐに背後のウヌムを見上げて言葉を投げつける。


「痛っつ、よくもやったわね! パルネは何所! あんたなんか絶対に許さない!」

「へえ~、あのボインちゃんの知り合いか? もしかしてお前もシスターか?」

「そんな事、どうでもいいでしょ! さあ、早くパルネ達を返しなさい!」

「う~ん、なかなか興味深いぞ。どうして此処に来たのかなとも思ったが、そんな事はどうでもいい! さあ、チビ助大人しくしろよ~。ははははは!」


 ウヌムはそう叫びながら手を伸ばしたが、ルナも負けてはいない。その手を払うと直ぐに立ち上がり恐れる事もなく飛び掛かって行った。




 丁度その頃、砦内へ侵入できる場所を求め、何とか崩れ落ちた入口付近まで来ていたガスパルの元へインフィニティがたどり着いていた。早口で事の仔細を伝え始めたが、少しその様子がおかしい事に気づいたガスパルだった。


「やっと見つけた! 早く地下へ行ってあげて……、ルナが怪我したよ……、それからなんだっけ、そうあれだ、砦の中に結界の……やはり有りそうで……、えっと――?」

「どうしたインフィニティよ、お前までどうした? ルナは無事なのか」

「うん、大怪我は……、えっとしてないんだよね?」


 ガスパルの目には、碧い光をまとうインフィニティの妖精の姿が、樹海の中より随分と薄らいで見え、そんな様子に内心もしやと思っていた。


「インフィニティどうした? ずいぶんと影が薄くなって来たぞ。今ルナはどうしてる」

「あれ! ほんとだ? あっ! まずいよルナの事が、よく見えない!」

「お前、結界の中でルナから離れたせいではないのか?」

「……そう、そうだ。きっとそうだよ。でも早くルナの元へ行かなきゃ」


 インフィニティは結界の中でルナから離れた事により、自分本来の力が大きく削がれてルナとの繋がりまでが切れそうに思えて慌てたが、そんな様子を見ていたガスパルは冷静だった。


「お前も普通じゃないようだな、おかしくなっとるわい。場所は分かるか?」

「う~ん、さっきの牢よりまだ下だったはず」

「なら、このままでいいから、わしをその方角へ導け!」

「わかってるよ、さあ、あっちだ!」


 インフィニティは促されるままに砦内の見取りをなんとかイメージして飛び始め、ガスパルはその後を追従する。


 地下二階では、ルナとウヌムが取っ組み合いとなっていた。必死の形相でウヌムに飛び付いたルナは、両手で精一杯の力をこめてウヌムを掴み、何とか倒そうとしたが非力なのでびくともしない。そんなルナに腹を立てたのか、ウヌムは目下にいるルナの髪の毛を掴んで顔を持ち上げると、ニヤッと笑い、ルナの頬を平手で打ちのめした。


「きゃあ!」再びルナは後方へ弾き飛ばされるように態勢をくずし、そのまま机に体をぶつけた。同時に机が大きく揺れ動き、上にあった器具類が床へ散乱し音を立てた。


 ガチャン! ガシャッ! パリ―ン!


「ああっ! はうう!」

「ひゃはははは! ガキが俺に敵うわけないだろう! いい加減にしろ!」


 ウヌムは目の前の、か弱いルナの姿に興奮しさらに大声を上げた。この地下2階での二人の大騒ぎが、他へ伝わらないわけはない。ルナとウヌムが争う音を聞きつけた、小鬼(ゴブリン)達がまず大騒ぎを始める。


「ギャ――! キャキャキャキャ――! ギャ――! ギャ――!」

「キー! ッケケケケケキキイ! ケケケケケケケケケケケケ!」

「テャハハ! ハママママ――!」


 興奮していたウヌムの大声に条件反射を示し、女を与えられる喜びに満ち満ちて興奮し、一斉に牢屋の中で鉄鎖を引きずりながら大合唱だ!


 流石にこの小鬼たちの酩酊した大騒ぎは、階段を伝わり地下1階へ、そして地上へと続く通路まで届く事となった。



 始めに気づいたのは地下一階にいる、デュオと(マスター)セイドと意識のあった囚われの女達だった。丁度、パルネの牢から出て来たデュオと、この騒ぎに居間でくつろいでいたセイドまでが驚き、通路へ飛び出してきて鉢合わせした。


「一体何事だ! 小鬼どもが騒いでいるではないか!」

「マスター……。悪いが俺には見当もつかない……」

「デュオ! なら早く見に行かんか!」

「…………」

「馬鹿者! 早く行け! 何を黙っている!」


「マスター、……俺は、もう嫌だ、こんな事はもうたくさんなんだ!」

「なに~! お前気でもふれたかのか!」

「いや、そんなんじゃない。……もうあんたには従えない」

「ええい埒が明かんわ! この俺を怒らせたらどうなるか後で後悔するなよ!」


 捨て台詞を吐いたセイドは、その手を震わせながら自分の言いつけを聞かないデュオに業を煮やして地下2階へと駆け下りて行った。


「ああ、つい言っちまった」

 デュオは自分が思わず吐いてしまった言葉を噛み締めて、立ち尽くしているとその背後へ足音も立てずに迫る影。


「動くな」


 デュオの背後から忍び寄ったガスパルが、短刀を首筋に突きつけた瞬間だった。


「だだっ、誰だ!」

「死にたくなければ動くな」ガスパルは、短刀の刃を頸動脈にあてた。


「わっ、分かった、分かった。降参する!」

「パルネとルナは、何処だ」

「えっ! お前、パルネの知り合いか?」

「だったらどうする?」


 デュオは、この時これも俺が招いた結果だと後悔もしたが、それ以上に違う感情を抱えている自分が冷たい(やいば)を突きつけられているのに何処か冷静になれてほっとしていた。


「分かった、彼女は何とかしよう」

「もう二人だ、ルナとクララと言う娘もおるだろう」

「色々とお見通しか。あんた、只者じゃねえな。でも、ルナって娘は悪いが知らん」

「ここには、あと何人いる?」

「娘達のことか? 九人だ。それに、関係者が二人と……」

「早くせんか!」

「言っても信用しないと思うが、……小鬼が十一匹いる……」

「なんじゃと……。小鬼がいるのか!」


 デュオの口にした小鬼。ガスパルは信じられなかった。


 まさかこんな所でその名を聞く事になろうとはと。


 デュオを制圧した筈なのに、目の前が暗くなるほどの思いでがガスパルの脳裏をかけ巡ったが、眼前に飛び出して来たインフィニティの言葉で我に返った。


「急がないと! それにこれ何だ? 近くにあるこの感じは何処かで……」


「どうした、それにとは! それはどこにある! 結界の源は何処だ!」


 珍しい事に冷静なガスパルが、インフィニティをまくし立てていた。


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