第40話 メメント・モリ
砦を目指して夜の森を進む三人。ふとした事から驚く事実が明かされた。
ルナとガスパルの一行は、インフィニティの発見した道らしき通りを草陰に隠れるよう進み始めた。四半時ほど歩くとガスパルが比較的背丈の低い草の生える地面を見つめてルナに伝えた。
「ここをよく見ろ」
「これ、轍。馬車の通った跡……」
これで確信に近い証拠を得たガスパルは、インフィニティへルナに戻るようにと伝えるとすぐに理解した妖精インフィニティはルナの中に戻った。
……ふう、ルナと一緒だとやっぱり落ち着くなあ。
……それ、どういう意味よ?
……さっき感じたモノが、ちょっとね。
……気になるのインフィニティ?
……うん。あっ、あそこだ。道なりの先! なにかある!
……いよいよって事ね。
インフィニティから聞いたことを即座にガスパルへ伝えると、再び腰のポーチから水晶玉を取り出し確認をすると、先ほどより濁りの部分が増えている。
「うむ、間違いなかろう。どうじゃインフィニティよ、もう少し分らんかの?」
この言葉を聞いたインフィニティはルナに通信をした。
……ルナ、目を閉じて。
……えっ? なんで?
……いいから早く~。
多少の疑問は湧いたが、ルナが黙って目を閉じると頭に流れ込んでくるモノがあった。インフィニティが感じている情報が直接流れ込んで来たのだ。
「あっ、これは! 感じる。いや見える!」
「どうしたルナ、大丈夫か」
「ちょっと待ってガスパル。……あるよ。なんて言えばいいの。
……森が切れた先に。……真っ暗なのにわかる、感じる。……漆黒の影」
ルナは跪くと胸に両手を当てさらに集中を高めて行く。
全身がほのかな金色に包まれ始めた。
「なんじゃと! お前は見渡せるのか?」
「インフィニティが感じるモノが私にも伝わる……影の中……あったよ砦」
ガスパルはルナの語る内容に驚いていた。
同時に彼の記憶が甦る。
何故なら彼が知る限りにおいて、《《失われたテラ神の巫女の力》》、”千里眼”をルナが顕現させた為だった。
そして……ガスパルは突如顔面に冷や汗をかき、その手が震えている。
「ルナ……。お前の母は何という。名は何という」
「何よ急に、今集中してるんだから変な事聞かないでよ」
「……何というんだ。お前の真名を教えてくれ」
「まったくこんな時にもう。お母さんは、メメントよ。メメント・ウィウェーレ。
だから私の真名は、Rna Vivereよ。お父さんはよく知らない」
その名を聞いたガスパルは絶句した。
――メメント・ウィウェーレ。まさかキリエの妹……そんな馬鹿な!
インフィニティとルナ、これはテラ神の導きなのか!?
ルナは目を閉じているので、ガスパルの驚いたその表情が見えていない。
ふ~っと、ため息を吐いたガスパルは額の汗を拭い、さも何もなかったかのようにルナに話しかけた。
「いや、すまんすまん。急になホレ、お前が変わった事をしたからな。なんだイヤイヤ、何でもないわい」
「変な爺様よね。さて、もう一回……」
ガスパルは、ルナに気づかれなかった事に安堵しながらも思っている。
――キリエの為にもわしは死んでも構わんがルナは必ず守る。
*****
もし、この世に神様がいるとすれば、なんという運命をお与えになるのだろう。
辛く険しい道程を歩むことをなぜ指し示すのだ。
神の御心は誰がためにあるのだろう。
運命は死を想い、生きる事を忘れるなと示した。
*****
……インフィニティ、これ砦が漆黒の壁で囲まれてる。
……そんな感じだね。普通なら見えない壁だよ。
……嫌な感じがする。
……私もだよルナ。
目を見開いて立ち上がったルナは、体にまとっていた明かりが消え、行く先を睨んだ。
「ガスパルどうすればいい? 漆黒の見えない壁に砦が囲まれてる」
「見えない壁か、なにやら厄介そうじゃな」
「見えないけど、触れると悪い事がきっと起きる」
「……そうか、それは結界かも知れんな」
その言葉にルナはガスパルを振り向いて続けた。
「結界ってなに?」
「お伽話にも、なかなか出てこんが、真に悪しき者、真に正しき者が使う技の事じゃよ」
「なぜ、そんな事知ってるの? それは魔法なの?」
「昔のな、戦であったそうじゃ。互いが身を守るため、滅ぼすために使っておった力の一部らしい。ほれ、こう見えてもわしも冒険者だったからな」
「触れるとどうなるの?」
「……多分、侵入がばれるな。悪くすればもっと悪い事が起きるじゃろう」
「だったら、どうするの?」
「事を焦るなルナ。失敗は許されん」
「判ってるよ、だから聞くの。……私は解らないから」
ルナは、真剣な眼差しを向けて問い続けた。ガスパル自身もこれ等の技には対抗手段を持っていなかった。
――ルナが、もし巫女の力を使えればとは思うが、だが無いものねだりかの。
「実際は、お手上げじゃな、穴でも掘るかの?」
「バカな事を言わないでよもう。真剣に聞いてるのに」
……ははあ、いい事聞いたよ。
……えっどうしたのインフィニティ急に?
……だから、穴掘ろうよ。この前みたいに。
……もしかして、煉瓦の壁と同じに?
……でもルナにやって欲しい。あまり触りたくないんだ。
……どうして? 今まで、何でもやっちゃったじゃない?
……う~ん。なんとなくだけどね。
そんな会話を経て、ルナはガスパルへ内容を伝えた。
「私が穴を開ける。その結界とやらに」
「まさか、そんな事まで出来るのか?」
「インフィニティに教わりながらだけどね、ぶっつけ本番だけどやるしかないよね」
――やれやれルナには驚かされるばかりじゃが、これも運命か。
ガスパルは、そう思いつつも成功を祈った。
きっとこの娘なら成し遂げるだろうと。
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