第29話 異種
ルナ達が酒場ノンベで不思議な妖精との出会いを過ごしていた同時刻。
ここはバレンティアの北にある砦跡の地下一階。
三人の男たちが円卓のイスに腰かけてなにやら会話をしている。
石壁に囲まれた暗い室内にはランプが一つ。全員黒のフード付きローブをまとい、ローブの下は白い半袖ロングのシャツにズボン、足元は皮のブーツを履いていた。
「シスター二人だったはずだが」
「師、奴らが攫えたシスターは一人だけです」
「仕方がないだろうウヌム伝者。しかし数だけは足りたぜ」
師と呼ばれた、歳を取った白髪頭の男が、やれやれと毛の薄くなった頭を掻き始めた。
その時ローブの袖がめくれて右二の腕に入れ墨が見えた。
それは『0』の文字を現している。
「一人シスターではないが、実験は行わねばならないだろう」
「しかし、それでは予定と違い件数不足で比較結果が不安です」
「取り敢えずは血液を採るとしよう。デュオ伝者、下の奴らの様子はどうだ?」
「糞尿に興味を示していたな。臭いをかぎ、舐め取っていた」
師は少し考え込んだが、二人に指示を出した。
「仕方がないが始めるとするか。記録は丁寧にな」
「はい、師。では育成中の状況から確認いたします」
会話が終わるとウヌムとデュオの二人の伝者は部屋を出て行った。
残された師と呼ばれた男は円卓で紙巻の煙草にランプから火をとり煙を燻らせ始めたが、とてもいら立っている様子だった。
「変異や増殖にどれだけの実験が必要だと思っているんだ」
「これがどれだけ大変か学士でもない中央の奴らに何が分かるか」
そう吐き捨てると煙草を石床に投げ捨て踏みつけた。
部屋を出て行ったウヌムとデュオの二人は、通路反対側の一つの鉄枠扉の鍵を外して一つの牢獄の扉を開いた。
その中には一人の鉄首輪を施された若い女が、石床の上に藁を編んだマットレスの上で臥せっていた。女の腹は大きく膨れ、ぐったりとしており動く様子はない。
「二十一号は順調ですね。もう三か月目ですから」
「やはり、異種間の交配は上手く合うと成長が速いな」
「今までの例ではもうすぐでしょう。出産まで……」
二人は、小さめな木の板の上に羊皮紙を置き羽ペンで記録を始める。
「えーっと、六十四日目。腹囲に異常なし。不正な出血なし。食事は摂れていると」
「なあ、今度はどうだろうな」
「そうですね、腹囲の大きさからみて通常でしょうね」
「変異体ではないのか」
「まだ、分かりませんけど。交配具合はまだ条件が確定していませんから」
記録が終わると、二人は隣の牢獄の扉を開けた。
「うっ! しまったなあ」
「またかよ、これ死んじまってるぞ」
「う~ん。出てるこれは……手ですかね?」
「俺は好きじゃないんだな。こういうのは……」
ウヌムとデュオの二人が入った牢獄には先ほどと同じように、女が一人臥せっていたがすでに息を引き取っていた。
腹部や下から多量に出血しており衣服が赤黒く染まっていた。
「二十二号だよな。まだ二か月経ってないだろ」
「ええっと五十三日ですね。急激に発育して腹が耐えられなかった様子ですね」
「ふう、この辺の塩梅は難しいな。今の所は三対一か」
「はい、変異二・増殖一・死亡一の割合です」
「なかなか上手くいかないもんだ。仕方ないとっと片づけるとするか」
そう会話を済ませた二人は、女の亡骸を取って来た麻袋に詰めて担ぎ出した。
地下一回から亡骸を地上階へ上げると、砦敷地内の大きな深い穴に麻袋を投げ捨てる。
「また、奴らの餌か」とデュオ伝者は上空の黒の鳥を見上げる。
「なあ、ウヌム、生まれた奴らを何処に運んでるか知ってるか?」
「いえ、私達学士は詳しい事を知らされてませんから」
「俺、師宛ての手紙を見たことが有るんだよ」
「本当ですか!」
デュオが慌てて、ウヌムに小声で続けた。
「し、静かにしろよ。……それに此処と同じ場所があって、競っている様子だ」
「はああん、それで最近、師の機嫌が悪いと」
「まあ、そうだろうな。しかし、奴らを一体何に使うんだろう?」
空には黒の鳥がたくさん集まり、鳴き声が増していた。
「さて次の牢屋の観察をするか」
「全て終わったら新入りのえ~、二十五号と二十六号の瀉血をしましょうか」
「抜きすぎなようにな。それと血の中傷に使うカビや酵母は足りるかな」
「分かってますよ」
「一人は初めてのシスターだな」
「はい、良い結果が出ればと思いますよ」
「しかし、育ちや生業の違いで差が出るもんかね」
「異種交配では女の血液性質と奴らの相性とで変化有りと結果は出てますからね」
「ここにきて半年か……。いつまで続けるんだろ」
「きっと奴らとの明確な交配条件が見つかるまででしょう」
「聖なるシスターか。逆にとんでもない化け物を生んだりしてな?」
「それはきっと、神か悪魔の思し召しでしょうね」
「神ねえ……俺はこんな事は止めて占星学をやりたいぜ」
デュオは、今の現状をめんどくさそうに話した。
「さて、小鬼どもにも水と雑穀をやらないとな」
「死体をそのまま与えられた楽なのに」
「バカ! 肉の味を覚えたらきっととんでもないぞ」
「おお、恐ろしい。くわばらくわばらですね」
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