第22話 崩壊
またまた、読者様よりブクマとご評価を頂く事が出来まして、誠にありがとうございます。また、描きたい気持ちがふつふつと湧いてきました。これからも宜しくお願いいたします。
集まった暖かい光の中で、私の腕の中には、小さくて痩せた男の子がいた。
じっと私の顔を見つめて、その小さい手でそっと私の頬にふれてくれた。
その手は、とても弱々しくて震えていた。
大丈夫? 坊や。そっと、声をかけた。
うん、僕は大丈夫だよ。と、口を開いてくれた。
おねえちゃん、ありがとう。と話してくれた。
そう、良かった。心配したの。と返事をした。
嬉しかった。僕の手を握ってくれて、ありがとう。
そんな事ないよ。私がそうしたかったんだから。
お母さんみたいな、優しい手。僕、嬉しかった。
本当に、おねえちゃん……ありがとう……。
小さな男の子が、そう話すと頬にふれていた手が、力なくすべり落ちた。
そっと、手を拾い上げてみたが、脈は取れない。
その小さい男の子の頭をなぜて、こう告げた……。
私、何もできなかったね。本当にごめんね……。
◇◆◇◆
降り注ぐ日差しの中でルナが、男の子を抱きしめて座り込んでいた。
「うっ、ごほっ、ごほっ! ゲホゲホ!」
ルナは激しく咳き込んだ。一面に土埃や白い煙が立ち込めている。
腕の中には男の子がいる。首は下がりきり、ぐったりとしていた。
「僕、僕! しっかりして、大丈夫!」
男の子の手にふれ脈をとるが、少しも振れない。
「この子死んじゃう! 誰か! 誰か助けて!」ルナは、大声をあげて叫んだ。
ルナの周囲は、もうもうと立ち込める白い煙や土埃でとても見通しが悪かった。
しばらくすると、ふいてきた風が白い煙や土埃を払っていく。煙が薄まり、今度は見渡す限りに煉瓦が散乱している様子が伺えた。
ルナから10ヤート程離れた先に、煉瓦の下敷きになった男が倒れている。もっとよく見渡すと、鉄柵の籠が同様にルナの周囲で、煉瓦の瓦礫に埋まっていた。
「なにこれ……」ルナは、その光景に呆然とした。
……ルナ、やっちゃったね。
インフィットが、通心してきたが、今のルナには、その声も耳に入らず、小さな男の子をギュッと抱きしめ、目を閉じてしゃがみこんでいる。
そのうちにスラムの人々が、ここへ集まって来た。皆、手で埃を払いながら、用心深そうに歩いてい来る。
「なんだこりゃ!」
「ひでえな!ばらばらじゃねえか」
「さっきの、でかい音聞いたかい?」
「おうおう、びっくりしたぜ」
各々、言葉を口にしながら20数名の野次馬達が集まって来ていた。
「ひゃ~。奴隷商の家が、瓦礫の山だ」
「みんな、死んじまったんじゃねえのか?」
惨状を見て口々に声を立てた。そんな喧騒の中で、ルナは瓦礫の中心でじっと動かず座り込んでいる。フードは落ち、ブロンドの長髪も土埃にまみて風になびいていた。
「ルナ~!」
野次馬の後ろから、聞き覚えのある声が響いた。そう、ガスパルとアレクだ。ルナをスラム街で探していると大きな音に気付き、この場に駆けつけてきた。そして野次馬達の先にルナを発見したのだ。
「はあはあ……ルナ……」
「これは、一体何じゃ……」
ルナの身を案じて一生懸命に走ってきたが、この光景にガスパルもアレクも立ち止まってしまった。
「――火薬か。いや、匂いがせんな」
ガスパルは、戦いの記憶から推察したが、どうも違うと理解し、アレクはこの光景を見て身震いをした。
「ルナ、大丈夫か!」
アレクは、あっけにとられていたが、我を取り戻し崩壊した煉瓦の小山を登り、ルナの側に駆け寄った。
「ア、アレク……」
ルナは懐かしい顔を見た。いや、さっき別れたばかりだが、今の彼女の心には、そう思えて仕方がなかった。ほっとしたのかルナは、大声で泣き始めた。
「ああああああ~ん。助けてよアレク! この子を助けて~!!」
頬に大粒の涙をたらしながら、恥ずかしげもなく号泣した。
ガスパルも瓦礫を乗り越えて近づき、土埃まみれで髪も服もくすんでいるルナが、その胸で大切そうに抱いている男の子に、そっと手を伸ばし抱き上げたが、その子を見てガスパルは首を横に振る。
「ルナ……もうこの子は死んでおる」
「うそ、嘘だ、ヒック、さっきまで私と話をしていたんだよ」涙ぐみながらルナは返す。
「嘘は、言わん。さあ、立て。ルナ」
「いやあ~、嫌だよ~」首をふり駄々をこねるルナ。
ルナが立ち上がれずにいた時、何人かの野次馬達が、瓦礫の中にやって来て洩らしている。
「まったく、ひでえなあ」
「おい、そこに埋まってる奴、その靴は奴隷商のケビンじゃねえか」
「そうだ、そうだ。あっ、ひでえな、ぐちゃぐちゃだ」
「隣の家も倒れてやがる」
「おいこっち見ろよ。奴隷が埋まってるぞ。まだ、息がある!」
「おい! みんな来いよ、助けるぞ!」
そんな声が、瓦礫の山の現場に響いた。奴隷たちは、鉄柵の籠の中にいたため、倒壊した煉瓦に押しつぶされずに済んでいたのだろう。こんな状況でもスラム街とはいえ、人の心を持つ者達もいる。
「その子達は、大丈夫かえ」
一人の年配の女性が、よっこらせとガスパル達に近づいて声をかけてきた。
「ああ、心配いらん。じゃが、抱いているこの子は、もうだめだ」
「そうかい、小さいのにねえ。こんなに痩せてしまって」
「ご婦人、わし等は旅の者でな、この男の子を頼めんかな」
「大したことはできないけどね……。埋葬だけでいいかい」
「ああ、ありがたい」
ガスパルは、そう言うと年配の女性に、そっと男の子を手渡した。
「ほんに、可哀そうに」と女性はそう言いながら、近くにいた男へ声をかけると、スラム街では、良く知られた女性なのだろうか、その男が手伝いその場を離れて行った。
「ルナ、さあ行くぞ」
「うっうっうっ、ヒック……」
泣きべそかいているルナが、ガスパルに促がされて、やっとゆっくりと立ち上がり歩き出した。
ルナの座っていた場所を中心に、半径20ヤートほど地面がえぐれ、奴隷商の建物が崩壊。また周囲の建物も倒壊していた。死者4名、重軽傷者13名の大惨事だ。この世界で一瞬の出来事としては、驚くべきものだった。
注)10ヤート:約10m
毎日更新の予定です。
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