第17話 行動
いつもありがとうございます。今日はお休みなので2話投稿できました。初投稿から12日が経ちましたが、思いもよらぬ、ご評価とブクマを頂いており、読者様に感謝をいたします。この気持ちを忘れないよう、まずは1章の完結を目指します。
「どうだい、似合うだろう」
ルナの着替えを手伝ってくれたアイラが、ガスパルとアレクにお披露目をした。
「クゥクック……」
「……」
ガスパルは口を押さえて笑い、アレクに至ってはボーッとルナを眺めていた。
「なに笑ってるの、ガスパル」
「いやいや、どう見ても男の娘じゃ。おかしくはないぞ」
「うん、男の子です」
「おやおや、よく似合ってるね。これなら大丈夫だろうね」
……ねえルナ、ガスパルなんで笑ってるの……。
……知らないわよ!……。
ガスパルが、ルナがバレンティアに向かう条件として、修道女の姿ではない事だったが、アレクの母アイラは、気を利かせたのか、アレクの子供の頃の服装を持ってきたのだった。
上は膝までの長いシャツにフード付きのケープと下はズボン。ブロンドの髪は、束ねてアップしフードで隠すことが出来た。色合いは素朴なものだった。
「じゃあ、行くわよ」
「よし、行くか」
「行きましょう」
三人の息があったところでいよいよバレンティアへ出発となった。しかし、パルネが攫われてから二日目。時間の猶予はなくなってきているのを感じている三人は、三者三様に心に誓う。
……待っててねパルネ、絶対に助けるから。私はあなたを取り戻す……。
……さてと、会いたくはねえが仕方ない。訪ねるとするか……。
……クララ待っててね。――そして、ルナを守らないと……。
バレンティアへは徒歩で、二時ほどで到着できる。道すがら出会う人々は少なく、まれに幌馬車が通り過ぎて行いった。
日が少し高くはなってきたが、空気はまだ澄んでいて気分も良いルナは歌っていた。子供の頃に覚えた夏の歌を。
――夏の日にヒマワリが、お日様を見つめていた。いたずらな風がその頬をふるよ。季節の変わりが、遅れるようにようにと。
――水辺で遊ぶ二人の子が、それを見つめていた。僕らは一緒に手を取っているよ。季節が変わっても、いつまでも友達でいよう。
甘く切ない調べで歌い上げるルナ。
……へえー。歌ってこんな感じのものなんだ……。
……そうだよ、誰が作ったのかなあ。吟遊詩人さんかしらね……。
「ルナ、お前こんな事出来るんかい」
「あたりまえでしょう。ミサの時とかにも歌うんだから」
「いい声だねルナ。ビックリしちゃったよ」
三人とインフィニティの道中は、和やかに進んでいた。気は張っていても、まだまだ子供のルナだった。
バレンティアの街に着き、城門前で衛兵に止められたが、アレクが顔なじみのため、親せきという事で、すんなりと通してくれた。この街は貿易都市でもあるため、比較的出入りがし易いという。身分を証明するのモノは、立派な服装や紋章などの権威を持った品々や、一番は知れた顔という事だろう。
街に入ると、アレクが街並みを説明してくれた。今歩いているのは、南門から市場へ続く商店や出店が並んでいるエンプティオ通り。ルナの住んでいたトレインの街とは、大きく違い人や物が多くて、いい匂いまでもしてきた。ルナは、思わずきょろきょろと見渡してしまう。
「ああっ、いい匂いがする。だんだんとお腹もすいてきたし、何か食べたいなと。あれは何かしら。ソ、ソーセージじゃない美味しそう」
「こら、はしたないぞ」
「いいの、私は男の子だから。ガスパルお金頂戴。修道院出るときに貰ったでしょ」
しぶしぶ、腰の革袋から銅貨を10枚ほど手渡した。旅で残ったら酒を飲もうとガスパルは、思っていたのでルナの指摘は痛かった。
「まったく。ほら無駄使いするなよ」
「それとよいか。ニト達を見かけたら逃げろよ。昼の鐘が鳴ったら市場に集合じゃからな。アレク頼んだぞ」
「はい、大丈夫です。僕とルナはクララのいる屋敷を訪ねてきます」
……やっと自由になれた。よし、行動あるのみよルナ。あいつ等を見つけて、何としても手掛かりを探さないとね。でも先ずは、アレクの用事と美味しいものを食べたいな。
……まずはクララのところだな。でも、ルナと二人きりになっちゃった。どうしよう。
二人の考えは様々だったが、各々の目的へ動き出す。ガスパルは、街の路地を伝い、教会のある街の中心からは離れた西へ向けて歩んでいた。彼には、訪ねるべき場所があり、そこに向かっていた。ルナとパルネは、市場の散策をしながら、幼馴染の奉公先、フェイス家へ向かう。
◇◆◇◆
「……うっ、痛い」
背中の痛みに気が付いて目を覚ましたクララは、自分が横たわっているのだと感じ、ゆっくり目を開けた。そこは暗くて見通しが悪い。湿り気を帯びたカビの匂いがする。顔を上げようとしたが『チャリッ』と音がして首に違和感を覚える。慌てて首元に手を添えると分かった。
「――首輪。なんで、ここどこ」
クララは、次第と暗がりに目が慣れてきた。ひんやりとした鉄首輪につながる鎖を握りながら見ると、天井は石でできていて、左手の壁も石でできており、その上のほうに一か所、小さな明り取りの窓の蜘蛛の巣に虫がかかっているのが見えた。
その反対側の右手の壁に小さめの鉄枠の扉が一つ。――ゆっくりと体を起こして、ここは牢やなのだと分かってきた。
……なんで、こんな所に……そうだ。私は捕まったんだ。
状況がつかめてきて、そのまま体を起こすクララ。その目に人が映った。自分と同じように鎖につながれて横たわっている。よく見ると灰色のブラウスを着た女性のようだった。恐る恐る声を掛けてみる。
「……ねえ、誰。ここどこ……」
しばらくすると、自分に向かい合うように寝そべっていた、その女性が口を開いた。
「……気が付いたのね……私も知らないの。あなたは誰?」
「私は、クララ。あなたは?」
「パルネ……パルネと言います」
先に捕らわれたパルネと昨夜捕らわれたクララが、きしくも出会った瞬間だった。
毎日更新の予定です。
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