第14話 インフィニティ
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ルナは、アレクを探しに外へ出たが、なかなか見つからない。その時にあの声が木霊した。
……あっちあっち……ルナ……また迷ってるの……。
「えっ! この声! 神様!?」
「どこ? どこにいるんですか神様」
……ここだよ。わたし、あなたと一緒にいるっていったよ……。
ルナは周りを見渡すが見あたらない、何度振り返っても足元を見ても神様はいなかった。
「神様どこにいらっしゃるんですか? お姿を現してくれませんか」
……ここって、いったよ……ルナ心を集めて……。
そう聞き止めたルナは、即座に両膝を着き、両手を胸に組み目を閉じて祈りを捧げる。
あっ、胸元が暖かくなった……あの時と同じ……。
ひざまずいたルナの胸元へ集まってくる。怖くはなかった。
目にすることはできないが、それは確かに集まり収束し、小さな灯りへと姿を変えていく。
集まってきたもの、そうそれは【原初の素粒子】だった。
年に数回の青き月と同じような、やさしい色で輝いた。
そして煌めきを増してゆく。ルナの胸元で光体をなすと、その明かりは分かれて、ルナから少し離れ周囲を包み込むように柔らかに煌めいた。
『……もういいよ。目をあけてルナ……見えるかい……』
祈りの姿勢からそっと目を開けると、手を組んだぐらいの大きさで、すぐ目の前にあの時の煌めく光が空中に静止していた。ふわふわと浮かんでいる。
「あ……っ、ありがとうございます。神様」
ルナはその情景に感激していた。修道女として教えを受け、毎日毎日、祈りを捧げていた彼女にとって、目の前で具現化したその様子は、奇跡との遭遇だった。
『このほうが話しやすい?』
「はい、神様」
『だから、わたしは神様じゃないって……』
「では、なんとお呼びすればいいのですか」
『そう言われても、どうせつめいすれば。なんて言えばいいの』
「無理なことでしたら申し訳ありません」
『ルナ、好きなように呼んで欲しい』
「はい、神様」
『違うと言ったばかり』
「はい、神様」
『でも、話しできた。一緒だったから借りた言葉もりかいしてきた』
「はい、かみ・いえ、はい」
ルナは碧い光を、きらきらとつぶらな瞳で見ている。この時は神に仕える従僕な下部として感極まっており、我を忘れて目の前の碧い光とチグハグな会話を続けている。それほど感極まっていた。
……ああっ、本当にいたんだ神様って。私を助けてくれた神様。嬉しい。
『ルナ、また神様って言った。全部丸聞こえだよ』
「えっ!? どうしてわかるんですか?」
『ルナと私は繋がっている。ルナの胸をみて……』
いつのまにか胸元には、ガスパルが救われた奇跡の光があった。
……でもこれ……なにか金色のような? まさか光輪の……いや、そんな訳ないよね……。
ルナは驚いていた。自分の胸の印を中心に放たれている金色の輝きは弱くほのかで、日が差せば分からない程の明るさだったが、しかしその色は空に輝く太陽の光を象徴する聖なる色で、神々がまとう色だったからだ。
「はあ、訳わかんないです。でもなぜ私の胸に光や印があるんですか」
『ルナは、体といしき。いのちある有機物。いしきの奥底とわたしがつながるにはよかった。ルナのいしきのもと魂は胸元にあったから。わたしと魂が光で交わったときに印できた。強く繋がると印も光るみたい。見てルナ、わたしに体はある?』
「ないです。輝いてるだけに見えます」
『そう、わたしに有機物ではなく意識だけ。ルナがわたしと話しやすいように光をつくる。でもよく分からない。なぜ意識だけ有るのかが……でも繋がるとこうもできる』
……わたしの声、きこえるねルナ……。
……あっ、はい。聞こえます。心でお話しができるなんて……。
神様もとい、未知の意識が話す内容は理解に苦しんだが、心と心が通っていることだけは分かったルナだった。
「じゃあ、これは御印なんですね。あなたとの繋がりの。――あの~、お聞きしたい事が他にも山ほどあるんですが」
『どんなこと』
「ガスパルを助けてくれたあの光は奇跡の光ですか?」
『きせきの言葉、まだりかいできない。でも、多分、わたしみたい』
『この世界にあふれてる、【原初の素粒子】で、有機物を小さなところから元の形までに作りなおした。考えることなく出来た。なぜそう出来たかは、よくわからないけど』
「やっぱり意味わかんないです。でも、インフィットを使って助けてくれたんですね」
『そう。今はそれでいいと思う』
「でもそれが、私をガスパルを救ってくれました。私にとってはやっぱり奇跡で神様のお力です」
『う~ん。神、奇跡ってやっぱり理解できないよ』
「インフィットかあ。無いと不便だしね、失礼よね。インフィット、インフィッタ……インフィニ……」
『考えてくれてるの。わたしのなまえ』
「あっ、ハイ。本当に不思議です。全部分かって貰えるなんて」
『今は近くで、繋がってるからかな。でも、ありがとうルナ』
「ふふっ、ありがとうって言ってくれた。じゃあ、私からもありがとう、インフィニティ」
『気に入ったよ。私の名前はインフィニティ。ルナが私がある証をくれた。ありがとう』
「インフィニティは、私とガスパルの命の恩人。こちらこそありがとうございました。でも、神様でないとは、ちょっと残念かもです。うふふ」
『ありがとうって、あたたかいねルナ』
「はい、お母さんからの言葉ですからね」
『それじゃあ行こう。探してた人いるよ』
「はい!」
インフィニティはそう言うとルナからゆっくり離れて、また道を示しだした。光に先導されてゆっくりと従うルナは、とっても楽しい気分だった。歩きながらも会話は続く。
……ねえ、インフィニティ、あなた妖精さんみたい。ふふふ。
……ようせい、それはなあに?
……私が子供のころ、お母さんが話してくれた童話の主人公。
……小さくて可愛いんだ。そんなふうに光ってふわふわと飛んでるの。
……ふうん、妖精ねえ……。
……いつか、絵本があったら見せてあげる。妖精さんが頑張るの怖い小鬼や怪物相手にね。
……じゃあ、楽しみにしてるよルナ。
……インフィニティはどこから来たの?
……う~ん。どこだろう。覚えがあまりないんだよ……。
心のなかで会話を続けて打ち解けてきたルナとインフィニティが、しばらく歩いていると村の川辺までやって来た。
……ほらあそこだよ。水のそばにいる……。
……本当だ。こんな所に居た。でも、なぜ分かるの。
……なんでだろ、でも遠くは分からないかな……。
……不思議、まるで魔法みたい。じゃあ私は彼に声をかけるから、光は消えないですか?
……そういうことか。ここでは人が光ったりしないんだね。じゃあ消すよ……。
インフィニティが告げると、光球はふっと消え、ルナの胸元も元に戻った。ルナはそのまま、アレクに近づき、声をかけると川辺で膝小僧を抱えていたアレクも気付いて振り返った。
「アレク、探したよ」
「ルナ……」
……男の子って、こんな感じなんだ。拗ねてるみたい。女の子だったらもっとあの時に話しをしているよね。慰めたほうがいいのかな。どうしよう……取りあえず側に行ってみようか。
ルナは、アレクの側に腰を下ろすと会話を続けた。
「どうしたの、ガスパルやお母さんの言葉に怒っちゃたの」
「そんなんじゃないよ……」
「強くなりたいんだよね。彼女の事が、――好きなの? 守ってあげたい?」
「…………」
「私もね、守ってあげたい人がいるよ。……助けたい人が」
「ルナには、好きな人がいるんだ」
「うん、とっても大切な娘。でも、私は逃げちゃった。怖くて逃げた……だから謝りたいの……」
そこまで話すとルナの口は止まり、抱えた膝を震わせ顔をうずめた。肩もふるえている。逃げてしまった自分が許せなくて、自分のとった行動を後悔していた。
口を閉じ伏せた目からは涙がこぼれ落ち、とうとう泣きだしてしまった。そして謝罪の言葉をつい口にてしまった。
「ご、ごめんねパルネ、ごめんね……うぅ……うぅ……」
「ルナ、大丈夫?……泣いてるの」
「ううっ、ヒック、うう」
「僕も彼女の事が、そんなに好き思えたらなあ。小さい頃からいつも側にいたからよく分かってなかったんだ。きっと」
しばらく泣き続けていると声が聞こえた。
……ルナ、大丈夫?……。
インフィニティが語り掛けた。勿論、アレクには聞くことが出来ない。
……あっ、インフィニティ。そうね、泣いちゃったんだ私……ありがとう。しっかりしないといけないよね。
ルナは、顔を上げて川の流れに映るおぼろげな月を見つめた。
「アレク、ごめん。泣いちゃった私」
「いいよ、僕も何か分かった気がする。ルナのおかげだよ」
「これからどうするのアレク……」
「――僕も謝りに行く。クララに会って話がしたい」
「そう、じゃあ私も付き合おうかな。えへっ」
「ルナ……そんなにしないでもいいよ」
「まっかせてよ。迷える子羊は私が手伝うよ。女の子同士なら取り持ちはOKだよ」
「えっえっ~やめてよ」
「いいや、乗り掛かった舟だし、一緒に行くからね」
「恥ずかしいから、止めてよ~」
「駄目~!!」
こんな二人のやり取りがカナク村の川辺で繰り広げられていた頃、バレンティアの街にいたクララは、そっと屋敷を抜け出して、城門に急いでいた。アレクに会いに行くために、酒場の常連で知り合いの衛兵に、門を開けてもらうつもりだった。
急ぎ足で城門に向かうクララ。
向かった先の城門では、仮眠室の奥で衛兵以外の者達が酒を飲んでいた。やけ酒を食らっているようだ。そこには、ニトとダナン、悪仲間の衛兵と二人はそこに居たのだ。
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