第12話 カナク村
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ルナとガスパルの一行が、カナク村についた時には日も傾き、夕方となっていた。道中に不審者は見かけず、近隣の村人と思われる数名とすれ違ったぐらいだった。カナク村の近くには小川が流れ、その周囲に畑があった。
農奴主体の村民は領主に租税を納めるために畑を耕す。日々こつこつと働き街の市場や街の名家、たまに来る商人に卸しては小銭をたくわえて暮らしている。領主がいる土地では、農奴への租税は人頭税が普通で、単純に頭割りのため、凶作の際は税を納めきれず、農奴たちには辛い仕打ちが待っている。
バレンティアに近いカナク村は、村民は多めで50世帯、約80名ほどが暮らしている。しかし、働き手の成人した男らは、出稼ぎや先の内戦で亡くなり人数が少なく、老人世帯や母親と子供で暮らす母子家庭が多く存在していた。村では共助で暮らすため村人の結束が強い。弱い者は集まり助け合うしかない。
夕刻となり、村人の往来は少ないようにみえる。村の入り口付近まで来たガスパルが話しかけた。
「わしは先に村に入り、様子を確かめる。大丈夫なら泊めてくれる家がないか村長あたりに相談してくるから、ルナはこの木の下で待ってな」
「うん、早くしてね」
会話が済むと周りを警戒しながらガスパルは歩を進めた。
夕陽を見ながら、今朝からあったことを思い出すルナ。修道院で暮らしていた時には考えられない出来事の連続で頭の中はぐちゃぐちゃになり深いため息をはいた。
「はぁ~」
……これから、どうなるんだろう。早くパルネを探さないといけないのに……。
木の下に座り込んで思いにふけっていると、ガスパルと入れ違うように一人の少年が走ってくる。こんなに遅くになんだろうと、木の陰に隠れるように覗き込んでいると彼はどんどん近づいてきて声をかけてきた。
「シスター! お願いがあります!」
「へっ?」
ルナの目が点になった。彼は肩で息をしながら続けた。
「ぼっ、僕の懺悔を聞いて下さい」
「ほぇ?」
突然の申し出に驚き、返す言葉がみつからない。確かに自分が修道女とわかる格好をしているので、遠くからでもすぐに聖職者とわかるのだろうが、シスターになったばかりで懺悔を聞く事などはないために緊張した。
「急にどうしたんですか。えっと、あなたの名前は?」
よく見ると自分よりはるかに背が高く年上に思えた少年は語りだした。
「あっ、申し訳ありませんシスター。僕は、アレクといいます。実は、三日前のことですが……」
「ちょ、ちょっと待って、え~となんていうか、うん私は確かにシスターですが、まだまだ未熟者です。あなたの懺悔を、お・お聞きするなど私にはまだ値しておりません」
「そんなこと言わずに聞いてください! じゃないと苦しくて……」
彼は一生懸命に訴えかけてきた。この国の多くの住人は聖オリエント教会の信者で占められており、アレクもそうなのだろう。無神論者や異教徒を見かける事は少なく、10年前に終わった内戦は、宗派の違いにより始まったと教団からルナは教えられていた。
「ねっ、アレクさん……少し座ろうよ」
彼の一途な気持ちを感じたのか、ほってはおけない気がした。そう告げるとルナは先に膝を折り腰かけた。
「あっ、ハイ……」
促がされるようにアレクもその側に座った。
あ~ッ、ドキドキする。こうでもして間を作らないと自分でもどうしていいか分かんないよ。いいことルナ、あなたはシスター。迷えるものは救わないといけないのよ。でもね、男の子の事はよく知らないし、話すなんてひさしぶりで緊張する~。⦅クスッ⦆んっ? なに?
まあいいわよ、え~となにしゃべろうかな。そうそう、まずはやんわりと聞き出すのよ。お悩みごと聞いてあげるぐらいの感じでいいはず。あ~早く爺様戻ってこないかな。ええい勇気を出して声をかけるわよ。うん、落ち着いて私はスシター。違う違うシスター。うん。
「悩み聞いてくれるんですね。ありがとうございます」
「えっ?」
「聞こえてました。独り言。おかしいなあ、アハハ」
独り言が緊張でいつの間にか口から漏れていたことにルナは赤面した。
「ふう、早く言ってくださいよ。いじわる」
「「あははは」」
緊張が解けた二人は笑った。夕焼けを見ながらルナもアレクも久しぶりに笑った。
「ねえ、アレクっていくつなの」
「17歳になるんだ。でもシスターって、こんなに気さくでいいの」
「う~ん。私まだ新米だから無理して威厳出そうとしたら舌噛んじゃうよ」
「そんなもんか。シスターのお名前聞いていい」
「私は、ルナ。花の16歳であと半年もすれば同い年だね」
「えっ、もっと下だと思ったよ。そんなに小さいのに」
「どうせ私は、あちこち小さいチンチクリンですよ。ふん!」
―― ちびっ子体系にコンプレックスがあるルナだった。
「ごっごめん、つい仲良し…友達みたいに話してしまって……」
「いえ、いいよ大丈夫慣れてるから。では汝のお悩みを話したまえ」
「実は、……三日前に……幼馴染と……」
「ほう、恋愛相談……ね?」―― やべ~経験ないよ。
「違う違う、彼女とはそんな関係じゃない……」―― う~深刻そう。
「あやまりたいんだ、クララに」―― ふるのふっちゃうの?
「情けない自分がいたんだ」―― あっ、ふられたんだ。
「謝りたい」―― あ~やっぱりふるんだ。
「次はきっと助けてやると伝えたい」―― んっ!?
「奴ら、ニトなんかに負けない自分になるって」
その言葉にルナは、アレクを見据えてその両肩をつかんだ。唇がふるえていた。
「今、ニトって言ったよね。詳しく話して、さあアレク!」
ルナの目つきが変わる。口調が激しくなる。険しくなった瞳には憎悪の炎が見えるようだった。
注)人頭税:単純に人数で税を払う仕組み。老若男女でも税額差がなく過酷。
注)共助:共に助ける、地域で助けること。
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