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第10話 喜びと影

「じょ、嬢ちゃん……」


「うわ~ガスパル~! よかった~ 生きてる~あ~あ~!」


 大泣きしながらガスパルを覗き込んでいたルナは、その胸に抱き付いていた。親の胸に子供が飛び込み泣きじゃくっている。


 そんな様子のルナの頭にそっと手を添え目を閉じて撫でるガスパル。そのまま四半時ほどの時が過ぎて行く。


「ルナ、もう大丈夫だ。泣かなくてもいいんじゃから」


「うっうっうっ……わああ~」


 ルナは、耐え難い思いがあふれ出して堰が切れたように泣いた。最後はガスパルが生きている嬉しさのあまり泣いていた。


「うっうっ……ご、ごめんなざい……」


「いいんじゃ……ほれ、起きるぞ」


 ルナが身を起こすと、ガスパルもそれに追従ついじゅうし半身を起こした。


「ルナ! お前!」

「えっ? なに?」

「なんで裸んぼなんじゃ! はしたない!」

「うひゃ~!」


 無我夢中で裸のままだったのずっと忘れていた。顔を真っ赤にして、あわてて胸元と股間を手で隠した。二人の間に気まず~い時が流れる。ルナから視線をはずしているガスパルに問いかける。


「見たよね……」


「し、知らんわ……」


じじい……見たでしょう……」


「知らんもんは知らん! そんな、()()()()・・」


「ガスパルのバカ~!」バチン!!


 正直者のガスパルの頬にルナの平手が叩き込まれた瞬間だった。


「もう、向こうむいててよね。スケベじじい」


「ふん、勝手に裸で抱き付いておったのはお前じゃろうが」


 顔を赤らめたままガスパルの側から離れ、自分の背かごから雨で湿った修道着を取り出して身にまとい始める。着替え終わったころ、ガスパルが矢が貫いたはずの腹をみつめながら口を開いた。


「なにが、どうなったんじゃ……わしは其処そこのヤツを始末したまでしか覚えておらん」


 ルナは促されるように視線の先にある、まだ残っている血だまりに、うつ伏した男をじっと見つめて死んでいることを理解したが、今は祈る気持ちになれなかった。


「あっ、あのね……わたしとパルネがね……、そのパルネが連れていかれたの……」


「そう、早く助けなきゃいけない! 行こうよ!」


「まてまて、要領ようりょうがえんぞ。もっと詳しく話せルナ……」


 ガスパルに促されて、ここまでの経緯をぽつぽつと話し出した。賊の罠にかかり、連れ去られたこと。豪雨の中逃げ出したこと。不思議な光が起きて神様が自分やガスパルを助けたことを。


「ふう……そうか賊はまだ二人いたか。でも奇跡とは信じられん」


「わっ私だって、今思うと不思議でしょうがないけど生きてるよ私たち。……それに……しょう……」


 話の途中でルナは、急に口ごもった。


「どうした、ルナ?」


「いや、ううん。なっなんでもないよ」


 ……すぐ隠したし……見られてないよね……胸の印……これは見せてはだめ……。


 ……絶対ダメ……入れ墨にみえる……。


 ルナは自分の胸には「∞」の印があることを思い出していた。何故ならこの世界では、体に入れ墨を入れることは、罪人や悪魔崇拝者らを差し、体に示す重大な禁忌きんきとなっている。ましてや修道女のルナにおいては断罪の対象になりかねない。


「まあ、いい。確かにわしは二本の短矢を受けて気を失った。普通なら助からない。傷も無いようだしな」


 穴の開いた皮鎧を見つめながら、ルナの説明を聞き続けるガスパル。


「パルネのことだが、もうここらにはおらんだろう」


「えっ、なぜ!」


「いいかい、お前の話では賊は、わし等のことを待ち伏せたようじゃ。わしは別としてもシスターのお前達が目的としか、思えてしかたがない。嬢ちゃん達二人を連れ去る事が奴らの仕事じゃろうな」


「じゃあ、どうするの。パルネはどうなるの」


「まあ、まて……もう一つ気になることがある」


「なに……教えて」


「実は噂なんじゃが、バレンティアの周辺で行方不明の女子おなごが増えていると聞いておる」


「それって、どういうこと……」


「わしの勘だが……今回の件といい、色々と不自然すぎる。きっと人さらいが動きまわっておるに違いないが……なにか裏がある……ふむ……まさか……」


 ガスパルの勘は冒険者ならではのものであったが、しかし、今はそれを示す状況証拠が乏しく、それ以上は口にしなかった。


「ルナ、まずは丘までは行く。しかし何の痕跡もなければ、そのままバレンティアへ向かう。いいな」


「でも、でも、パルネが心配。きっと酷いことされてるわ……」


「そうじゃな……しかしわし等は出来ることをするしかない。聞きわけてくれルナ。神様がきっとパルネも助けてくれる」

「うっ」


 ガスパルに返す言葉が見つからないルナ。目から大粒の涙があふれ、唇を噛み締めた。


 そうね、出来ることをしなくっちゃ。パルネを絶対探す。私あきらめない。


「わかったよ。ガスパルさん行こう」


 ルナは、そう言うと頬の涙を拭い、野営地の荷をかたずけ始めた。それを聞いたガスパルも痛い腰をトントンと叩きながら立ち上がった。


 荷物を持ち二人は丘陵まで来たが、豪雨のなかでの出来事のため、足跡などの痕跡はやはり見つからず、ガスパルはため息をもらした。


「これだけ見ても何もないか。……行くぞルナ。カナクへ」


 ルナは肩を落として歩きだした。


 二人の次の行き先は、バレンティアの街の手前にある農村のカナク村だ。二人は周囲に注意しながら街道を急ぐ。


 バルネはバレンティアに居る可能性があるとガスパルは考えていた。カナクで情報を集めないとルナも危ないに違いない。彼の洞察力はそう告げていた。


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お読みいただきありがとうございます。

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