魔法少女戦隊ミラクル・リスキィはとってもデンジャー
この作品は差別を助長するものではありません。むしろ逆。風刺が理解できる方のみ目を通して下さい。
「僕と契約して魔法少女になるといいニャ」
「なる!」
目の前の黒猫のぬいぐるみ、のような、謎の喋る三頭身の生き物の言葉に、疾風の速度で飛び付く女の子がいる。
「よっし、これで私が憧れの魔法少女に! 一回やってみたかった! わっほい!」
「か、軽いニャ……」
拳を握り突き上げる少女。謎の三頭身の黒猫のような生物の方が困惑しているようだ。まばたきして女の子を見上げている。
「えぇと、説得するのに時間がかかると思ってて、いろいろと考えてはきたのだけど、全部無駄になってしまったニャ?」
「あー、魔法少女もいろいろと作品が増えましたからね。魔法少女をいぶかしんでピンチになるまでなかなか変身しないとか、強制的に魔法少女にされたりとか、やっと変身するのが最終話とか」
「わりと怪しまれたり、ときには自分の頭の方を怪しんだりされるものニャ」
「そういうドラマも悪く無いけれど、私としてはウダウダやってないでやるかやらないかズパーッて決めなよ、とも思うのです」
「人生の一大事を軽く決められる人はなかなかいないものニャ」
「そんなつまんない安定にしがみついてる一生よりは、おもしろそうな事に全力で突っ込んだ方が、充実した人生というもの! 公務員なんて働いてるとこ見てもぜんっぜん楽しそうじゃない! 社会科見学逆効果!」
「悟ってるニャ? それとも何も考えてないニャ? 勢いよく魔法少女になってくれるのは有り難いニャ、だけどやる気が有り過ぎて不安を感じる子は初めてニャー」
「憧れの魔法少女ですよ? やる気にならない方がどうかしてますよ? あ、でも私のなりたい魔法少女は王道の夢と希望の魔法少女。おかしなキャッチーどころを狙った変化球の、危ない殺人鬼みたいな魔法少女とか、魔法少女を集めて生き残りバトルのデスゲームとか、噛まれたら魔法少女になるとか、お前も魔法少女にしてやろうかー! っていうのだったらイヤ」
「そんな特殊な魔法少女じゃないニャ」
「お前の後ろに魔法少女があ!」
「最近の魔法少女、怖いのが多いのニャ?」
「数が増えると目新しさを求めて、今までに無いものをしようとして邪道が増えたりとかしますねー。他にはエロいのとか?」
「卑猥なものでは無いニャ」
「触手とかイヤですよ?」
「いったい何を参考にしてるニャ? ちゃんと地球人類の夢と希望を守る正義の魔法少女ニャ」
「いいですね! 夢と希望を守る正義の魔法少女! 王道が一番! プリティでキュアキュアなのが良いです! 略してプュアです!」
「え? 今、なんて発音したニャ?」
「そして私がその魔法少女に! アイテムはなんですか? 変身コスチュームはどんなですか? 必殺技はなんですか?」
「落ち着いて話を聞いて欲しいニャ。君には魔法少女の力で悪い奴等と戦って欲しいニャ」
「バトルメインですか? 私、このときの為に合気道を習ってましたよ!」
「そんな動機ニャ?」
「これまでケンカで負けたことありません。ふんす!」
「戦闘慣れしてるのは都合がいいニャ。魔法少女には精霊の力を宿して変身してもらうニャ」
「精霊! ファンタジー! いいですねいいですね!」
「それで、精霊には地水火風空の五つの力があるニャ。これを宿す五人のメンバーが必要ニャ」
「魔法少女戦隊ですね、五人の絆の力で戦うんですね。燃える展開!」
「君は相性的に火の赤ニャ」
「五人組で赤となれば、センターでリーダーですね、わっほい! 私がリーダー! ファイヤー! 並んで決めポーズはド真ん中! 輝くエフェクトの中でキラリシャラーンビシ!」
「ポーズは後で決めるとして、それで、五人のメンバーを集めなきゃいけないニャ」
「あ、それ、私がやるんですか? 他のメンバーは?」
「君が最初の一人ニャ」
「じゃ、友達のナナミちゃん誘っていい?」
「どんな子ニャ?」
「いつも私と一緒に遊んでくれる優しい子。クラスメートでいつも一緒で、怒られるときもいつも一緒」
「それって、アホの子の面倒を見るポジションに嵌められた、気の弱い世話焼きな子ニャ?」
「誰がアホの子ですか? アホの子って言う方がアホの子なんですよ?」
「この場合、アホの子というのはキャラの属性の表現で、個性が凄いということニャ。いい意味でアホの子と言っているニャ。アホの子というのは行動力のある元気可愛い子のことを現す、褒め言葉なのニャ」
「なるほど! 私、褒められてましたか! 納得です! いつも元気で誰も止められない行動力と言われてますから」
「で、そのナナミちゃんをメンバーに誘うとしてニャ」
「あとは友達のー」
「あ、ちょっと待つニャ。クラスメートをメンバーに入れられるのはそのナナミちゃんだけニャ」
「え? どうしてですか?」
「君のクラスメートって、日本人ニャ?」
「そうですね、外国人はいませんね」
「だったら日本人で入れられるメンバーは、君とナナミちゃんと、あと一人だけニャ。差別問題に引っ掛かるニャ」
「差別問題?」
「黄色人種しか魔法少女になれない、なんていうのは人種差別ニャ。夢と希望を守る魔法少女が人種差別なんてしちゃいけないニャ」
「なるほど、人種差別は良くないですね」
「願えば白色人種でも黒色人種でも魔法少女になれなきゃいけないニャ。魔法少女は子供達の夢と希望を守らなきゃいけないニャ。そういうわけで残る三人には、白色人種と黒色人種を入れてバランスを取らなきゃいけないニャ」
「おおー、魔法少女もコンプライアンスが大事なんですね。でもうちの学校に外国人いたかな?」
「地球人類のことについては、けっこう勉強してきたニャ。個性という違いはあっても、機会は均等にあるべきニャ」
「そうですよね、人の価値は学校の成績なんかで計れないんです。頭の良し悪しで人を区別なんてしちゃダメなんですよ。だいたい国語、算数、理科、社会のテストの平均点を出す意味が私には解りませんよ? 国語と算数じゃゼンゼン問題が違うのに、何故、同じもののように点数を足して割るんですか?」
「この国の教育の基準がよく解らないニャ。そっちは後回しにしてメンバーについてニャ。五人のメンバーについて、一人は男の子を入れるのニャ」
「男の子なんですか? 魔法少女戦隊なのに?」
「その言い方は男女差別ニャ。男の子だって魔法少女になりたい男の子はいるニャ」
「いるでしょうね、魔法少女は子供達皆の憧れですから」
「子供だけじゃ無く、歳を取って四十過ぎのメタボなおじさんだって、会社の窓際に押しやられても、窓の外を見上げて、『ああ、俺も魔法少女になりたいなあ』と、思ってるかもしれないニャ」
「仕事中にそんなことを考えてるから、窓際に追いやられて肩を叩かれたりするのでは?」
「というわけで一人は男の子を入れるニャ」
「メンバー集めの難易度が高いですねー。魔法少女やってもいいって男の子、うーん、ナナミちゃんの弟ならやってくれないかな?」
「できればLGBTにも配慮したいニャ。Tは男の子に魔法少女をさせるということで良しとするニャ。Gは難しいとしても、LかBは入れておきたいニャ」
「あ、それなら私、たぶんいけますよ。可愛い子なら男の子でも女の子でも好きです。むぎゅってして抱き心地が良いのは、女の子の方が柔らかくてふにっとしてて良いですね」
「君をリーダーに選んで正解だったニャ。これだけ気を使ってメンバーを集めれば、何処からも文句は出ないのニャ。そして子供達の夢と希望も守れるのニャ」
「そうですね。人種問題に男女差別にLGBTにも配慮して、これならハリウッドで実写映画化しても何も問題有りませんね」
「メンバー集めを始めるニャ」
「日本の魔法少女のコスプレしてる人の、フェースブックからコンタクトしてみましょうか。えーと、白色人種と黒色人種から一人ずつ」
「五人揃うと必殺技が使えるニャ」
「それは燃えますね! がんばります! 先ずはナナミちゃんに電話してー、あ、もしもーし? ナナミちゃん? へろー♪ 私、魔法少女になるから、だからナナミちゃんも魔法少女になってね。あと弟君も誘ってねー」
こうして困難と思われたメンバー集めは、リーダーの苛烈なる行動力で意外とあっさりと五人のメンバーは集まった。
精霊の力をその身に宿す、魔法少女戦隊『ミラクル・リスキィ』が、ついに結成されたのである。
地球人類の夢と希望を守る為に、愛と正義の魔法少女戦隊『ミラクル・リスキィ』の戦いの幕が上がる。
「キイロイ、ニッポンジン、シンジマエー!」
「デンジャー! なんですかあれ?」
「あれが魔法少女の敵ニャ! 悪の秘密結社ニャ!」
「たしかに、どこからどう見ても只者では無い悪者って感じをメキメキと感じますね!」
「かつて七色の力を宿した男が壊滅させた筈の組織が、昨今の民族主義とポピュリズムの台頭で甦ったのニャ! あんな奴等を好きにさせては子供達に悪い影響を与えてしまうニャ!」
「ですね。というか子供よりも大人に悪い影響がありそうな感じがします。子供の方がおかしいものはおかしいなって、感じるものですよ?」
「とにかくニャ! あんな差別的で支配的な集団を野放しにしては、地球人類の夢と希望は守れないのニャ!」
「愛と正義の魔法少女としては放置できませんね! 法治的にも!」
「というわけで戦うのニャ! 魔法少女戦隊ミラクル・リスキィ! 危険な思想の差別主義者を皆殺しにするのニャ!」
「皆! 変身するよ!」
こうして魔法少女戦隊ミラクル・リスキィは戦った。その戦いは激しく、また白い三角頭巾を被った謎の組織が参入し戦いは一層激化した。
しかし、愛と正義の魔法少女戦隊ミラクル・リスキィは挫けない。四人の少女と一人の男の娘の五人組は、仲間達の絆を確かめあい、不屈の根性で何度も立ち上がり、地球人類の夢と希望を守る為に戦い抜いた。
そしてついに、差別的で支配的な悪の秘密結社を打ち破り、壊滅させ、地球人類に平和と平穏が甦ったのである。
「何故ニャ? どうしてニャー?」
だが、魔法少女戦隊ミラクル・リスキィの戦いは、その内容と敵の組織が危険過ぎるとされ、公共の場で放送されることは無く、封印されてしまった。
魔法少女ミラクル・リスキィは、親が子供に、『あんなもの見ちゃいけません!』と言われ、彼女達五人の活躍はまるで無かったことのように、人々の目につかないようにと隠されていくことになる。
魔法少女戦隊ミラクル・リスキィそのものが、放送禁止用語のような扱いを受けたのだ。
「えー? アニメ化も実写化も無しですかー?」
「なんでニャー? いろんなところに細かく気を使って地球人類の夢と希望を守って、傷つけるところはひとつも無かった筈ニャ! クジラだって守ったし、信教の自由にも部落差別にも配慮したのニャ! 逆に差別的な集団を滅ぼしたニャー!」
「がんばったのになー、ちぇ、ざんねーん」
だが、世間から何と言われようと魔法少女戦隊ミラクル・リスキィの戦いは、まだまだ終わらない。
「アーリア人こそ最も優れた人類デース!」
「我らエミシの民こそが真・日本人! ヤマトの民は日本から出ていけ! この侵略者!」
「ネオ・ブラックパンサーの再結成だ!」
「え? なんでアジア人がヨーロッパにいるの?」
「WASPこそがアダムの血を引く、真に魂持つ神の子なのだ!」
「治安が悪いのも、景気が悪いのも全部、移民のせいだ!」
「非正規雇用者が正規雇用者様に口答えするな!」
地球人類から悪意のない先入観、区別による偏見が無くならない限り、マジカル・リスキィの戦いは終わらない。
「あいつら何処から湧いてくるニャ? 地球人類の教育と道徳はいったいどうなっているニャ?」
「教育だけでは無理なんじゃ無いですか? 皆マウントとる行為が好きですねー」
「レイシストは皆殺しだニャ!」
「皆! 変身するよ!」
戦え! 魔法少女戦隊ミラクル・リスキィ!
子供達の夢と希望を守る為に!
地上から差別が無くなるその日まで!