#5 俺の布団と後輩……と、女騎士。
優しい風に吹かれて響く、風鈴のような音色の声。これは――。
「先、輩? そこで、何してるんですか?」
「……な、夏音か」
突然、俺の背後に現れたのは、“幼馴染み兼元学校の後輩兼現バイト先の後輩”――街風夏音という少女。
漫画みたいな名前をしているが、稀少姓というツチノコみたいな存在らしい。
つむじ風と言うより、街に吹く優しい風のように現れては、夏の音色のような心地好い声で何かと絡んでくるのだが、決してエロゲみたいな関係ではない。
「……見てた?」
自販機の前で、なぜか一緒に屈んでいる後輩に確認する。もし、自販機の下に落ちた金漁りの趣味を見られていたのなら、俺はすぐに死のうと思う。
「……見てたとしたら、なんです?」
こっちの顔を覗き込むようにして見つめてくる夏音の表情からは、少し大人びた、いたずらっ子のような雰囲気を感じなくもないが……。やはり見られてたのかっ?
「……先輩が、死ぬと思うよ」
「じゃあ、見てません」
マジか! 見られてなかった! 勝利の女神は俺に微笑んだぞ!
「だ、だよな! 何も変なことしてないしな! じゃあ用事あるし、俺帰るわ! またバイトでな、夏音!」
俺は自転車にまたがると、その場から逃げるようにして走り去ろうとしたのだが――。
「先輩っ、待ってくださいっ! あ、あのっ……。いつもみたいに朝やお昼じゃなくて、今夜、先輩の家にご飯を作りに行ってもいいですかっ?」
は?
「エ……ロゲ?」
やはり、エロゲなのか……?
やはり俺は、知らず知らずの内に、エロゲの世界に迷い込んでいたのかっ?
「先輩……」
な、なんだその目は? その目は、イエス・ノーどっちの意味なんだっ?
「す、すまんな、夏音。俺としては3秒でエロゲは大歓迎なんだが、前も言ったように、夜は色々とあって大変なんだ。本当に、大変なんだ……」
「そう、ですか……。じゃあまた、お昼にでもご飯を作りに伺いますね、先輩っ」
「いつも助かる。ありがとな、夏音」
俺は後ろ髪をローラーで巻き取られそうな思いで後ろ髪を引かれながら、その場を後にした。俺の能力を恨みながら。
◇
――夜。我が家の布団にて――
『……殺せ』
「なんなの?」
バカなの? この女騎士。この世の終わりみたいな顔で、俺を見ながら開口一番の台詞がそれなの?