#2 俺の布団とプロローグ。その2。
『そう、あれは、ワシが50歳になった頃――』
「いや、興味ないし、こっちは眠いのだが……」
いったい何が悲しくて、こんな疲れ果てた状態で、見ず知らずの怪しいおっさんの話を子守唄代わりにせねばならんのだ?
『王の仕事にマンネリを感じていたワシは、いつしか、新たな刺激を求めて全税率を80%にまで引き上げていたのだが――』
「バカなの?」
『そう、あの頃のワシは、実に愚かであった。その過ぎた行いを大いに反省したワシは、大臣達の妻と娘に片っ端から手を出し、町娘もまぜて酒池肉林したのだが――』
「アンタ最低だな!!」
『なぜか、臣下と民草がブチギレおってな。ワシの王宮に襲撃をかけてきたのだ』
そりゃそうだろうよ!
『ワシ悪くないのに……。悔しいから、ワシの王宮にあるありったけの大砲をブチ込んで、ついでにゴーレムも投入してやったのだ』
『それでも、臣下や民草の勢いを止められなかったワシは、国外脱出を図ったのだが、卑劣にもエロ本を罠にした民草に捕まってな……』
それで、そんなに顔面がボッコボコなのか。なるわな。普通に考えれば、なるわな。
むしろ、よくその程度で済んだもんだな。逆にすげえよアンタ。
『その後すぐに、国庫の金と、私財を海外の銀行に預けていたことも全部バレてな……。ワシも王宮も、付き従ってくれた忠臣も、身ぐるみを剥がされてご覧の有り様なのだ……』
「そっか。大変だったな。じゃあお休み」
『……二章』
えっ? 続くの?
『ボコボコにされ、裸の王様にされたワシは、薄れ行く意識の中で「もうヤダ、ほんとヤダこんな民草! もうどこか遠い異世界へ行って、ワシの何もかもを受け入れてくれる人に出会いた~い!」と願ったのだ』
ほぅ、つまり?
『そうして、遂にワシは、巡り会えたのだ……。――――友よ』
「違うぞ」
友達じゃないぞ。全然、まったく、これっぽっちも、友達じゃないぞ。
ここは俺の部屋で、アンタは俺の布団で、俺の隣で、顔面ボコボコになったまま全裸で添い寝している、ただの変態だぞ。
『――友よ。我が生涯にして無二の、最期の友よ。話を聞いてくれて感謝する。夢から覚める前に、お主にこれを託そう……』
そう言うと、おっさんは頭に乗っているベコベコのベコに凹んだ王冠を、ソッと俺に差し出した。ほうほう、これはこれは。金の王冠か。売れば高値になりそうな一品ではないか。