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4-2

「不服か」

「ええとその、ロジックを論理するとそういう言い方にもできなくもないといいますか」


 勇んで訪れたキューク先生の研究室。事情を話すも、その迫力に圧されてしまった。

「俺は正当な採点をしたつもりだったが。そんなことを言われたのは初めてだ」

 僕もそんなことを言うのは初めてです、なんて軽口を叩けるような雰囲気ではない。

 目にかかる長い前髪の奥から覗く鋭い眼光。数多の苦難を刻んだ深いしわ。黒いローブが放つ威圧感は半端ない。

 研究室は日当たりの悪い部屋で日中でも薄暗く、また、冥府魔術に使うと思われるアイテムの数々が不気味さをより演出する。


「……」

 そんな雰囲気だけでなく、イオンさんを脅迫した容疑者としても考えられるので、緊張感が増す。何の証拠もない、ただの思いつきに近いので追及はしないけど。

「ライト・アングルにイオン・テイル。両者ともに――追試験の合格基準は満たしていた」

「……え?」

「特にライト・アングル。お前のアイデアには将来性を感じた。それを加算して採点した」

「あ、ありがとうございます……」

 基準は満たしていた? 合格だったってこと?

「どういうことですの?」

「どうもこうもない。俺の採点では二人は退学に値しなかったはずだというだけだ。だから二人揃って実力不十分だなんて評価を下されて、俺が何かミスを犯したのかと疑った。初めて授業を受け持って、二人も退学者を出すなんて思いもしなかったからな」

「初めて!?」

 僕とイオンさん、揃って驚く。授業中の、あのピリピリした空気。私語などもっての外、ミスしようものなら即座に減点されかねない殺伐とした空気は、人にものを教える高慢さ故のものだと思っていた。

「初めて教壇に立ったから緊張していたのだ」

 無愛想で口数が少なかったのは緊張していたから? 知ってはいけないことを知ってしまった気分だ……。

「そんなことよりもですわ。合格してたはずなのにそうならなかった矛盾はどう説明がつくのですの?」

「試験の結果を基に退学か否かを決めるのは俺じゃない。それを決めるのは、学年主任であるスタンプ先生だ」

 昨日遭遇したスタンプ先生。優しい人柄でいい先生だけど、試験に関しては厳しい先生だったのか。

「実は、俺が何らかのミスをしたのかと思って今朝方に記録を持って伺ったんだ。検討するとの返事をいただいて、その後どこかへ出かけられたようだった」

「むぅ。困りましたわね。せめて記録でもあれば学院長に持っていこうと思ってましたのに」

 キューク先生がつけた記録なら、証拠能力として十分だった。それがないのなら、直接映像を見せられればいいのに。

「あ、そういえば、記憶を覗く魔術があったよね。それで先生の記憶を学院長に見てもらえば」

「ナイスアイデアですわ!」

 ばん、と僕の背中を叩く。

精神に感応し、相手の見た記憶を垣間見る魔術がある。直接僕らの試験を見ていたキューク先生の記憶なら、証拠になるんじゃないか、という考えだ。

「いや、ダメだ」

 しかし、そのアイデアは先生に否定された。

「人間の記憶は映像を保存しているわけではないから、証拠能力は弱いとされている。自分でも気づかないうちに改ざんし、改変されていくものだから。規定でも人間の記憶は証拠として認められていない」

「そう、ですか」

 先生がダメなら僕らの記憶でも、というわけにはいかないようだ。光明が見えたと思ったけど、そのものが否定された。

「人間の記憶については規定で定められている」

 先生は繰り返す。

 人間の記憶については……。

 逆に言えば、人間じゃないものについては規定されてない?


「ああっ!」

「ど、どうしたの、ライトくん?」

「あの時、あの場にいたのは僕たちだけじゃなかったんだ! イオンさん!」

「な、何を言ってるの? まさか見えちゃいけないものが……」

「違うよ! もうひとり、いや、もう一匹いたんだ。そう、――黒ウサギが!」

 片目に傷がある、ひときわ大きな黒ウサギ。追試験の間、イオンさんと僕のことを見守っていたウサギがいた!

 先生は頷いてくれた。

「ウサギの記憶は規定外だ。お前たちの試験の記録の記憶として認められるかもしれん。ただ、記憶力の問題から時間制限があるだろう。有効なのは今日中とみた」

 先生からそう言ってもらえれば心強い。

「行こう、イオンさん、フランさん。目に傷のある、黒ウサギを探すんだ!」

「ち、ちょっと本気? このラビィポップにどれだけのウサギがいると思ってるの?」

 ウサギは神出鬼没で、どこに現れるかわからない。似てるようで違う個体のウサギもたくさんいるだろう。

 それでも、やれることがある。

 まだ足掻くことができる。

 このままじゃ退学になってしまう。

 そうならないよう、足りないものを補う。

 証拠がなければ、探し出してやればいい。

 足りなければ、足す。

 それは“魔法”の秘訣と同じことだった。

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