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竹田風太は働くことの大切さを知る。

入学式といえば、去年のことを思い出してしまう。携帯の通知音や着信音が流れるあのカオス入学式を・・・俺はその準備を手伝わないといけないのか。生徒会に入らなければ今日は休みだったのに!





快晴だ。雲がひとつも見当たらず、いつもより空気が澄んでいるのか一層空が青く見えた。それもそのはず俺は休日出勤で心が()()()ブルーだからだ。うまいっ!これは一本。とバカなことを言っていないと心が安定しない。それほど休日出勤はハートブレイクしてくる。





いつもの通学路を歩いていると後ろからクラクションを鳴らされた。なんだなんだと振り返ると見たことのある車がそこにいて、見たことある顔が窓から顔を出していた。

「ふーちゃん。おはよう!」

加藤さんがニコニコしながら大きく手を振っている。

「あ、おはようございます。」

と少し恥ずかしいが俺も手を振りながら挨拶をした。そして加藤さんが手招きをしながら

「歩くのしんどいでしょ?乗っていきなよ。」

とナンパで使うセリフみたいなことを言ってくる。俺はたしかに歩くのダリぃなとか思い

「じゃあお言葉に甘えて。」

と加藤さんの車のドアを開けて乗り込んだ。中は綺麗に掃除されており黒色のインテリアがより一層黒く見えた。

「ちょっと汚いけど・・・ごめんね。」

「いえ、全然大丈夫です。むしろ綺麗すぎるぐらいですよ。」

いやほんと新車のまんまじゃねえかこれ。しかも前に見た時も思ったけどいい車乗ってるなぁ。タツダのZX-5じゃん・・・俺、この車乗ってみたかったんだよなぁ、免許もってないけど。とか考えていると加藤さんがバックミラー越しに俺をみながら

「歩いてきてるんだね。しんどいでしょ?」

「そんなことないですよ。この方が楽ですし。」

と俺は肩を竦めて言う。自転車で行くより歩いているほうが楽じゃない?楽だよね?てかこの人いつも車で来てるっぽいけど・・・と思い質問してみる。

「いつも車できてるみたいですけど、家遠いんですか?」

「超遠いんだよー。なんせ岡山からきてるからねー。」

と質問の答えにビックリしていて数秒間口を開けてしまっていた。俺はその開けっぱなしの口を閉じて一呼吸置いてから口を動かす。

「す、すごいですね。よくやりますよ。」

「そんなことないよ。車だったらたいして疲れないしね。あと、ふーちゃんに会えると思うとそんなの平気だよ。」

と満面の笑みで言ってくる。そんな彼氏がいう臭いセリフ第1位みたいなことを言わないでくださいよ。男の人に言われてるのはわかってるのに照れちゃうでしょうが。俺は恥ずかしくなって、気を紛らわすため窓から見える景色をみながら答える。

「そういうことは女の子に言ってあげてください。」

「たしかにそうだね。」

ほんとそうだよ・・・もうやめてね加藤さん。





「ついたよ~」

やっぱりはやいな。これから送ってもらおうかな。俺は、ありがとうございますと礼を言いつつドアを開けて外に出て、2人で他愛のない話をしながら集合場所の体育館を目指した。





体育館につくと先生たちがさきに準備を進めていた。俺たちは荷物を置き、何をすればいいんすかねとか相談していると、はるか先生が壇上のカーテンから顔を出して大きく手を振って俺たちを呼んだ。

「おーーーーい!こっちにきてー。」

と37歳とは思えない可愛さだ。もう少し若ければなー。

先生がいたところまで行くと中島がせっせとピアノを数人で運んでいた。俺は重たそうだなと思い空いている箇所を持つと、加藤さんもそれにつられて手伝った。すると、俺たちに気づいた中島がニコッとしながら

「おはよう。」

と挨拶をしてきた。

「おはよう。中島さん」

「おはよう。」

と加藤さんに続いて俺も挨拶をする。今日も中島は綺麗だ。





ピアノを所定の場所に運びこみ終わり、3人で一服しているとはるか先生がこっちにやってきて

「君達っそんなところで休んでないで手伝いなさい。あ!そうだ加藤さん今日から生徒会長ね。よろしく~。」

軽い感じで衝撃発言をする。俺は加藤さんの方を見やると口をあんぐり開けながら

「へ?」

と聞いてないよーな的な反応をしている。するとはるか先生はあれ?言ってなかったけ?て顔をしている。そしてそこにいるのが気まずくなったのか、はるか先生ははやくその場から離れようとして

「まあ、そういうことなのよ。頑張ってね。」

と言い残し風のように去っていった。俺はかわいそうと思い加藤さんの肩をトンと叩き

「ドンマイっす。」

と一言かけておいた。だってかわいそうなんだもん。その様子を見ていた中島も空いている方の肩をトンと叩き

「加藤さん!似合ってますよ生徒会長。多分だけど。」

と横の方に目をやって慰めた。でも多分は余計だよ中島。それを聞いた加藤さんはまるでゾンビのように背中が丸くなっていた。まあ今のところこの3人とプラスαしかいないからね仕方ないよね。しっかりしてる人だと思うし大丈夫だよ。多分。

加藤さんを慰めていると俺の背中を誰かが叩いた。なんやねんと思い振り返るとそこには見たことのない女の子が立っていた。見た目は、ショートボブで顔はどちらかというとロリ系かなぁ・・・あとは身長はだいたい140後半ぐらいで推定Aカップでまな板と・・・え、誰?俺こんな子しらないよと焦っていると

「先生に手伝えって言われて来たんだけど、準備ってなにすればいいの?」

アニメみたいな声で問いかけてくる。俺はとりあえず答えないと、と思い

「え、そうだなぁ・・・適当にしとけば大丈夫だと思うけど・・・てか誰?」

と素朴な疑問を投げかける。するとその女の子は頬をぷくっと膨らまして

「同じクラスじゃん・・・わからないの?周りを見てなさすぎだよ!」

と怒られてしまった。怒られた時はとりあえず謝るのが一番だ。

「ご、ごめんなさい。でもわからないものはわからないです。」

すると謎の女の子はハァーとため息を吐き

「ほんと同じクラスの人ぐらい把握しといてよ・・・私、柏木 雛子っていうの。ちゃんと覚えといてよ!」

プンスカと聞こえてきそうなぐらい怒っている。ちょっと怒りすぎじゃない?とか思ったけどここは耐えて

「しっかりと覚えておきます。」

と頭をかきながら言った。この一連の流れを見ていた加藤さんが2人をなだめるように言う。

「まあまあ、柏木さん・・・だっけ?ふーちゃんもこれ柏木 雛子(かしわぎ ひなこ)から覚えてくれるよ。」

すると柏木さんは腰に手を当ててぷいっとした。行動のひとつひとつがアニメっぽいな柏木さん。イイね!と心でイイねを連打していると中島がいつになく優しい声で

「柏木さん。手伝いについては私たちについていれば大丈夫だから。ね?」

とまるで子供に言い聞かせる母親のように言っていた。それを聞いた柏木は子供のようにうんと頷く。

え?なにこれ親子なの?





なんか知らないけど3人パーティから4人パーティに変わった俺たちはダラダラとしゃべりながら準備を進める。

「あとは、グリーンシートを敷いて椅子を並べておしまいかな。」

と加藤さんはふぅーと息を吐きながら言う。俺はまだそんなにもあるのかと思い

「まだあるんですか?先生も何人か手伝ってくれてますけど・・・この人数はきついですね。」

と愚痴をこぼした。すると中島がそれに共感するようにうんうんと頷きながら

「たしかに、この人数は少ないかな・・・」

そう、たしかに少ない。1人増えたはずなのに負担が軽くなっていないのだ。なぜかというと柏木は横で「がんばってー」といっているだけだからだ。なにすればイイ?と聞いてきたくせになんなんだよほんとこのまな板ちゃん。するとその柏木が顎に指を当てながら

「んー、たしかにそうだね!」

君は共感したらだめだよ?俺はそれを聞いて小さくため息を吐き

「そうなんだよ、だからちゃんと手伝ってくれよ。まない・・・じゃない柏木さん。」

まな板と言いかけたのをうまく誤魔化せたかなとおもったが誤魔化せておらず、柏木はそれを聞いて自分の胸をチラッと見た後、カーッと顔が赤くなっていた。俺はやばい何か言わないとと取り繕うように

「いや、あのそういうのも好きな人がいると思うから、だ、大丈夫だよ。たぶんだけド。」

というと中島が自分の胸を隠し俺をまるで汚物を見ているかのような目で

「マジ最低じゃん。謝ったら?」

俺は本当に申し訳ないと思い柏木の方を向いて頭を下げた。

「柏木さん。ほんとうにごめんなさい。あの、思ったこと口に出るタイプでして・・・」

というと柏木は俺の頭をパチンと叩き

「私のことヒナって呼んだら許してあげる。」

「は?」

何言ってんのこの子・・・と混乱していると中島も困惑しながら

「え、それで許せるの?」

というと柏木はうんうんと頷く。下の名前を呼ぶだけで許してくれるなら、でも恥ずかしいな・・・でも言うしかない

「ヒ、ヒナ・・・でいいのかな?」

と頬をかきながら言うと、すごく満足気な表情で

「うん!」

とニコニコしていた。俺は中島にこれだけでいいのか?と小声で問いかけると首を傾げて知らないと言っていた。しかしこんなアニメみたいな展開が現実に起きるなんてなとか考えていると、今まで黙っていた加藤さんが突然よしっと拳を上げて

「よし、これから生徒会をどんどん増やしていこう!みんなよろしくね。じゃあ続きガンバロー。」

「え?」

「は?」

「はーい!頑張りましょー。」

俺と中島は突然すぎてビックリしていたが、ヒナはイェーイみたいな感じでイキイキしている。いやいや待て待てと俺は加藤さんに質問を投げかける。

「今の話の流れでなんでそんなことがでてくるんですか?」

それを聞いた中島もうんうんと頷いている。すると加藤さんは腰に手を当てて

「3人の姿みてたら面白くてさ・・・なんか青春みたいな感じがして。だから人を増やしたらもっと面白いんじゃないかな?あと仕事の負担も減るしね。」

たしかに仕事の負担は減るけど、てか面白かったから何も言わなかったのか・・・納得。俺はさらに質問を投げかける。

「そもそもどうやって人を増やすんですか?」

加藤さんはそれを聞き少し考えて間が空いたが、何か思いついたのか手をポンと叩いた。すごい名案が思い浮かんだのかと期待していたが

「手当たり次第声をかけていこう!」

と目をキラキラさせながら言っている。ナルホドソレハメイアンデスネ。てか勧誘とかコミュニケーション苦手なのにできるわけないじゃん。とか思っていると中島が

「まあ、人が増えて負担が少なくなるならいいかもしれないですね。」

と言うと加藤さんが

「だよね。ということで次の学校から勧誘しまくるよ。」

これ以上休日出勤の犠牲者が増えるのかと思うとゾッとしたが、まあいいか。なんか断るのもアレだし。

「俺の仕事の負担が減るならいいかもですね。」

仕事が減るのが一番いいしね。それを聞いた加藤さんは手を前に出してきた、するとヒナもその上に手を乗せた。俺と中島は何してるのこの人たち?と目を合わしていると、はやくはやくと2人がせかしてくる。乗せなきゃいけないの?俺は手汗が付いていそうなので自分の服でふきふきしてから手を乗せた。中島もそれにつづいて俺の上に手を乗せる。すると加藤さんが

「みんなで頑張るぞー!エイ、エイ」

「オー!」

「オ〜!」

「・・・おー。」

「お、おー。」

タイミングはバラバラだったがなぜか強い結束を感じることができた。これが青春かもしれない。そんなことを感じているとはるか先生が

「何してるのー、サボってないではやく手伝いなさーい。」

と少し怒っていた。あれ、あの人逃げたはずじゃ・・・まあいい、はやく終わらせよう。






準備が終わり、はじまった入学式を端の方でみんなで見ていた。俺たちも1年前はあそこにいた。そしてひとりひとりが違う思いを持っていたはずだ。ただ卒業をしたいと思っていた俺も今は違うような気がする。はっきりとは言えないがなにか違う思いができた。少しは成長したのかもしれない。そんなことを考えながら入学式が無事に終わるのを見届けた。





新1年生が退場し、体育館の中は先程とは違い静まり返っていた。

「あとは片付けだけだね。」

と加藤さんは少し疲れた顔をして言う。そっかまだ片付けがあったな。みんな疲れたのか口数も少なくなりひとりひとり黙々と片付けを進めていた。俺は今日はよく働いたなーと思っていると、中島が話しかけてきた。

「あの・・・今度、レポート一緒にやらない?」

と少し恥ずかしそうにしながら言ってくる。

「そうだな。みんなで一緒にやるか。」

と言ったらなぜか残念そうな顔をしながら小さな声で

「そう・・だね。じゃあよろしくね。」

と言い中島は自分の仕事に戻った。






一通り片付けが終わり、疲れたので体育館の隅の方に1人で座っていると、加藤さんが声をかけてくる。

「今日はおつかれさま。」

「お疲れ様です。」

と返した。そのあと少し沈黙が続いたが加藤さんが

「こういうの久しぶりでさ、なんか嬉しくなっちゃって・・・」

「そうですか、確かに俺も久しぶりでしたよ。こんなに働くのは。」

と言うと加藤さんはフッと笑いながら言う

「そのことじゃないよ。」

「え、他に何かありましたか?」

と俺は上の方をみながら今日あったことを思い出そうとしていると

「ふーちゃんは、後悔しない学校生活を送ってね。」

と言ってきた。その時の姿を見ることはできなかったが多分俯いていたのだと思う。それぐらい寂しげな声だった。俺はそれに質問しようとしたがやめておいた。まだ今は人の気持ちに踏み入る時ではない。

しばらくなにも喋らず座っていると、中島とヒナがこちらにやってきた。

「もう先生が帰ってもいいって。」

と中島が言う。それを聞くと加藤さんは立ち上がり

「帰ろうか。」

そうして4人は体育館をあとにした。





外に出ると4月なのにブルっと震えてしまうぐらい寒かった。

「寒いな。」

と俺が言うとみんな

「そうだね。」

と言ってくる。体を丸めながら歩いていると自販機が目に入った。すると加藤さんが

「みんなどれがいい?」

「いや、そんないいですよ。」

と中島が遠慮した。でも加藤さんは気にしないでと言っている。そういうと中島が

「じゃあ、いただきます。」

と言い。各自好きな飲み物をひとつずつ買ってもらった。みんなやはり寒いのか温かい飲み物を選んでいた。俺は買ってもらったあたたかい缶コーヒーを開けて、みんなのなんでもない会話を聞きながらチビチビと飲んだ。缶コーヒーは疲れた体に染み渡り、冷え切った体を温めてくれた。それはいつも寒い時に飲む缶コーヒーより温かく、そして、体だけでなく心も温めてくれた。そんな気がした。























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