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竹田風太は高校生活に一切期待などしていない。

そういえば兵庫県が舞台って少ないよね。


 桜が綺麗に咲いている。冬には葉がなくどんよりとしていた木々も、今はとてもイキイキとしているように感じる。春だ。もう春なんだ。普通の人ならワクワクとするところだが、俺はちがう。なぜかって?教えてあげよう・・・

もうすぐ高校生活が始まるからだ。





 憂鬱だ。学校に行けなくなってから1年以上経っている。どうやって人と接するかなんて忘れたし、関わりたくもない。でも行かないと高卒という資格がもらえない。

「ハァーーー」

と大きなため息をし、仕方ないと心をリセットした。そうだ、別に無理して人と関わらなくていい。学校にいって、誰ともしゃべらずに授業を受け、家に帰ればいい。簡単なことじゃないか・・・それを繰り返していれば卒業できる。そう自分に言い聞かせた。幸い俺の通う綱手綱手(つなで)通信制高校は、毎日学校があるわけではない。毎週日曜日と月曜日にしか授業はなくどちらかの曜日に行けばいい。それに単位制なので決められた授業数とレポートさえ提出し、単位を取ればそれ以上学校に行かなくても済む。その授業数とレポートの枚数は学校に行ってみないと、どれだけの量なのかわからないがどうせたいした量ではない。それに卒業までに必要な単位は80単位で、1年間に30単位が限度だ。要するに最短3年で卒業することができる。まあ中には5年とか最長で8年で卒業した人もいるらしいが。まあ仕事しながら通う人も多いので3年で卒業する人の方が少ないみたいだ。俺は暇人だし、頭もそれなりにいいし、とりあえず3年で卒業することを目標にした。





 入学式当日の朝7時。カラスがまるで目覚ましのように鳴いていたり、朝7時になったことを知らせるエーデルワイス、朝練でもあるのだろうか学生たちの声が聞こえてくる。俺が久しぶりに学校に行くこと以外はいつもと変わらない。俺はベッドから起き上がり、目をこすりながらなんで日曜日に早起きしなきゃ行けねぇんだよとか思いつつリビングに向かった。

不登校になってから、俺の朝にはルーティンができた。まずはトイレだ。小と大をして腸を超スッキリさせる。そして朝食だ。ちなみに朝はパン派だ。そしてコーヒーを飲みながら新聞に入っている広告を確認する。新聞を見るという意識の高いことはしない。朝食が終わったらもう一度トイレに向かい残ったものを出し切る。それから洗面所にむかい寝癖を直して、歯を磨き、顔を洗って準備完了だ。不登校だったとは思えないほど実に健康的だ。でも起きる時間がいつも不規則なのは内緒。

さて、あとは着替えだ。綱手通信制高校は制服なんていう地元の服屋さんが稼ぐためにあるシステムはない。私服登校だ。俺はその辺にあったジャージのズボンと前面に大きく「USA」と書かれたよくありがちなパーカーを着て、コンセントみたいな飾りのついたリュックを背負い、高校へと向かった。





 高校までは徒歩30分ほどだ。歩いて10分もすれば大きな川が姿をあらわす。橋を渡りながら横目で泳いでいるコイやボラの姿を眺めて「デケェな」とか独り言をブツブツと言っていると、なんか歴史があるらしいデケェ古い建物がある道にでる。なんて名前か忘れたけど。そこからさらに10分も歩けばもうすぐ綱手通信制高校だ。マラソン大会でゴール地点だったなぎさ公園の横にあるのはなんか色々中学時代を思い出して嫌だが、近いから別に気にしない。近いのはジャスティスだ。あとは校門を間違えないように気をつけるだけだ。

え?なぜかって?なんと綱手高校は普通科もあるからだ。北門は普通科の生徒が通る場所で西門が通信制課程の生徒が通る場所と決まっている。間違えないように気をつけよう!





 西門には数人の先生っぽい人が立っていて、入ってくる生徒に挨拶をしている。うわ、これ最初の難関じゃん。RPGでいう最初のボスじゃんとか考えながら俺は小さな声で短く挨拶する。

「おはよざいます」

すると先生っぽい人は俺とは違い大きな声で

「おはようございます。」

その声の大きさに少しびびったがまぁいいや。そのままほかの生徒が向かっている場所に進んでいった。

 昇降口につくと[自分の名前の名札を取ってスリッパに履き替えて体育館まで進んでください]と掲示されていた。その通りに自分の名札を探して手に取った。靴は特に入れる場所は指定されていないので空いている下駄箱に入れ、一緒入っているスリッパを取り出して履いた。体育館の場所も順路が書いてあるので迷うことがなかった。

 体育館につき、先生から入学式のプログラムが書いてある紙を渡された。床にはグリーンシートが敷いてあり、パイプ椅子が大量に並べられていた。俺は懐かしいなぁ~とか思いながら自分の名前が貼ってある席を探す。しばらく探してやっとこさ見つけてその指定された椅子に腰かけた。ふぅーと息を吐き周りを見渡してみると学校とは思えない光景が広がっていた。茶髪はもちろん金髪にピンクや黄色など色とりどりの髪色が目に入る。それに年齢層もさまざまだ。20代・30代・40代・・・・70代っぽい人までいる。普通の高校では見れない景色だ。ッベーわこれ・・・とブツブツいっていると、ブチッとマイクの電源が入った音がして先生が話しはじめた。

「今から第34回兵庫県立綱手高等学校通信制課程の入学式を開催いたします。」

というとあのよく聞くピアノの音がした。その音がなると隅にズラッと並んで座っていた先生達が一斉に立ち上がり、それにつられて俺たち生徒全員も立ち上がった。礼まで終わると全員が着席した。

 次は校長先生の挨拶のようだ。まあこれはいつものように割愛と言いたいところだがとんでもないことが現在起きている。何人かの生徒が電話しているのだ。しかも大きな声で・・・それに連鎖するかのようにLINEの通知音や着信音がながれていたりもうカオスだ。これがカオスというのか・・・竹田dictionaryに書き加えておこう。このカオスのなかで諸々のプログラムが終わり式は終了した。俺はこのカオス学校でやっていくのかとすごい不安と絶望でいっぱいだった。ライオンだらけの 檻の中に入れられた気分だよほんと。





 式が終わると各クラスで指定された教室に向かう。確認すると俺は1年B組のようだ。学校の見取り図で場所を確認して教室を目指した。教室につくとほとんどの学生が着席していた。各自携帯を見ていたり、窓から見える景色を眺めていたり様々だ。座る場所はどこだろうとキョロキョロしていると、教卓の後ろでパイプ椅子に腰掛けている多分担任の先生であろう推定27歳くらいだろうか髪は黒のショートカットで結構綺麗な女性が俺に声をかける

「机の上にある番号と名札に書かれている番号が同じところに座ってねー。」

「わ・・・・わかりました。」

と俺はいかにもコミュ障っぽい返事をした。たしかに机の上には出席番号が書かれている紙とプリントが数枚はいった封筒とたぶんレポートだろうか結構分厚めのファイルが置いてあった。俺は名札に書いてある出席番号を確認した。席は真ん中の列で前から2番目の席のようだ。俺はそこに着席しクラス全員がくるのを待ちつつ周囲の様子を目を左右に動かして確認した。

 えーと、俺の前の席にはいかにもヤンキーみたいなやつが踏ん反り返っている。早速俺の苦手なタイプがいた。プリント配るときこいつに渡されるのかよ・・・最悪やんけ。

 次に右を確認してみると、多分20代後半~30代前半だろうかツーブロックでイマドキの人という雰囲気だ。机にあるプリント類を確認している。てか顔もめちゃイケメンやんけ。足も長いし、身長は170後半ぐらいあるだろうか・・・デケェなおい。おれにもその身長分けて。

 次に左を確認してみよう、えーと、黒髪でポニーテールの女の子だ。顔は・・・清楚で美人系だ。いやめちゃくちゃ美人やんけ・・・そこにいるだけで絵になる感じだ。右胸にある名札を確認してみると「中島 綾菜 」可愛い名前じゃん。でも1つ言いたいところがある。頬杖をついているので背中がよく見えるんですよ、でさ、服になにか文字がプリントしてあるのが目につくんだがこれがヤバイ。

 I♡姫路

って書いてあるんだけど・・・いや好きなのはわかるんだよ、姫路城って世界遺産あるしね。俺も好きだけどさ。それ絶対ドンキで買っただろ・・・てか、この子ファッションセンスが絶望的すぎるだろ。俺もないけどさそんなやつ選ばないぜ。とか一人であーだこーだ考えたりツッコミしてたりしているうちに全員揃ったみたいだ。すると座っていたあの綺麗な先生が口を開いた。

「みなさん入学おめでとうございます。」

あー、よくある定型文挨拶ねよくわかります。つまらん。とか考えてたのも束の間。先生の堅苦しい雰囲気が一気に消えた。

「これからあなたたちをお世話する亀山中島 綾菜(なかしま あやな)田端 安宅(たばた やすなり)加藤 正和(かとう まさかず) はるかって言いまーす。よろしくねー。そんじゃあ質問とかある?」

いや、軽いな。それはそれで先生感なくなるんだけど・・・てか質問とかするわけないじゃん。だって普通科じゃないんだぜ、通信制なんだぜ。そんな予想とは裏腹に一人の生徒が手をあげる。あの前の席のヤンキーだ。先生にどうぞと当てられるとヤンキーが

「先生何歳?」

おいおいまじかよ俺でもわかるぜ。レディに年齢聞いちゃダメってさぁーダメだよヤンキー君。絶対言わないよはるか先生は・・・

「37歳でーーす。」

って言うのかよ!しかも結構いってんな。てか顔若すぎだろオイ!これは言われないとわからないよ・・・俺の中ではるか先生は生徒の若いエネルギー吸ってる説が浮上した。

 まあ、これ以上質問はなく、淡々と説明がされていった。まあ感想を言うとレポートが超多いぐらいだな。





 とりあえず1日が終わった。疲れた。ほんと疲れた。1年半のブランクは大きいな・・・そういえば先生としか喋ってねぇな。まあいいや今日は早く寝よう。






今日は1週間ぶりに学校だ。しかもまたイベントだ。なんと!新入生歓迎会があるのです。内容としてはクラスで6人ぐらいで班を組んで、各班に2人ずついる先輩とともに学校探検するというものだ。探検する教室には先生がおりミッション的なのをやらされる。例えば音楽室なら校歌を歌うとか、卓球場なら卓球でラリーをしたりとか、保険室なら心臓マッサージする人形をつかって救急救命について学習したり、図書室では各自自己紹介まで設けられている。それが終わると先輩への質問タイムが設けられるのだ。キツイなぁ。めんどくさいなぁ。

 教室につくと班ははるか先生によって勝手に決められていた。誰だろうとか思ってみるけどよく考えたら名前見ても誰だかわかんない☆テヘペロ☆だから何班かだけが把握しておこう。うん、3班みたいだな。

 まずは体育館に集合して班ごとに並ぶようだ。一番前には先輩が3班ココだよーと右も左もわからない一年生に教えてくれている。俺は先輩が教えてくれた場所に座った。

 新入生歓迎会がはじまると各班の先輩リーダーについていって決められた学校探検コースを回っていくようだ。まるでRPGのパーティのようについていくとまずは図書室に案内された。そこにはおじいちゃん先生が待ち構えており

「ここでは自己紹介をしてもらいます。名前と趣味は絶対言ってください。」

円形に置かれた椅子に各自腰掛けて先輩リーダーから自己紹介がはじまった。

「田端 安宅といいます。やすなりとかあんたくって呼んでください。生徒会長やってます。・・・・・・よろしくお願いします。」

あんたくってたくあんみたいとかしょうもないこと考えていると見たことある人が自己紹介をはじめた。

「加藤 正和です。呼び方は皆さんで決めてください。あと趣味は食べることかなぁー。年齢は32歳で・・・・・・・よろしくお願いします!」

あ、入学式の日に右にいたイケメンやんけ。32歳か大人っぽくてカッコいい。次は俺の番だ

「えーと、竹田 風太です。えーと、ふーちゃんって呼ばれてたことが多かったです。・・・・・・・・よろしくお願いします。」

いや何言ってんだ俺。ふーちゃんとか恥ずかしすぎるだろ・・・田端先輩のせいだよ。呼び方とか言ったから悪いんだよ。とか顔を両手でふさぎたくなるほど恥ずかしがっていると、イケメン加藤さんが

「ふーちゃんよろしくねー。」

って言ってきた。なんだよこの人コミュ力の鬼かよ。あ、そうだ返事をしないと

「あ、は、は、は、はい。」

人との会話って難しいね☆俺はコミュ障の鬼かよ。次のひとを見るとまたみたことのある人だ。あの入学式のとき左にいた中島 綾菜だ。なんか前見たときと雰囲気が違うなとか思っていると、艶めいた唇が動きだした。

「中島 綾菜といいます。よろしくお願いします。」

いやそれだけかよっ。でもめちゃくちゃ可愛いから許しちゃう。そうか前と雰囲気がちがうのは化粧しているのと服がまともだからだ。ナルホド。お母さんにでも服選んでもらったのかな?知らんけど。てか俺この2人いるのなんで気づかなかったの?視野狭すぎるんだが。これからはちゃんと視野を広げようと心に決めた。

まあ、あとは校歌を歌ったりとか、卓球をして俺の絶望的な運動神経を見せつけたりとか、心臓マッサージで人命救助について学んだりした。しかし腹減ったなぁ。

 校内探検が終わると昼食の時間だ。今日はみんなで学食でカレーを食うらしい。カレー貰うために並んでいると後ろにいた加藤さんが声をかけてきた。

「ふーちゃんはカレー好き?」

「好きですね。加藤さんはどうなんですか?」

と聞き返す。すると

「んー、好きだよ。とくにみんなで食べるカレーは一番美味しいからね。」

「そう、ですね。」

たしかにそうかもしれない。なんでも一人で食べるよりみんなで食べた方が美味しい。知らんけど。

 そんな他愛のない会話をしていると俺の前にいた田端先輩もうんうんと頷いて

「カレー最高。とくにキャンプとかで食うともう最高。」

それに加藤さんも頷いている。俺はキャンプに行ったことがないので同調できなかった。すると加藤さんが

「今度キャンプ行きましょうよ。」

「行きましょ行きましょ。」

と田端先輩もウキウキしながら答える。いやまじ加藤さんコミュ力の鬼や。間に挟まれた俺は肩身の狭い思いをしていた。そんなこんなであとは各班で固まって座って談笑タイムだ。俺も質問されたら返しつつぎこちない会話をしていた。

 午後は各班が教室で、円形に並べられた椅子と机に腰掛けて先輩に質問タイムだ。そこでレポートのやり方とかテストの攻略法とか教えてもらった。そして参加賞として数種類のジュースとおやつをもらった。ラッキーなとかおもいつつ貰ったものをカバンに入れようとしたとき横に座っていた中島さんが貰ったジュースを俺に渡してきてこう言った。

「わたしいらないから・・・これあげる。」

「あ、ありがとうございます。」

初めて中島さんと会話した。うれしい。それと同時に自分と同じ「何か」を感じた。いまはわからないがいずれ分かることになるだろうとなぜかそう感じていた。

 諸々のイベントが終わり、新入生歓迎会が無事終了した。自由参加で「クリーン作戦」という学校の周りを清掃するというのがあるがパスする。俺は昇降口でスリッパから靴に履き替え外に出た。校門を出てからイヤホンをつけ綺麗な夕日を見ながら音楽を聴き始めて今日の出来事を振り返りながら帰った。久しぶりに親以外の人と会話したし、女の子ともしゃべった。やはり人との関わりは大事なんだろう。でも、俺はそんなことはとうの昔にやめたんだ。だっていいことなんて一つもないからだ。多分中島さんや加藤さんと関わるのはこれっきりだろう、向こうもそう思っているはずだ。心を閉ざした経験のある人はわかると思うが、再度開くことはなかなか難しい。開こうと思って開けるものではないのだ。誰かが開こうとしてもそれを拒絶してさらに閉じこもってしまう。難しいのだ。それほどに人の心や気持ちというものは難解なのだ。今日は綺麗な夕焼けだ。オレンジ色に染まる空を見上げてそう感じていた。沈む夕日と一緒に心が閉ざされていくことを感じながら。




 それからというもの学校に行っても授業を受けて帰るだけの日々が続いた。人と会話することもなく、先生と事務的な会話をするだけだ。なんてことない不登校の時からずっとやってきたことだ。学校という場所はただ勉強をする場所であり、決して友情を育んだりとか恋愛をする場所ではない。そんなことをしている奴がいるのならそれは間違いだ。

 




高校に入学してからほぼ1年が経過して、卒業式も終わり学校はいつもよりは静かになっていた。今日は俺たち1年生の終業式だ。体育館に移動して校長のつまらない話をきいて、部活の表彰をやったりとかこういうのは普通科も通信制も変わらない。よく見る奴だ。それが済むと教室に移動して成績表を渡される。俺はレポート、授業、テスト難なくこなしていて成績はオールAだった。はじめてとったけど気分いいね。最高だ。

 成績表を全員に渡し、諸々の連絡がおわって今日の学校はおわりだ。俺は成績表や春休みの過ごし方が書かれた紙をクリアファイルにとじてカバンに入れて帰ろうとしたとき教卓の近くにいたはるか先生が呼び止めるように声をかけてきた。

「竹田くん。ちょっとこっちきて。」

「は、はい。」

早く帰りたいのに、とかおもいつつも断れないので先生の近くに行った。するとはるか先生はニコニコしながら

「生徒会に興味ない?竹田くんって成績いいからさ~向いてると思うんだよ。」

綺麗な人にそんなこと言われると「はい!やります!」とか言いそうになったがそれを堪えて先生に質問する。

「それって俺にメリットとかあるんですか?」

それを聞いたはるか先生はうーんと考えながら手をポンとたたき

「成績がよくなるよ!あと友達ができるとか・・・」

それ以上でてこなかったのかはるか先生はやってほしいよ~と目で訴えてくる。やめて。そういうのに弱いの。俺は先生から目をそらして答える。

「友達はどうでもいいですけど・・・成績はどれくらい加点されるんですか?」

はるか先生は考えることなく一言で答えてきた。

「いっぱい!」

なんか語尾にハートがつきそうなぐらいの声だな。ホント可愛いなこの先生。年齢が離れてなければなー。とかバカなこと考えてると先生が俺の肩に手を置き顔を近づけて

「竹田くん。やってくれるよね?」

俺は先生の顔が近いし、めちゃくちゃいいにおいがするので頭がクラクラしていた。顔が真っ赤になる前にこの状況から抜け出そうと勢いで

「は、はい。や、やります。」

と言ってしまった。すると先生は近づけていた顔を離して笑顔でこう言った。

「ありがとう!じゃあこのあとすぐ図書室で生徒会の会議があるから参加してね。」

「は?」

 やられた。はるか先生こわし。いや女の子ってこわい。てか今日から活動なの?帰れないの?最悪じゃん。

 俺はほぼ強制的に近いかたちで生徒会に入らされた。しかし「はい。」と返事してしまった以上仕方ない。でかいため息を吐きながら会議が行われる図書室を目指した。

 図書室に到着してドアを開けるとはるか先生と2人の生徒が談笑していた。こちらに気づいたはるか先生が手招きしてくる。それに従ってみんながいる方に向かうと、後ろ姿だったので気づかなかったが顔を見てようやく気づいた。同じクラスの加藤 正和と中島 綾菜だ。俺は、はるか先生がここに座れと言わんばかりに椅子を引いた場所に腰掛けた。俺が座ったのを確認するとはるか先生がコホンと咳払いをし姿勢をあらためて

「えっと、これからあなたたちは生徒会の一員です。なので頑張って行きましょー。」

と軽い感じで言ってきた。てか人数少なくない?3人だけ?とか思っていると、コミュ力の鬼の加藤さんが口を開く。

「ふーちゃん、中島さん、よろしくねー」

「よろしくお願いします。」

「よ、よろしくお願いします。」

中島さんの後に続いて俺も挨拶をした。するとはるか先生は立ち上がり

「じゃああとはよろしくね~。」

と言ってきたので俺は最初に感じた疑問をはるか先生にぶつけた。

「生徒会ってこんだけしかいないんですか?」

と聞くとはるか先生は言いにくそうに頬を手でかきながら苦笑いしてこう答える。

「実はね。生徒会の全員がこの前卒業しちゃったの。で、他のクラス子も勧誘したんだけど断られちゃってね~。1年生できてくれたのはあなたたち3人だけだったの。でもね、大丈夫。いまの2年生も数人来てくれるらしいよ。」

「は〜。」

何が大丈夫かよくわからないがとりあえずこの3人とプラスαでやっていくしかないようだ。はるか先生はじゃあねーと手を振りながら図書室のドアに手をかけたときにこちらに振り返って口を開く。

「あ!あと入学式の日に準備があるから手伝ってね。」

と言い教室から去っていった。

 そこから沈黙が続いていたが、加藤さんがそれを断ち切るように口を開く。

「どうしよっか?」

それを聞いた中島さんが下の方を見つめながら申し訳なさそうに

「わかんないです。」

と言った。すると2人の視線が俺の方に向いてきた。俺はどうすればいいかわからずにいたがとりあえず思いついたことを口に出す。

「そうですね・・・とりあえず今日のところは解散ていいんじゃないですかね。入学式の日まで仕事ないみたいですし。てかあの先生めちゃくちゃですよね。なんか適当というか・・・ほんと最悪ですよ。俺なんて無理矢理生徒会に入れられたんですよ。これからの学校生活が不安になってきました。」

と心の声まで口に出してしまい「はっ!」と思ってしまったが時すでに遅し。全部聞かれてしまったと頭を抱えていると、中島さんがクスクス顔を隠して笑いながら

「竹田くんだっけ?おもしろいね。」

と言ってきた。それに続いて加藤さんも

「ふーちゃんってそういうこと言う人なんだ。そう言う人結構好きだよ。」

「そ、そうですか。」

そんなイケメンに言われると照れるな。俺は頭をかきながら照れ笑いしていた。すると加藤さんがまた喋り出す。

「てか2人とも久しぶりだよねー。新入生歓迎会以来じゃない?」

「そういえばそうですね。」

と中島さんがまだ俺の話の余韻があるのか知らないが笑った顔で答えた。俺も確かに久しぶりと感じ

「たしかに・・・久しぶりですよね。あの時加藤さんにふーちゃんと言われたことと中島さんにいらないジュースもらったことはよく覚えてます。」

「そういえばそうだったね。てか中島さんふーちゃんにジュースあげたんだ~。いいねー青春だねー。」

と加藤さんがからかうように言う。すると中島さんは頬を赤く染めながら

「・・・ただいらないものあげただけです。」

と照れ隠しをするように言った。てか待って、俺ゴミ処理させられたの?まあジュースよく飲むからいいけどさ。少し驚いたがコホンと咳払いをし

「まあ、女の子にものをもらうのはうれしいですよね。なんか期待しちゃう。」

と俺も中島さんをからかうように言う。すると

「2人してからかわないでくださいよ。」

 と頬を若干膨らまし恥ずかしそうに目をそらしながら言った。

 そんなTHE青春みたいな会話を数分間続け解散することにした。3人で昇降口にむかい靴に履き替えて外に出る。校門をでて少し歩いてると

「僕、車できてるからここでお別れだね。ふーちゃんと中島さん。また入学式の日に会おうねー。じゃあねー」

と車で来ている加藤さんは駐車場でお別れだ。

「そうですね・・・じゃあまた。」

「じゃあまた」

中島さんに続いて俺も挨拶をした。加藤さんが車に乗り込むのを見送り、俺は中島さんの方を見て

「中島さんは何で帰るの?」

と言った。すると中島さんはカバンのなかから定期入れを取り出し

「駅まで歩いて、電車に乗って帰るよ。」

遠くから来てるのかなぁー俺は家が近いので歩いて帰るけど・・・まあでも途中まで一緒の道を歩くことになるしな・・・別々に帰るのもおかしいしなと思い中島さんに提案する

「そうか、俺も途中まで一緒だから・・・その、一緒に帰るか。」

中島さんは少し考えていたが

「そうだね。」

とかわいい笑顔で答えた。中島さんはクールビューティの印象があったがこういう表情もできるんだな。

 しばらく歩いていると、分かれ道が出てくる。そのまま今歩いている道をまっすぐ行くと駅、左に行くと俺がいつも通る慣れた通学路だ。まっすぐ行ってもいいが俺は遠回りになるし、多分彼女もこんな奴と一緒に歩きたくはないだろうし。

「中島さん。俺ココ左だから。」

「そうなんだ・・・ていうかさんつけなくてもいいよ?多分同い年だし。」

と優しい声で言われた。たしかにそうだなと思った。少し恥ずかしいが

「中島さ・・・いや中島。じゃあまた入学式の日な。」

と間違えかけたがそう言った。中島は少し笑いながら

「また、さんっていいかけてるし・・・じゃあ、またね。 ふーちゃん。」()()()()()()

と胸の高さで手を小さく振り歩いて行った。俺も手を振り返しながら「え?なんで」とか思っているうちにもう姿は見えなかった。まあいい帰ろう。こんなに人と喋ったのは久しぶりだ。





 こうして俺の新たな学生生活が始まった。と言っても生徒会に入っただけだけど。でも久しぶりにちゃんと温度のある会話ができた気がする。普通の人にとっては当たり前のことだが俺にとっては特別だ。少しだけ学校に行く日が楽しみになってきた。また中島さんと加藤さんで温度のある会話ができたらいいなとちょっと期待している。





















彼は少しだけ心を開いたかもしれません。3ミリぐらい。


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