第九十五話
「――グルルルル!」
すでに他の冒険者たちによって、この岩場は荒らされている。
そのため、人の形をしていることでハルたちも同類であると判断した幼体黒鉄竜は二人を睨んで、うなり声をあげていた。
「こいつか……大人よりも柔らかいってことだけど、とりあえずやってみよう」
「はい!」
ハルはどこか軽い調子で、ルナリアは緊張した面持ちで戦いが始まる。
「まずは、俺が行こう」
程よくリラックスしたハルは剣を片手に走り出す。まっすぐ幼体黒鉄竜へ向かうのではなく、側方から攻め込むように向かう。
正面から行った場合、ブレスが後方のルナリアに届いてしまうため、あえて外側に膨らむような形になっていた。
「ガルル?」
基本的に単独で行動する幼体黒鉄竜にとって、仲間への影響を考えて戦うという発想がないため、ハルの動きは不可解なものとして映っていた。
「うおおおおお!」
ハルはそれを隙と捉えて距離を詰める。
最初はきょとんと首をかしげていた幼体黒鉄竜だったが、ハルが武器を持って向かってきていることに気づくと再び敵意をむき出しに口を少しあけて力をため始めた。
するとチリッという音とともに、幼体黒鉄竜の口の中になにやら黒いものが形成されていくのが見える。
「っ、あれが!」
ルナリアは受付嬢のカナから聞いた火傷、腐食、呪いの効果を持つ強力なブレスだと判断する。
ハルも気づいてはいたが、トップスピードに乗っているため、足を止めることはできない。
「ハルさん!」
思わず悲痛な声をかけるルナリア。
「先手はこちらがとらせてもらう!」
足を止められないのなら攻めていくだけだと、ハルは勢いそのままで、炎のブレスを吹きつける。
強固な幼体黒鉄竜だが、目の部分は粘膜であるため、迫りくる炎に対し、ぎゅっと目をつむって防ぐこととなる。
ダメージはほぼゼロ。しかし、相手の視界を塞ぐという目的は達成していた。
「うおおおお!」
ハルは自らの最大の攻撃を幼体黒鉄竜の頭部に食らわせる。
剣に炎をまとわせ、更に剣がぶつかる瞬間に爆発魔法を発動させていた。
「ギャアアアアアアアア!」
その技は決定打……とまではいかなかったが、頭部に剣がめり込み、周囲の鱗を吹き飛ばしていた。
幼体黒鉄竜は痛みに叫びながら爆発によって巻き起こった砂煙の中で怒りに打ち震えていた。
「よし!」
ハルが手ごたえを感じて、そう口にした瞬間、爆発の煙の中から黒鉄竜の目がギラリと赤く光るのが見えた。
黒鉄竜はダメージを受けてはいたが、すぐに攻撃に転じられるだけの力は十分に残っていたようだ。
「グオオオオ!」
視界を塞ぐことはできたが、口元にためていた黒いブレスを停止させることはできておらず、怒りそのままに今まさに吹きつける瞬間だった。
「ふんっ、【甲羅の盾】!」
これまで何度もハルの危険を救ってくれたスキル――甲羅の盾。
伸ばした腕の前に発動し、迫りくる幼体黒鉄竜のブレスを受け止めた。
しかし、ブレスを受けた甲羅の盾は徐々に黒くなり、ずるずると腐り落ちていく。
「――やばっ!」
ハルはすぐに距離を取ろうと後ろに飛んで逃げようとするが、予想以上に甲羅の盾の腐食が早く、ハルは慌てていた。
「“アースウォール”!」
しかし、ブレスがハルに到達する前にルナリアが土の壁を作り出して防ぐ。
「ナイスルナリア!」
ハルは感謝の言葉を述べながら更に後方に、更にブレスの進行方向から外れるため、後方に爆発魔法を出しながら横に避ける。
距離をとったハル、後方から魔法で支援するルナリア、そして幼体黒鉄竜が距離をあけて見合う形となる。
「こいつはなかなかやばいな。確かに情報は聞いていたが、それ以上だ……これで幼体とはおそろしい」
「ですね。油断した瞬間、すぐにやられてしまいそうです」
幼体と少し様子を見ていたハルは、想像以上の相手だとわかり、頬を一筋の汗がつたう。
ルナリアは汗こそ出ていなかったが、真剣な表情で魔法の杖を構え黒鉄竜を睨みつけていた。
「ガルル」
ダメージを受けていない黒鉄竜は余裕の表情でハルとルナリアの動きを探っている。
「ふう、それじゃあ、ここからは本気でやるか」
「ハルさん、できれば最初から本気でお願いします」
ハルの言葉に手厳しい突っ込みをルナリアがいれる。笑って返すほどの余裕がルナリアから消えているようだった。
「確かにな。様子を見たかったんだが、これ以上は危険すぎる――行くぞ!」
ハルは再び剣を片手に走りだす。幼体黒鉄竜へと向かいながら一瞬、ルナリアに視線を送った。
それが何を示すのか理解しているルナリアは、氷の魔法を幼体黒鉄竜の足に放つ。
「ガル!?」
着弾と同時に氷が広がり、動きを止められてしまった幼体黒鉄竜は自分の前足に視線を向ける。
――それは一瞬の、そして大きな隙になる。
「くらええええ!」
ハルは再度剣を振りかざす。
先ほども見た技だと冷静に見ている幼体黒鉄竜は同じようにブレスの準備をして、ハルへと吹きつけようとする。
「それは見た!」
ハルはそれよりも早く、氷のブレスを口元に吹きつけた。
「モゴ!?」
くぱりと開けていた口元がみるみるうちに凍った黒鉄竜は、ブレスはもちろん、声すらも出せない状態に陥いることとなる。
突然のことに動揺し、混乱してただじたばたとすることしかできていなかった。
「せやあああ!」
剣を振りかぶったのは幼体黒鉄竜に先ほどと同じ展開だと思わせるためだった。
幼体黒鉄竜はすっかりハルの思惑通りになっている。
先ほど振りかぶった剣を、ハルは強化された筋力で無理やり動きを変えて目に突き刺す。
「うおおおお!」
鍛えた体をうまく使い、見事に目を貫いたハル。
「ガアアアアアア!!」
その痛みから暴れる幼体黒鉄竜だが、ハルは剣から手を離さない。
最初にサラマンダーと対峙したあの時から、彼は相手が絶命するまで武器を手放さないという強い気持ちを持っていた。
「ハルさん!」
ルナリアは自分に何ができるかを、自分がなんの魔法を使えるのかを瞬時に考えて、最善の行動を選択する。
「“フリーズライン”!」
彼女は再度足に向けて氷の魔法を放つ。
最初の氷は既に暴れた幼体黒鉄竜によって破壊されていたが、再度凍らせることで少しの間だが動きを止めることに成功する。
「“アースウォール×4”!」
更に土壁で囲うことで動きを止める。
オールエレメントのギフトをもつ彼女だからこそ、違う属性の魔法を次々と発動することができる。
しかし、その壁は暴れる幼体黒鉄竜の力で壊されることとなる。
「まだです、“アースウォール×4”!」
しかし、壊されてもすぐにルナリアは壁を作り出して動きを止める。
隙ができたところで、ハルは次の攻撃の準備ができていた。
「ルナリアよくやった――これで、とどめだああああ!」
彼女のナイスアシストを受け取ったハルは突き刺さった剣に炎を送り、更に剣先から爆発魔法を発動させる。
それこそ一発ではなく、二発、三発、四発と続けて爆発させることで、幼体黒鉄竜は身体の中からダメージを受けてそのまま、絶命した。
「っ――はあ、はあ、はあ、はあ……」
剣先から感じていた生きているものの反応がなくなったことでずるりと目から剣を引き抜いたハルは、息を乱しながら倒れた幼体黒鉄竜を見下ろしていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、ブレス(闇)1、
竜鱗4、鉄壁1、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法3、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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