第九十三話
「エリッサ! あなたもこの街にいたのね!」
どうやら二人は知り合いらしく、手をとって軽く跳ねながら再会を喜んでいた。
「まさか、ルナリアが帰ってきてるとは思わなかったわ。……それで、隣の人はあなたの恋人かなにか?」
嬉しそうに笑いあったところで、ぐいっと顔を寄せたエリッサは、ささやくようにルナリアにニヤリと問いかける。
「こ、恋人!? ち、違う違う! ハルさんは私の恩人で、大事なパーティメンバーなのよ!」
「と、いうことらしい」
大声を上げてのけ反りながら否定するルナリアの言葉に、ハルは淡々とただそれだけ口にする。
からかわれているのがなんとなく分かったためにあっさりとした反応にとどめていたようだ。
「も、もう! ハルさんも助けて下さいよ!」
「ふふっ、なかなか楽しそうな人みたいね。色々と話を聞いてみたいんだけど……私もパーティメンバーと一緒なのよねえ」
慌てふためくルナリアを楽しそうに見て手を離したエリッサは口元に指先を当て、後ろを振り返り、残念そうな表情で仲間を見ていた。
あちらの仲間は事情を察したのか、ひらひらと手を振るのみで遠巻きに見守っていた。
「そうか。だがすぐすぐ旅立つつもりはないから、そのうちゆっくり話せる時もあるだろ」
肩を竦めながらのハルの言葉に、ルナリアの表情が明るくなる。
「は、はい! あの、エリッサ、またあとでゆっくり話しましょう、ね?」
「うん! じゃあね!」
そう言ってエリッサは舞うように身をひるがえし、仲間のもとへと走っていった。
その先には、巨人族の鎧をまとった大柄の戦士、エルフの魔法使い、猫獣人の格闘士、人族の回復士。
バランスのとれたパーティであり、経験値の高い雰囲気を持っていた。
「いいパーティみたいだな」
「ですね」
バランス、雰囲気ともに良いパーティだというのは二人の目から見ても明らかだった。
また彼らと関わる時を楽しみに、ひとまずは自分たちの目的に意識を向けた。
「さて、俺たちは俺たちで依頼を見てみようか」
「はい!」
この頃になると、二人に視線を送る者もほとんどおらず、気兼ねなく掲示板の依頼を確認することができるようになっていた。
「何がいいかな?」
「ランクも上がったことですし、少し難易度の高い依頼を受けるのもいいかもしれませんね」
互いの意思確認をしながら二人は依頼を確認していく。
そこそこ大きい街だけあり、依頼掲示板の大きさもかなりのもので、そこには埋め尽くすようにいろんなランクや種別の依頼が張られていた。
「……といっても、これまでに受けた依頼のほとんどがランク以上の難易度のやつだったからなあ。……お、これなんかどうだ? 黒鉄竜の素材採集」
これまでのことを思えばいささか刺激が足りないものが同ランクの依頼に多かった。
その中でハルの目に留まった一枚の依頼。
黒鉄竜とは、ハルが以前倒したサラマンダーと同様で飛ぶことのできない地を這う竜。
地竜の一種で、その名の通り黒鉄のような鱗で身体を覆われている魔物である。
傷をつけずに素材を採集するのはそれなりのランクが求められる依頼だった。
「かなり強いですよね? 私の魔法が効けばいいんですが……」
「まあ、そのあたりはルナリアの魔法と俺の剣のコンビネーションでなんとなるだろ。それに……」
「それに?」
ハルが思わせぶりなところで言葉を止めたため、きょとんとしたルナリアが聞き返す。
「……あー、いやなんでもない。とにかくこれまでにも強敵とは戦ってきてるし、二人で乗り越えてきたから大丈夫だろ」
「は、はい。ちょっと不安ですけど……がんばります!」
ルナリアはハルの言葉に疑問を持ちつつも、自分の力を信頼してくれているのが伝わってきたため、ぐっと気合をいれていた。
「――それにしても、黒鉄竜だったらAランク依頼でもおかしくなさそうですけど、Bなんですね」
「あぁ、そうだな」
魔物の強さからランクが思っていたより低いことを疑問に思ったルナリアが呟くように言うそれに頷きながら、ハルは受付に向かう。
どうやらこの会話が聞こえていたらしく、ショートカットの可愛らしい受付嬢が笑顔で説明を始める。
「いらっしゃいませ、お二人の疑問が聞こえましたのでご説明しますね。黒鉄竜はこの時期、小柄の幼少タイプなので指定ランクが低いのです。成獣になると、もちろんAランクに依頼が格上げされます。依頼書にも小さいですが、その旨記されています」
改めて依頼書を二人が確認すると、そこには受付嬢の言う通り『幼体』を対象とすると記されていた。
黒鉄竜という名前ばかりが目に入っていたルナリアはほっとしたように息を吐く。
「なるほど、幼体だったら成獣ほどの硬さがないから倒せるはずだ。Cランクの俺達でもきっとなんとかなるだろ」
そういって、ハルは冒険者ギルドカードを受付嬢に提出し、ルナリアも続く。
「それでは、お二人でこの依頼を受注されるということでよろしいですね?」
「あぁ」
「はいっ」
二人の返事を聞いて、受付嬢が手際よく次々と手続きを始めていく。
「それでは依頼について説明をしていきますが……お聞きになりますか?」
「「是非!」」
ハルとルナリアが同時に頷いたことに、受付嬢は驚くこととなる。
「しょ、承知しました。――まさか、説明を聞く人が……」
ハルは情報の重要性を知っている。それゆえに、受付嬢からの情報は大事だとわかっていた。
それについてハルから話を聞いていたルナリアも情報は大事だと思っていたため、話を聞こうと思っていた。
二人にとっては至極当たり前のことであったが、説明を聞くことが少ない冒険者ばかり相手していた彼女にとってはとても新鮮に映った。
「あと、名前を聞いてもいいかな? せっかく、色々話を聞くから名前くらいは知っておかないと。カードでわかると思うけど、俺の名前はハル」
「私はルナリアです」
気さくに二人が挨拶をすると、受付嬢も慌てて姿勢をただす。
「こ、これはすいません。まだ名乗っていませんでしたね。私は当ギルドの受付嬢をしているカナといいます」
にっこりと笑顔と共に、カナは自己紹介をして、頭を下げる。
そしてすぐに情報が記されている書類を用意する。
「それでは説明をします。まず、黒鉄竜の生息域ですが、この街から東に出ると草が生い茂った平原があります。そのあたりは魔物が少なく平穏なんですが、そこを抜けた先に大きな岩が切り立った岩場があります。そこが黒鉄竜などの強固な魔物が住まう場所になっています」
まずはどこにいるのか? それが重要になる。だからこそカナは簡潔にわかりやすさを重視して説明していく。
「次に、黒鉄竜の特徴ですが、幼体といってもその皮膚は硬く、簡単にはダメージを与えることはできません。また、他の魔物では見られない黒いブレスを吐くとのことです。そのブレスの効果は、火傷、腐食、呪いなどの効果があるそうです……正直かなり危険な依頼ですので、あまりお勧めはできません」
これまでも幼体だからと説明を聞かずに旅立って負傷していた冒険者を知っているのか、カナの表情は暗いものになっている。
普段、ここまで言うことはないが、これまでのやりとりで自然とそんなことを口にするだけの気持ちになっていた。
「ただ、黒鉄竜の素材は様々な用途に使えるので、欲する方は多いようですね。報酬もそれなりになっているのはそういうことが起因しています。あ、それともう一つ、今回の依頼は制限が今のところないため、ほかにも受注されているパーティもいます」
嫌なところばかりではせっかく受けてくれたハルたちのやる気をそいでしまうと、カナは説明を続ける。
「なるほど、了解した。それじゃ、黒鉄竜の弱点について教えてもらえるかな?」
ハルの質問に頷くと、カナは黒鉄竜について知りうる情報を話していく。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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