第九十二話
お茶の間、先ほどまでのシリアスな空気はどこかに消えて和やかに談笑が続く。
ルナリアの小さい頃の話で盛り上がったり、ルナリアが家を飛び出した時の話をしたり、ハルと出会ってからルナリアがどうだったのか、どんな戦いをしたのかで盛り上がっていた。
そろそろ夕食の時間になるという頃に、ハルが話を変える。
「――さて、色々つもる話もあるだろうけど、一つ確認しておかないといけない。この家は伯爵家。だけど俺は、いや俺とルナリアは冒険者だ。俺はルナリアとパーティを組んでいる……これからもともにやっていこうと思っている。つまり連れていくつもりだが、いいのか?」
快く送り出されるか、それとも追い出されるか、もしくはこの家に閉じ込められるか。
家を飛び出したと思った娘が、元気な姿で帰ってきた。
となれば、このまま一緒に暮らしたいと思うかもしれない。それゆえの確認だった。
ハルの言葉にルナリアは息を飲む。
家に帰ってきて、家族と久しぶりにあって、楽しい時間を過ごしている。
しかし、冒険者として旅をしている途中であるため、ずっと滞在するというわけにもいかないことはルナリアもわかっていた。
優しく微笑んだルーナとミーナは口を開かず、当主であるエルステッドに視線を送る。
全員の視線を感じてエルステッドはどう結論を出すか悩むことを誤魔化すように咳払いをする。
「ご、ごほん。そ、それはすぐに決断しなければならないことなのか? 二人が冒険者なのはわかっている。だったら、この街を拠点として活動するというのも選択肢にあっていいのではないか?」
この質問と意見は、なるほど冒険者の特性を考えれば正しいものではある。
だがどこかルナリアをこのままここにとどめておきたい気持ちがにじみ出ているのは、誰が聞いてもわかるものだった。
「はあ、あなた……それじゃあただ結論を先延ばしにしているだけじゃないの……」
「エルは昔からそういうところがあるわよね」
ため息交じりのルーナと呆れた眼差しのミーナの二人から責められるエルステッド。
図星を指されてうっと唸るようにエルステッドは黙ってしまった。
この三人とルーナたちの姉は幼馴染で、小さい頃からよく一緒に過ごしていたゆえの気軽さがあった。
「ハルさん、ルナリア。あなたたちは冒険者なのだから――その行動は自由です。だから、旅に出たければ出て構いません。お父さんが言うようにこの街をしばらく拠点にしても構わないし、別の街に向かうというのであればそれもあなたたちが好きに決めていいのよ」
母親としての包容力を出したルーナは穏やかな笑顔で二人に話す。
それは二人を応援する雰囲気があり、ハルとルナリアは背中を押してもらったような気持ちになる。
「そうよそうよ、エルの言うことなんて気にしないで好きにしなさい! ……まったく、昔っからこの男は!」
ルーナの意見に同意するミーナはこれまでどこか冷たさを含んだ気品あふれる雰囲気だったが、エルステッドにイライラした結果、素が出てしまっていた。
「い、いや、私はだな……その、ルナリアに少しでもこの家にいてほしくて……」
しどろもどろになるエルステッドは放置され、話が進む。
「俺はこの街に宿をとるつもりだが、ルナリアはここに泊まるか?」
「い、いえいえ! 私も宿に泊まります! 確かにここは私の実家ですけど、私は冒険者として生きていくと決めたのですから!」
そろそろお暇しようと立ち上がったハルの隣にいつものように立つルナリアを見て、エルステッドは娘の成長を喜び、少し残念に思い、そして隣にハルという男がいることに苛立っていた。
「うんうん、ルナリアも成長しましたね。ハルさん、娘のことをよろしくお願いします」
娘の成長を直接感じ取って嬉しそうに微笑みながら深々と頭を下げるルーナ。
「可愛い姪のことを頼んだわよ」
ハルの肩に手を置いて、ニヤリと笑ったミーナは念を押すように頼んだ。
「あぁ、わかってるよ。ルナリアのことは俺が守ろう」
「私もハルさんを守ります!」
しっかりと頷いたハルの言葉に守られるだけではいられないとルナリアが続く。
そんな二人の様子にルーナ、ミーナは安心していた。
「それじゃあ、街の様子を見たいから俺はそろそろ行くが……ルナリアはあとでもいいぞ?」
「いえ、すぐに行きます!」
家族との時間を少しでも伸ばそうと気遣うハルの言葉にルナリアは首を振って笑顔を見せる。
そうして二人は部屋を出ていこうとした。
その時、視線の端に悲しそうな表情のエルステッドが映った気がしたが、ここで踏みとどまってはいつまでも離れられないだろうと二人は足をとめず部屋を出ていった。
エルステッドを部屋に残し、ルーナ、ミーナは笑顔でハルたちを見送っていた。
「――さて、これで色々心の重荷はとれたか?」
「えっと、はい、その、ありがとうございます……」
ハルはおそらくこうなることを予想していた。
そのうえで、これはルナリアにとって必要なことであると判断したため、この街にくることになった。
ルナリアのことを考えてくれた。
そのことは、ルナリアの心に喜びをもたらし、うっすらと頬が赤くなっていた。
「……ん? どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもありません! さあ、街の案内をしましょう! まずは宿に行きますか? 冒険者ギルドに行きますか?」
慌てたようにルナリアは早足になって、顔を見られないようにしながらハルに質問する。
「そうだなあ……まずは冒険者ギルドにしよう。すぐに出発する依頼を受けるかもしれないからな。そうなった場合、宿代が無駄になるだろ」
「わかりました、それでは冒険者ギルドから行きましょうか。まあ、どちらも近いんですけどね」
そう言って、ルナリアは少し先行したまま冒険者ギルドへとハルを案内していく。
ハルは道中、街の人々の表情を見ていた。
「――いい顔してるな」
「……えっ? あ、そうですね。みんな、すごく楽しそうです」
ぐるりと街を見渡してハルは嬉しそうに呟く。
家族連れも、冒険者パーティも、子どもたちも、恋人同士も、みんなみんな楽しそうな表情で歩いている。
中には特別いいことがあった人もいるかもしれないが、その多くは自然とそんな表情になっている。
「この街の雰囲気がいいってことは、おそらく伯爵家のやり方がいいんだろうな。エルステッドも捨てたもんじゃないな」
「ふふっ、お父様もああ見えてお仕事はしっかりする方なんですよ」
ハルが褒めてくれた街を作った父のことをルナリアは、少し誇らしく思っているようだった。
そんなやりとりをしているうちに、二人は冒険者ギルドへと到着する。
足を踏み入れると、洗礼である見慣れない冒険者への視線の集中が起こった――と思ったが、どうやら視線はそれだけにとどまらなかった。
「――ルナリア! あなた、帰ってきてたの?」
やや露出の多い服装の猫の獣人の美しい女性がルナリアに声をかけてきた。
服装から察するに恐らくは魔導士だと思われるが、そのしなやかな身体に纏う布の頼りなさは他の比ではなかった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、風魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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