第八十九話
話がひと段落したところで、ハル、ルナリア、そしてルーナの三人が別の部屋に場所を移して話をすることとなった。
ルナリアの父――エルステッドは、自分だけ除け者にされることを不満そうにしていたが、ルーナのにっこりと深い笑顔に押し切られる形となった。
「……さて、わざわざ二人に来てもらったのは他ではありません。ルナリアのことについてです」
それまでの柔らかな笑顔から真剣な表情になったルーナのその言葉に、ハルはやはりと頷く。
「その顔を見ると、ハルさんは私が何を話したいかわかってらっしゃるようですね」
「あぁ、さっきルナリアが魔法について話をした時に反応がエルステッドと違ったからな。ルナリアが魔法を使えなかったことに関して何かを知っているんだろうなと思ったんだ」
落ち着いた様子で話すハルをみたルーナはそっと悲しげに目を伏せた。
「な、なな、なんで!? お母さん、何か知っていたんですか!?」
当のルナリアは立ち上がってルーナに食ってかかる。
「ルナリア、落ち着きなさい。それをこれから話します」
「ルナリア、座ろう」
窘めるようなルーナ、なだめるようなハルが順番に声をかけることで、唇をきゅっとしながらもルナリアは落ち着きを取り戻して着席する。
「……ふう、ごめんなさいです。話して下さい」
二人が黙って待ってくれたおかげで、ルナリアは自分が冷静ではないと気づき、一度深呼吸していた。
「ふふっ、あなたはいつもは落ち着いてるのに、いざ自分のこととなるとすぐに動揺するのは昔から変わらないわね。でも、ハルさんの影響かしら? 落ち着くまでがだいぶ早くなったわね」
母親の表情で微笑むルーナはルナリアの様子を見て、変化を感じ取っていた。
「――っ、も、もう、お母さん! やめて下さい!」
今度はルナリアは顔を真っ赤にしていた。
ハルの前で、いつものやりとりを見せるのが恥ずかしいようだった。
「それで、ルナリアについての話っていうのはなんなんだ?」
話が横にそれてしまっているため、真剣な表情のハルが話を戻す。
「あら、そうでしたね。――ルナリア、あなたはもともと相当な才能があります。あなたの持っているギフトは、五つの属性の魔法が使えるという破格なものです」
そう話しながらルーナは大事な娘の第一成人の儀を行った日のことを思い出す。
今現在のルナリアの能力はだいぶ変わっていたが、ハルもルナリアもまずは話を聞くことにする。
「そのあたりはハルさんもご存知のようですね」
特に驚く様子がないため、ハルに声をかけたルーナに、彼も頷いた。
「そして、ルナリアがその魔法を使うことができなかったというのもご存じのうえ、それを使えるようにもしてくれたとのことですよね?」
「あぁ、そういうことだ。ちなみに、どうやったかは秘密だ。俺のギフトにかかわることだからな」
ドライなハルの答えに、ルーナはニコリと笑う。
「それはもちろんです。このままずっとルナリアは魔法を使えないと思っていたので、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます」
深々と頭を下げるルーナにハルは驚く。
ルナリアは母の言葉に涙を目にためていた。
「ふふっ、ルナリアは相変わらず泣き虫ね。ハルさんは驚いているみたいですね。ということは、色々予想できていたということですか」
「まあ、な。そもそも、ルナリアが魔法を使えなかった理由は伯母さんが関係しているだろうことは予測できていた。それに加えて、さっきルナリアが魔法を使えるようになったと言った時のリアクションがエルステッドと違ったからな」
ハルが色々と見ていたことにルーナは笑顔になり、ルナリアは驚いていた。
「――それで、その伯母さんとやらはそんなことをルナリアに?」
伯母がルナリアに何かをしたため、ルナリアには呪いが付与され、魔法をまともに使えなくなってしまった。そのことをハルはこの段階で確信していた。
「それは、私からお話ししましょう」
扉が開くとともに一人の女性が入ってきた。
「伯母様!」
その正体はルナリアの反応によってわかることとなる。
「初めまして」
ハルが立ち上がって挨拶しようとするが、伯母はゆっくりと首を横に振って座るよう促す。
「あなたはハルさんですね。冒険者で、ルナリアが魔法を使えるようにしてくれたとの話は聞いています。あたしはルナリアの伯母のミーナです。ありがとうございます」
そう言って伯母のミーナが頭を下げる。
彼女もルナリア、ルーナと同様に狐の女性獣人であり、顔だちもルーナとよく似ていた。
ただどこか冷たさをはらんでいるのは彼女の性格が表れているのかもしれない。
「俺のことを知っているのは、ルーナから聞いたとして――礼を言われるのはちょっと違和感があるかな」
ルナリアが魔法を使えないようにしたのがミーナであり、魔法を使えるように礼を言ったのもミーナ。
どちらが彼女の本性なのかわからないため、ハルはどう判断していいのか迷い、表情をゆがめる。
「そうですね。ハルさんがおっしゃることはよくわかります。ただ、礼を言いたい気持ちは本物ですよ。ルナリアが存分に魔法を使えるようになると思っていませんでしたから」
どこかトゲのある言い方で挑戦的に微笑むミーナとぐっと硬い表情をしたハルが視線をぶつけあっている。
目には見えないが、小さな火花が散っているように感じられるほどのものだった。
「まあまあ、ミーナちゃん。せっかくルナリアが帰ってきてくれて、ハルさんも来てくださったのだから、そんな怖い顔をしないの。ほら、こっちに座ってちょうだい」
ふふっとわらうルーナの呼びかけに、ミーナはふんと視線を一度逸らし、彼女の隣へと腰かけた。
「――さて、あなたはどう思ってるのでしょうか?」
ソファに腰かけたミーナは挑戦的な表情で、ハルに問いかける。
ハルがどこまで知っているのか? 何をどう理解しているのか? それを知りたいようだった。
「話してもいいが、いいのか? ルナリアにも聞かれることになるけど……」
ハルはそう言いながら、ルナリア、ルーナ、ミーナと順番に顔を見ていく。
質問者のミーナはもちろん頷き、ルーナは全て理解しているため静かに頷き、ルナリアも自分のことを知りたいため何度も頷いていた。
「……わかった、それじゃ俺が考えていることを話していこう」
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、風魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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