第八十七話
ルナリアの案内に従って、最初の小さな村へと立ち寄ることにした。
「村には宿はあるのかな?」
「確か、小さい宿が一軒だけあったと思います」
ルナリアの記憶を頼りに、宿に向かうと一部屋だけ空いているとのことで二人は一泊することにする。
ベッドは二つあったが、ピッタリと隣り合っているせいで距離が近く、二人はどことなく緊張してなかなか寝付けずに一晩を過ごすこととなった。
そのため、翌朝の二人は少し寝不足ぎみだったが、宿で朝食を食べてから出発することにする。
「ふわあ……とりあえず俺が馬車を操縦するから、ルナリアは寝てるといいよ」
「すみません、そうさせてもらいます……」
実家について、寝不足な顔を見せるのはあまりよくないとルナリアは考え、ハルの言葉に甘えることにする。
道順は事前に聞いていたため、ハルは迷いなく馬車を進ませる。
少しでも休めるようにとファロスには揺れの少ないのんびりとした進行を指示をし、なるべく穏やかな道を進んだ。
通常であれば、半日ほどで到着する距離だったが、ゆっくりとした進行だったため、彼女の故郷となる街に到着したのは日が高くのぼって、昼をだいぶ過ぎたころだった。
「――ルナリア」
「はい、起きてます」
ハルが優しく声をかけると、馬車の中でルナリアはしゃっきりと起きていた。
「お、いい表情になってるな」
「はい、ハルさんを連れていくのですからしっかりしていないと!」
少し寝たことで気持ちの整理がついたのか、実家に帰るにあたって、ルナリアはどこか気合が入っているようだった。
「……俺も少し顔を洗わせてもらうか」
彼女のやる気みなぎる表情にふっと優しく笑ったハルは水魔法を使って自分の顔を洗う。
さすがに寝ぼけた顔のままルナリアの家族に会うわけにはいかないため、少しでもリフレッシュしたかったためだ。
その間にルナリアは馬車を街の入り口へと進ませていた。
外からの侵入者を守るために作られた外壁に備えられた大きな門の前には、様々な人たちが列をなして検問を待っていた。
「――身分証明書を見せて下さい」
途中で立ち寄った村とは違い、ルナリアの故郷の街は大きく、衛兵もしっかりと配置されている。
数人で一列を処理し、厳しい表情をした衛兵たちが仕事をこなしていた。
「はい。ハルさんもお願いします」
「はいはい、えっと、これだな」
二人の身分証明書となる冒険者カードを何らかの機械で確認すると、問題なかったようで衛兵はすぐに街へととおしてくれる。
「ようこそ、ガンヅバイドの街へ。お二人に幸あらんことを」
最初に見せていた厳しい表情を和らげ、衛兵は柔和な笑顔でハルたちに声をかけて、見送ってくれる。
「――ガンヅバイド……なんだか強そうな名前の街だな」
「ふふっ、初めて聞いた方は良くそう言われますね。この街は別名を魔導都市ガンヅバイドといって、魔法の研究も盛んな街なんですよ」
想像していた以上にいかつい名前にハルがぼそりとつぶやくと、故郷の別名をどこか誇らしげに言うルナリア。
離れた街で活動をしていた彼女だったが、やはり故郷のことを大切に思っているようだった。
歩きながらハルがぐるりと街の中を見渡すと、ローブを身にまとった人たちが多く見受けられた。
街並みもどこか落ち着いた中にも最新の魔法技術が詰まっている家や建物が並んでおり、この街の発展具合がよくわかる。
「なるほど、道行く人物に魔法使いらしい姿が多いのはそれが理由なのか。この街もスイフィールとは違って特徴のある面白そうな街だな」
「そうなんです! 魔道具職人の方もたくさんいて、この街から新しい魔道具のブームが生まれているといっても過言ではないんですよ!」
ルナリアは興奮気味に街のことを語り始める。
魔道具と聞いてハルがふと目を向けた先に会ったお店では、いろんな動きをしている不思議なアイテムがたくさん並んでいるのがわかった。
その後も、あの店はこんなにすごい店で、そっちの店は色々なものが売っていて――などと、ルナリアは通りに並んでいる店の説明をしていく。
ルナリアがこれだけ説明できるだけあり、相手側も彼女のことを知っているため、手を振ってくる者もいた。
「あーら! ルナリアちゃん! 帰ってきたのかい!?」
「あ、おばさん! ちょっと寄っただけなんだけど、実家に顔を出そうと思って」
ルナリアの姿を見つけてにこにこと満面の笑みで馬車に近づいて話しかけてきたのは、道具屋を営んでいる女性だった。
ルナリアにおばさんと呼ばれるだけあり、年齢は四十代~五十代である。
少しふっくらとしたその女性は人族ではあるが、ルナリアがガンヅバイドにいたころに仲良くしている人物だった。
「そうかいそうかい、うんうん、家に顔を出すのはいいねえ。お母さんもきっと心配してると思うよ……。――あらあらまあまあ、そっちのお兄さんはルナリアちゃんのいい人なのかい?」
ルナリアの姿を久々に見れて嬉しそうに笑った女性は、馬車にいるハルの姿を見てひそひそとルナリアにささやく。
小声で言っていたが、テンションの上がっていた女性の声は抑えきれておらず、ハルの耳にも届いていた。
「お、おばさん! ハ、ハルさんはそんなんじゃ!」
ぶわりと尻尾と耳の毛を膨らませて真っ赤になったルナリアが慌てたように女性に言うが、ちらりと女性が目を向けた先でそっぽを向くハルの耳も真っ赤になっているところから、まんざらではないのだろうなと予想していた。
「ふふふっ、いいじゃないのよ。お兄さん、ルナリアちゃんのこと頼んだよ!」
ニタニタと笑った女性はそれだけ言い残すと、馬車から離れて店に戻って行った。
「あ、あの、ハルさん! き、気にしないで下さいね!」
わたわたと慌てて取り繕うようにルナリアは前を向いたまま、馬車の中にいるハルへと声をかける。
「あ、あぁ……。俺の知り合いのおばさんにもあんな感じの人がいたから、わかってるよ」
少し動揺交じりのハルの返事はルナリアが求めていたものと大きく差はなかったが、なぜかルナリアの尻尾はへにゃりと力をなくしていた。
「……はい、そうですよね。わかってますよね……」
「え、えぇっと、ルナリアさん?」
それからは、馬車の中を重い空気が流れることとなる。
ルナリアもこんな態度をとるつもりではなかったが、久しぶりに自分のことを知っている人に会い、その人にハルとのことをからかわれたため、頭の中がすっかり混乱してしまっていた。
女性の扱いになれているわけではないハルは、どうしたものかと思いながらもそっとしておくことを選んだ。
そして、どこか硬い空気のまま街を進んだ馬車はある建物の前で止まる。
周囲の建物とはまた違う上品さがあるこの少し大きな家がルナリアの実家のようだった。
「――ここです」
そう言って馬車を降りたルナリアの表情からは先ほどの暗さはなくなっていた。
代わりに、久しぶりに家族に会うという緊張感が彼女の心を支配しているようだった。
「ルナリア、大丈夫だ。家族なんだから、きっと大丈夫だ」
隣に立つハルがそう言うことになんら根拠はなかったが、少しでも彼女の気持ちがほぐれればとルナリアの肩に手を置いて優しく声をかける。
すがるように振り返ったルナリアは肩に置かれた手のひらから伝わるハルの体温を感じて、少しずつ気持ちが落ち着いてきていた。
「……はい、大丈夫です。行きましょう!」
そうして、複雑な表情をにじませて笑ったルナリアは門を抜けて実家の扉のノッカーに手をかける。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
NEW:風魔法1(経験値)、ブレス(炎)経験値、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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