第八十六話
「森の雰囲気がすっかり変わったなあ」
「鳥の鳴き声も聞こえてきて、穏やかな雰囲気ですね」
スイフィールの街を出た二人はファロスが引く馬車に揺られて、北の森へとやってきていた。
森からは既に濃い魔力は払しょくされており、生息する魔物もルナリアが以前通った時と同様のランクまで下がっていた。
「これなら、スイフィールとの行き来も安全にできるからよかったよ。俺たちが調査したかいがあるってものだ」
「調査も命がけでしたからね……アレが活かされてよかったですよ」
オーガキングと戦った時のことを思い出して、ルナリアは身震いしていた。
戦闘中はアドレナリンが出ていたため、恐怖が抑え込まれていたが、今になって思えば相当に危険な相手だったという事実がルナリアに襲い掛かっていた。
「やっぱりオーガキング相手はやばかったよな……俺たち以外が戦ってたら、やられていた可能性もあるから、俺たちが第一調査班でよかった」
ザウスなどのAランク冒険者であれば、オーガキングともまともに打ち合うこともできるが、調査依頼程度だと上位ランクの冒険者が受けおうことはほとんどない。
「他の同ランクの冒険者が受けてて、なおかつあの場所までたどり着けたらまずかったな」
「はい……その冒険者が戻ってこなくて、捜索依頼が出て、再び同じランクの人たちが……なんて考えたら、かなりきわどい状況だったと思います」
ハルたちは硬い表情で以前の姿を取り戻した森をぐるりと眺める。
もし自分たちが受けようと思わなければ、先に誰かが受けようとしていたら、ハルたちにそんな依頼があると受付嬢が説明していなかったら――。
可能性を考えればいくらでもあがるが、それほどにちょうどいいタイミングでハルたちがギルドにやってきていた。
「まあ、今は安全になったからよかったよ。依頼を受けた冒険者たちが頑張ってくれたみたいだからな」
森に入ってここまで、敵意を持って現れる魔物はおらず、ハルたちを見かけても急いで逃げ出す程度のものだけだった。
また、魔物が消えた情報は森の向こうの街にも伝わっているらしく、ここまでで数台の馬車とすれ違っていた。それらの護衛は普通の行き来に必要な程度にとどまっており、人々の顔も穏やかだ。
「この森は長いのか?」
まだまだ森の出口が見えてこないので、ハルが確認の質問をルナリアに投げかけた。
「えーっと、もう少しだと思います。さっきの大きな岩がおよそ中間地点なので、そろそろ入り口が見えてきてもいいころあいだと……」
そうつぶやくのと同時に、森の終点から差し込む光が二人の目に入った。
「あれです!」
「おぉ!」
森の先が早く見たかった二人はファロスを少し急がせて、一気に森を抜ける。
魔物が少なくなったとはいえ、やはり木々が生い茂る森の中の移動はやや閉塞感があった。
森から出る解放感に二人は自然と笑顔になっていた。
「おー! これはすごいな」
森から出て目の前に広がる景色にハルは目を輝かせていた。
森に入る前はずっと平地を進んでいたが、森の中は極々緩い傾斜が続いていたらしく、出た時には小高い場所になっていた。
そして、眼下に広がる草原は夕焼けに照らされて、まるで赤い海がそこにあるかのようだった。
「綺麗です……」
さわさわと心地よい風が草原を揺らし、その景色にルナリアも思わず見とれているようであった。
彼女もスイフィールに向かう時にこの道を通っただけであったため、この光景を目にするのは初めてだった。
「――ルナリア……俺はさ、ずっと戦う力がなかったから、少しでも力をつけようと身体を鍛えてたし、戦いの中で何かの役に立てばと思って魔物の勉強とかもしてきた。ただただ、冒険者になるためだけにやってきたんだよ」
ぽつりぽつりと語りだしたハルは自分のこれまでを振り返っているようだった。
その思いはルナリアも共通する今までを持っているため、静かにうなづいていた。
「でもさ、こうやって力を手に入れて、ルナリアという仲間が加わって、色々美味しいものも食べて、旅をして……こういう綺麗な景色を目にしていくのもいいな」
飾った言葉ではなく、ただただ思ったことが自然と口からでてきたという風のハル。
その横顔は遠くを見るようにこれからの未来に向いていた。
「わかります。私もダメな自分をずっと抱えながら生きてきました……。家族の反対を押し切って冒険者となって……でも、ハルさんと出会って自分の力を使うことができるようになって世界が広がりました」
夕日に照らされながら尻尾をゆらゆらと揺らすルナリアも、同様に自然と言葉が出ていた。
「これまでの旅は、人のためなんて言っておきながらも、自分の力をどうやって使っていくかを考えていたと思うんだよな。でもさ、こういう景色を楽しむのもいいなあって思ったんだよ」
「はい! すごくいいと思います! でも……自分の力を使おうと思ったとしても、それもいいと思いますよ? 結果として湖は助かりましたし、森も平和になりました。それは全部ハルさんと、あと少しだけ私ががんばったおかげですから!」
ハルににっこりと笑いかけるルナリアは、控えめながら自分の手柄も主張するだけの自信が出てきていた。
「よし、とりあえずはあれだ」
「はい、あれですね……って、なんでしょうか?」
思わず返事をしたルナリアだったが、ハルが何を指しているのかわからず首をかしげる。
「……ルナリアの親への挨拶だ」
「ひぐっ!」
ハルの言葉に、びくりと大きく体を揺らし、毛をぼわっと逆立てたルナリアは変な声を出してしまう。
「ははっ、面白い反応だな。とにかくルナリアの親に会って一緒に旅をさせてもらってることを話そう。それから、会えるならルナリアの伯母さんにも会いたいものだ」
「……はい」
ハルの口から伯母――と聞いた時、ルナリアの顔に影がさす。
ルナリアが魔法を自由に使えなくなっていたのは呪いが理由だった。
そして、その呪いをかけたのはおそらくルナリアの伯母である。
なぜ、そんなことをしたのか? ルナリアに恨みでもあるのか? 憎いのか?
それともルナリアの親に対して思うところでもあるのか……?
ルナリアの頭に様々な疑問が頭に浮かぶが、それこそ本人に聞いてみるしかないというのがハルの結論だった。
「とにかく、ルナリアの故郷を目指そう――で、どっちだ?」
「あ、えっと、まっすぐ道なりに行くと小さな村があって、さらに北上すると私の故郷の街があります」
けろりとしたハルの質問に、ハッと我に返ったルナリアが慌てて答える。
「よし、それじゃあルナリアの故郷目指して出発だ!」
「ヒヒーン!」
「お、おーっ!」
びしっと目的の場所を指さして手綱を握りなおしたハルの言葉に、ファロスが同意するようにいななく。
ルナリアはその勢いに背中を押されるように手をあげて答えるも、その心の中は不安が残っていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
NEW:風魔法1(経験値)、ブレス(炎)経験値、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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