第八十三話
オーガを強く睨み付けながらハルは身体強化のスキルを全て発動させて剣を構える。
「まさか、こんな強いやつがいるとは思わなかったな」
ここまでに何種類もの魔物を確認していた二人だったが、その中でもオーガキングははるかに図抜けた強さを持っている。
「お前たちの目的はこいつなんだろ? なんだったかな、魔力噴射用魔物だったか? 魔素噴霧用魔物だったか? まあ、そんな感じの名前だ……ちなみに、お前はこいつのことをなんと呼ぶんだ?」
フレンドリーに話しかけてくるオーガキングに対して、硬い表情でハルは剣を構えたまま答える。
「そのまんまだ。緑の鬼みたいだから、緑鬼と呼んでいる」
ハルの回答を聞いて、一瞬目を見開いて固まり、間を置いたのち、オーガキングが噴き出したように大きな声で笑いだす。
「……はっはっは! 緑鬼か! ははっ、確かに特徴をそのままとらえた名称だ。悪くないな! いや、はっはっは、しかし、緑鬼とはなあ」
ハルの答えがツボに入ったらしく、オーガキングは腹を抱えてしばらく笑っている。
「ははは、ふうふう、はあはあ……すまんな。久しぶりにこんなに笑わせてもらったぞ」
なんとか笑いが収まってきたところで、ハルたちに声をかける。
「かまわない。それよりも、なんの目的でこんなことをやっているんだ?」
「なんのため、か。ふーむ、悪いがその質問には答えられない」
まあ、そうだろうな。と目を細めたハルは内心で考えている。
「せっかく笑わせてくれたから、礼代わりに少しは情報を出してやりたいところなんだが、俺は詳しいことは聞かされていないんだ。ただ、その緑鬼――ぷふふ、ははっ、悪い、そいつを連れて森に行くよう言われただけなんだ」
「……誰に?」
知らないなら、知ってる情報を引き出そうとハルが質問を重ねる。
「はははっ、いい質問をするな。俺がそれをポロっともらしたら、いい情報にたどり着けるものな。何も知らないやつから情報を引き出すにはいい手だ」
「――まあ、そううまくはいかないか」
ハルの思惑に気づいたオーガキングはにやりと笑う。ハルはやはり一筋縄ではいかないものだと諦めたように息を吐く。
オーガキングと会話をしているハルを見て、ルナリアはシュターツとの戦いを思い出していた。
「ハルさん、あまり仲良くなるのは……」
戦いづらくなってしまうのではないか? そうルナリアが心配そうに声をかける。
「あぁ、わかってる。こいつは――敵だ」
「そうだな……かかってこい!」
決意を込めた眼差しで再びオーガキングを睨んだハルは、剣を片手に迫る。
「ふんっ!」
そのハルめがけて、嬉しそうに小さく笑みを浮かべたオーガキングは大剣を力強く横なぎに振る。
サイズが大きいため、攻撃範囲が広く、ハルからすれば避ける方向が制限される。
その中でハルは上空を避ける方向として選択する。
跳躍したハルは、そのままの勢いでオーガキングへと剣を振り下ろそうとする。
「――甘い!」
だがオーガキングはそれすらも予想していた。
大剣の動きを無理やり止めて、上空にいるハルめがけて大剣を振りなおす。
空中で動きを変えられないハル。
これで決まった、とオーガキングは思う。
「“フレアボム”!」
ハルも簡単にやられるわけにはいかないと後方に爆発魔法を発動させて、その勢いのままオーガキングへと一気に迫る。
「ふっ!」
しかし、オーガキングは口から牙を飛ばしてハルの目に向けて放つ。
咄嗟にハルは目をつむり、それを防ごうとする。それはオーガキングから見れば無防備な姿だった。
「その程度で俺の牙が防げると……なに!?」
つまらなさそうにしていたオーガキングだったが、ハルの様子を見て驚愕する。
彼は目をつむり、瞼に竜鱗を発生させて牙を防いでみせたのだ。
弾かれたと同時にハルはカッと目を開いて、オーガキングへと剣を振り下ろした。
「ぬおおおお! させんぞおおお!」
一瞬驚いて隙ができてしまったオーガキングは右手には剣を持っており、すぐには戻せないため、反射的に伸ばした左手でハルの剣を受ける。
「その程度で防げると思うなああああ!」
ハルは増強スキルを全て使用し、剣には炎をまとわせて全力で攻撃をしている。
「ぐがああああああああ!」
そんな声とともにオーガキングの左手は肘のあたりで真っ二つにされていく。
しかし、斬られたのとほぼ同時に剣を離した右手でハルのことを殴りつけた。
「ぐはっ!」
痛みに耐えながらの攻撃はすさまじく、ハルは左の肩あたりを激しく殴られ、そのまま殴り飛ばされてしまう。
「よくも……よくも、俺の左手を! 殺してやるぞ!!」
近くに転がる大剣を拾いなおして、怒りに頭が染まったオーガキングがハルに迫ろうとする。
「っ――な、なんだ!?」
しかし、足が前に出ないことに気づいて怒りから一転、動揺し、足元を見る。
「させませんよ」
ルナリアはこれまでにも幾度となく魔物を動きを止めてハルの援護をしていた。
今回も同様に得意の氷魔法で足を地面に張り付けて動けなくしていたのだ。
「いいぞ!」
ルナリアの心強いアシストを受けてその隙をついたハルが再びオーガキングへと襲いかかる。
「うがあああ! う、うごけええええ!」
オーガキングはこのままじっとしている気はなく、どうにかして身体を動かそうともがく。
パリッ、パリッという音とともに徐々に足元を封じている氷が無理やり引きはがされようとしていた。
「――遅い」
ハルは剣を今度はオーガキングの頭部めがけて振り下ろす。
加えてルナリアは再度氷魔法をしようして、はがされようとしている氷を補強していく。
「小癪な!」
この氷さえなければ――とオーガキングは元凶であるルナリアを憎らしげににらみつける。
「くそっ、【硬化ああああ】!」
悔しげに放たれた舌打ち交じりのその言葉とともに、オーガキングの身体はみるみるうちに真っ黒になっていった。それはまるで金属のように黒々と輝いている。
その間にも攻撃をやめていないハルの剣が命中するが、それは弾かれてしまう。
「なんだと!?」
これまで多くの魔物を倒してきたハルの攻撃が完全に防がれてしまった。
それだけで十分驚く材料だったが、一瞬のうちに硬化を発動させたことにもハルは驚いていた。
あの速度で発動が可能であれば、よほど虚をつくか、圧倒的な攻撃力でもって攻撃するしか他はない。
「まったく、大した魔物だ。だてにキングの名前がついているわけじゃなさそうだ……」
「ふっ、この程度で驚いてもらっては困る……が、そうも言っていられないか。一つ教えておいてやる。俺はこの状態になると、お前の剣ごとき弾くくらいには防御力が上がる。だが、この状態になると、俺は動きが極端に遅くなる」
なぜ弱点を口にするのか? とハルとルナリアが疑問に思った次の瞬間。
「じゃあな」
二ッと不敵に微笑んだオーガキングの残った右手にはいつのまにか青い球が握られており、それを思い切り地面にたたきつけるとぼわっと、濃密な青い煙が生まれる。
「な、なんだ!」
「“エアブラスト”!」
ハッとしたように咄嗟の判断でルナリアがその煙を風魔法で吹き飛ばしたが、そこには誰の姿もなかった。
「逃げられたか……」
「はい、緑鬼まで姿が見えないです……」
目的以上のことを達成し、元凶も排除したが、ハルとルナリアはどこかすっきりしない表情だった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
NEW:風魔法1(経験値)、ブレス(炎)経験値、
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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