第七十七話
光が収まって、ハルとルナリアが目を開くと上陸していた島の上にいた。
「戻ってきたみたいだな……」
「はい、でもなんだか島の力が弱くなっているような気がします」
ふと周りを見渡したルナリアが何気なく呟いたそれを聞いて、ハッとしたように何かに気づいたハルは慌てて彼女の手を握る。
「な、なんです!?」
そのまま走り出したハルの急な挙動にルナリアは動揺するが、彼はそれどころではないといった表情になっている。
「ルナリア、急いで船に戻るぞ! ――島が、崩壊する!」
そう言うや否や、ハルは全速力で走り始めた。
「きゃあ! い、急ぎましょう!」
最初は引きずられるように走っていたルナリアはハルが告げた事実に小さな悲鳴をあげるが、彼の言葉を理解して、これは急がなくてはいけないと走り始める。
「な、なんで急にこんなことに!?」
「恐らくこの島は俺たちに会うためだけに復活させた島なんだよ。だから、俺たちと会えたからあとは用済みってことだ!」
「な、なるほど!」
礼を言うためにハルとルナリアを呼び寄せた湖の神。会って話した感じではハルの予想が当たっているのだろうとルナリアは納得する。
そんなやりとりをしながらも、二人は速度を落とさずに走り続けていた。
「……おーい! こっちだ! 早く来い!」
二人に向かって大きく手を振りながら声をかけたのは、グーガだった。
「おぉ、待っていてくれたのか!」
「当たり前だ! それよりも早くこっちに来い! なんか、島がやばいぞ!」
ハルたちを待っている間、船の上で待機し、外にずっといたグーガはゴゴゴゴという地鳴りのような音から、島に異常があると判断していた。焦ったような声音でハルたちに声をかける。
「急げ急げ!」
まくし立てるようにグーガは二人を急かしながら、出航の準備を進めている。
「ルナリア、悪い。少し飛ばすぞ!」
このまま走っていては間に合わない可能性もある程、地面が揺れ始めているのを感じたハルはそう言うやいなや、繋いでいた手を強く引き寄せ、ルナリアを抱え上げる。
いわゆるお姫様抱っこというものだった。
「きゃっ! ハ、ハルさん! 一体なにを……」
またしても急な展開に驚くルナリアのその質問に答える前に、ハルは強く足を踏み込んでジャンプし、更に自らの後方に爆発魔法を発動させていた。
「いっくぞおおおお!」
何度かハルが使っている方法で、爆風を自らの身に受けて、それを推進力として前方に飛ぶ。
既に、島が徐々に崩れているのがわかっているため、少しでも急ぐ方法はないかとチョイスしたのがこの方法だった。
「うおおおおおお!」
「きゃああああ!」
気合の入った雄たけびと訳の分からない恐怖による叫び声をあげながら二人は船を目指していた。
そして、船の手前で見事に着地するとすぐに乗り込む。
「出発するぞ!」
二人が乗船したのを確認すると、グーガは慌てて船を出発させた。
次の瞬間、島が更に大きく振動し始める。それに合わせて湖の水も激しく水しぶきを立てて揺れ動く。
「ルナリア、強すぎない風を生み出してくれ!」
「了解です!」
少しでも船が進む速度をあげるために、ハルが指示を出す。
ルナリアは操縦に影響が出ない程度に、しかし船が進む速度をあげる程よい風力を生み出していく。
「おー! 速い! いっけええ!」
全力で船を操縦するグーガ、風魔法で速度を調整するルナリア。
そして、ハルは前方に何か障害が無いか確認して、進路を確保している。
しばらく船は進み、やっと島の崩壊の影響がない場所までやってきたところで三人は島を振り返る。
振動を生み出しながら水しぶきをあげる島がゆっくりと静かに沈没していく風景がそこにはあった。
「危なかった……」
「危機一髪です」」
「一体なんだっていうんだよ……」
状況がわかっているハルとルナリアはほっと一安心。
状況がわかっていないグーガは島が沈没していくのを呆然としながら見ていた。
「とにかく、島は沈没したし、原因も調査できたからよかったよ。グーガ、ありがとう」
「あ、あぁ、何が何やらって感じだが、とにかく役に立ったならよかった」
ハルが礼を言うと、未だ動揺が収まらない心持ちでありながらも、グーガはニッと笑ってしっかりと返答する。
「今後、湖に何か悪いことは起きないと思います。神様のお墨付きです!」
「……は、はあ?」
しかし、神様などという突拍子もないルナリアの言葉にはグーガも首を傾げるだけだった。
島が現れた時もそうだったが、今度は崩壊したことで小さな津波が発生してしまい、それも街の住民を驚かせることになっていた。
そんな中、ハルたちが街に戻ってきたので、ギルドマスターが自分の部屋に呼びつけて説明を求めることとなる。
最初、固い表情で窓から湖を見ていたギルドマスターがゆっくりと振り返ってハルたちを見る。
「ランからあんたたちにした依頼の内容は聞いてるよ。島の調査だってね。まず依頼を受けてくれたことには感謝する――ありがとうね」
まずはギルドマスターの礼から話が始まる。その表情はとても穏やかなものだった。
「――で、調査結果を報告してくれるかい? さっきの津波も、その調査に関係があるんだろ?」
部屋にいるのは、ハル、ルナリア、ギルドマスター、ランの四人で、全員が神妙な面持ちになっている。
「あぁ。まずは結果から話す。島は沈没して、湖の底にある。だから、あの島が今後何か影響をもたらすということはない」
その言葉に、ギルドマスターとランは少しほっとする。長らくあの島の問題で悩まされていたからこその安堵の気持ちの表れだった。
「次に、あの島に何があったか? という話だが……島があっただけで魔物の一匹もいなかったよ」
淡々としたハルのこの話に嘘はないため、ルナリアも隣で何度も頷いている。
「……ふむ、にわかには信じ難い話だね。魔物がいなかったというのは、まあ信じようじゃないか。でも、何かなければ島が沈没したから安全だなんてことは言えないはずだよ?」
「ほう」
思っていた以上に鋭いな――そうハルは感心する。
ハルの反応にひたりと静かににらむギルドマスター。
彼女にしてみれば、一つのギルドを任されるだけの人物を舐めるんじゃない――とでも言いたげな表情だった。
「話してもいいんだが、とうてい信じられない話だし、できれば外には出さないでほしい話だ」
それでも聞くか? ハルは視線でそう問いかける。
「あぁ、もちろんさ。あんたたちのことは、この間の依頼の達成からして信用に足る人物だと考えている。そのあんたたちがくだらない嘘なんかを吐くとも思えないからねえ」
「その通りです!」
片目だけ開けたギルドマスターの言葉に、前のめりになりながらランが大きく頷いて同意している。
「はあ、わかったよ。それじゃ、島で何があって、なんで崩壊したのか? それを話していく。聞きたいことがあったとしても、話し終わるまで待ってくれよ」
ため息交じりのハルの言葉に、二人は大きく頷く。
「あの島には……」
そこから、島で老人と会ったこと。老人の手引きで湖の底に行ったこと。
この時点で、ギルドマスターもランも聞きたいことがあったが、事前に約束していたため、その疑問を飲み込む。
そして、ハルは話を続ける。
老人の正体は湖の主であり、湖の神であるということ。
島はハルたちに会うために作ったもので、必要がなくなったから崩壊したこと。
湖の神が湖を守るために力を使うので、今後は恐らくあのようなことは起きないということ。
これらを全て聞き終えた時には、ギルドマスターもランも頭の上にハテナマークがいくつも浮かんでいた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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