第七十六話
「ほっほっほ、まさか神などと言う戯れを信じてもらえるは思ってもみなかったのう」
湖の神は二人の反応が意外だったため、一瞬きょとんとしたのち、柔らかな笑顔になっていた。
「まあ、似た雰囲気の人というか、神様を知ってるので。――性格は大違いだけど」
「うん、荘厳さというか神聖さというか、そういう部分が似ていますね」
苦笑交じりのハルと、手を合わせてふにゃりと笑ったルナリア。
彼らから見て、目の前の老人は魂の格が普通の人とは違うため、そう見えるというのが真実である。
「色々と納得してもられるなら話は早い。お主らのおかげで湖の問題は解決し、今は平和な状態にある。上に出ている島も魔族が作ったものが完全には消えていなかったもんじゃから、わしがちょっと足場として出しただけなんじゃよ」
それだけのためにあれだけの地面を再浮上させたというのには、ハルもルナリアも驚いていた。
「ちょっと! いや、はあ、まあ……」
この島の再浮上は、長年魔族によって作られた島の恐怖を味わっていた住民にとっては不安でしかない者だった。
それを知っているからこそ、文句を言いたいところだったが、人の感覚で話しても神である老人には通用しないだろうとハルは言葉を飲み込むことにした。
「……それで、なんのために陸地を浮上させたんですか?」
ここまでの話を聞く限り、湖の神はなんらかの目的があってあんなことをしたと予想できる。
「おぉ、そうじゃったな。まずは湖を救ってくれてありがとう……おや? もう礼の言葉は言ったかの? まあ、いいか。とにかくありがとう」
湖の神は穏やかな表情で再度礼を言い、自分の言ったことが思い出せないことに頭を傾げながらも何度も感謝の気持ちを伝えた。
神を名乗る人物が何度も頭を下げるという光景にハルもルナリアも、どう対応していいか困ってしまう。
「あの島が出てから、どうにもわしの力も弱まってな。あの島にどんどん力を吸い上げられていく感じだったんじゃよ……。それゆえに、動くことができなかった。湖の主などといって、窮地に何もできないんじゃから、どうしようもないのう」
悲しげな表情で自虐的に言う湖の神。その顔には後悔の色が強く浮かんでいた。
「なるほど、それであの島にいた魔物や魔族、それに魔法陣を壊したことで自由に動けるようになったということか」
「うむ、じゃからその礼を言いたかったんじゃよ」
ハルたちの戦い振りを知っているために、ハルたちに礼を言おうという判断になっている。
島を浮上させたのも、彼らを呼び出すためにも同じ場所の方がいいと言う程度の理由だったようだ。
「じゃあ、なんであいつらがあんなことをしようとしたのかわかっているのか?」
魔族や魔物がなんであんな島を作って、毒を生み出したり湖に悪い影響を与えようとしたのか? それがハルには謎だった。
「うむ……どうやら何かを探そうとしておったようじゃな。しかし、この湖は本来神聖なものでな。捜索をしようにも、そのままでは魔の属性を持つ生物はダメージを負ってしまうこととなる。じゃから、ああやって湖を汚染しようとしておったんじゃよ」
そう言いながらふと上を見上げると濁っていたとは思えないほどの透き通る湖の水を見て、湖の神は安堵の表情をしていた。
ここにきて、やっとシュターツたちの目的が見えてくる。
「それであんな状態になっていたのか……それで、その探している物っていうのは一体なんなんだ?」
それが最大の疑問となる。魔族がそこまで手間をかけて探していたものの正体がハルは気になった。
「うーむ、わしもあやつらの行動全てを把握していたわけではないが、漏れ聞こえてきた内容から察するに何か――力を持つ石のようなものを探しているような……そんなことを言っていたようじゃ」
湖の神はシュターツたちの言葉を思い出しながら話す。
「力を持つ石……なんか、つい最近もそんな話をどこかで聞いたような気がするな」
どこでだったが思い出せないハルは、頭に引っかかる何かを探るように腕を組んで考え込んでいる。
「あっ……もしかして、街の聖堂じゃありませんか? 確かあの時も聖堂に何かの石を探しにきてたよう気が」
ハッとしたような表情のルナリアの言葉を聞いて、ハルも思い出す。
「そういえばそんな話があったな。なんだ? 石を集めるのが流行っているのか?」
「他の場所でもそのようなことが……ふむ、もしかしてアレのことかのう。すまんが、少し席を外す」
そう言うと、湖の神は二人を置いてどこかに行ってしまった。
勝手に帰ろうにも手段がわからないため、二人は静かにこの部屋で待つことにした。
「それにしても……まさか湖の底にこんな場所があるとは驚いたな」
「恐らく、この場所のことを知っているのは神様以外だと私たちだけかもしれないですね」
誰もいない、静かな場所。空には湖――こんな特別な場所を知っていることを、ルナリアはなんだか不思議な心もちになっていた。
二人でぼーっと周囲を見渡していると、湖の神が戻ってくる。
「ふうふう、おまたせ。いや、すまんのぉ。ちょっと心当たりがあったもので探してきたんじゃ」
息を切らしながら戻ってきた彼はそう言って右手を前に差し出す。
そこには手のひら大の石が乗っていた。
「もしかして、これが? ぼんやり光ってるな」
「なんだか綺麗ですね……青く光ってます」
湖の神の手にある石は二人が言うように濃厚な藍色をした綺麗な石で、ぼんやりと青い光を放っており、石の中心には読めない文字が刻まれている。
「使い道はわからんのじゃが、強力な魔力が封じられておる。ほれ、持って見るといい」
ハルは手渡された石を、向きを変えながら観察する。
しばらくしたところで、今度はそれをルナリアへと手渡した。
「うーん、こんな石みたことないですね。いわゆる魔石とか、魔核とか言われるようなものとも違う。魔力を込めたりしたら……」
思い付きを試すように軽く、少しだけ魔力を流し込んでいくルナリア。
すると、青い光が強くなっていく。
ルナリアが込めた魔力はせいぜい手元をほんのり明るくする程度の些細な魔力だったが、それがおこしたにしては異様なほどの反応を石は見せていた。
「……ル、ルナリア? 大丈夫なのか?」
光がどんどん強くなっていくため、ハルは心配そうな表情で声をかけた。
「え、えっと、もう魔力を止めてるんですけど、光が止まらなくて!」
増長の止まらない光に、ルナリアもどうしたものかと涙交じりに慌ててハルと湖の神の顔を交互に見ている。
「ちょっと貸してくれ!」
咄嗟の判断でハルは慌ててルナリアから石を奪い取る。
すると、光は徐々に収まっていき、元のぼんやりとした光になっていた。
「――なんだったんだ?」
「ふむ、そもそもルナリアは魔法に特化した能力を持っているのじゃろう? それが石に強く反応したのかもしれん」
力のことをわかるのも戦いを見ていたのか、神だからなのかどっちかだろうと二人は納得する。
「その石は二人に託そう。何かの足しになるじゃろうて。いらなければ売ってもいい」
湖の神にとって必要なものではなく、ルナリアに反応するものであり、そして以前の事件でもこれに類似するものの話題が出た。
となれば、あながち無関係とはいえないなとハルは石を受取ることにする。
「そうそう、湖に関してはわしの力で強固に守ることにしたので今後は気にせんでええ。先手を取られなければわしの力もそうそう捨てたもんではないからのう」
ニヤリと笑う湖の神。
彼の矜持にもとづいて、二度と湖に被害は出させない――そう強く誓っているようだった。
「それでは、また会えるのを楽しみにしておるよ。じゃあの」
湖の神が別れの言葉を告げると、ハルとルナリアの身体は眩い光に包まれていく。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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