第七十二話
ギルドに顔を出して、二人が言い渡されたのは冒険者ランクアップ。
二人ともDランクだったのが、Cランクにアップするとギルドマスターから直々に宣言された。
どうやら、ギルドマスターはハルとルナリアの戦い振りをザウスやカイセルから聞いていたようで、それが今回の判断をするうえで、大きな要因となっていた。
また、本来なら昇級試験を受けなければいけないが、今回の功績によってギルドマスターの承認、及び領主の推薦から免除されることが決まった。
それほどまでに今回の湖の事件は街をあげて解決したいほどのことだったということだ。
「まさか、ランクアップするとは思わなかったなあ」
「ですねえ。少し前の自分から考えると、Cランクだなんて奇跡です!」
思わぬ報酬に二人は自身のギルドカードを見て嬉しそうに笑う。
かたやハルは冒険者として登録することができず、ルナリアは冒険者登録はしていたが、固定のパーティには入ることができず、ランクを上げることもかなわなかった。
「そういえば、ルナリアはどうやって冒険者登録したんだ? 能力を示さないとダメだったはずだけど」
ルナリアは呪いがかけられていたため、ギフトにあった五属性の魔法をまともに使うことができないはずだった。
ハルはどうやって登録したのか気になっているようだった。
「えーっと……それはですね、私の試験内容のおかげなんです。私の時は、試験官が直接戦うのではなく、十体の木人を相手にどんな攻撃ができるのか? を確認するというものだったんです」
ふわりと笑って当時を思い出しながらルナリアが言うそれを聞いて、ハルは合点がいく。
「なるほど、無属性魔法で魔力を爆発させたということか……」
「です! でもそのあとは、魔力切れで倒れそうだったんですけど……なんとかこらえて、合格をもらいました。インパクトが強かったので、そのあとの私の疲労は問題にならなかったみたいです」
困ったようにへにゃりと笑うルナリアは、試験官に救われる形となっていたことを改めて感じていた。
「それだと、そのあとが大変だっただろ?」
「えぇ、私の試験の結果について情報が広まりまして……色々なパーティにお試しで入れてもらったんですけど、いずれのパーティにも定着することができなかったんです……最後には見捨てられてしまいましたしね」
苦笑しながら言うルナリアの表情は当時の苦しみを思わせるものだった。
その見捨てられたパーティというのが、ハルと出会った山でのパーティのことを指していた。
「でも、おかげでハルさんと出会うことができたので、よかったと思ってます。最初から全ての魔法が自由に使えたら、増長していたかもしれませんし……うん、やっぱりいい経験でした!」
ハルと出会ったことで呪いがあることがわかり、ハルのおかげで呪いを解くことができ、ハルの導きで女神の加護を得ることができた。
そして、能力が解放されて今ではハルのパートナーとして戦うことができている。
すべてがハルと出会ったからこその出来事であり、ルナリアにとって、彼のそばにいられることこそ、一番大事なものになっていた。
それまでの曇っていた表情を一変させるような眩しい笑顔でルナリアは自身の話を締めくくった。
「俺もルナリアにあえてよかったよ。自分の力のことを近い目線で話すことができるのは、世界でルナリアだけだ。俺も一人でずっといたら、能力を手に入れたことに増長していたかもしれないからな。――今となって思い返すと、俺を魔物に向かって放り投げたパーティメンバーに対しての態度、あれは既に調子に乗ってた気がする……」
ハルは自分がやったことを思い出して、当然のことをした、という気持ちがある。
ただ、それだけにとどまらずちょっとやりすぎたかもなあという、気恥ずかしい気持ちもどこかにあった。
「じゃあ、お互い出会えてよかったですね!」
「あぁ――それじゃあ、行こうか!」
「はいっ!」
信頼している相手に向ける笑顔で頷きあった二人の歩く速度は自然と速くなっている。
目指すは、この街にきて一番最初に立ち寄ったあの店。
真っすぐその店に向かい、扉をあけて入る。
スパイシーな香辛料のいい香りがぶわりと二人の鼻をくすぐった。
「いらっしゃいませー! ……あっ、あなたたちは!」
来客に振り向いたのはポニーテールが愛らしいあの時の女性店員だ。
どうやら店員の女性は二人のことを覚えていたらしく、思わず嬉しそうに声をあげる。
実際には、彼女はきっと二人はやってくるだろうと予想をしていたようだ。
「また来ました。今日はどうですか?」
どうですか? などという漠然とした質問をハルが投げかける。
「はい、いいのが入りましたよ!」
しかし、彼女はその質問の意図がなんであるか理解しており、笑顔で返事をする。
それはハルとルナリアの表情をぱあっと明るくするものであった。
「それじゃあ、メニューを……っとその前に席を決めないとか」
気持ちが逸ったハルは、先にメニューをもらおうとするが、まだ席についていないことに気づいて顔を少し赤くしていた。
「ふふっ、楽しみにしていて下さい。それではお席に案内しますね」
湖の問題が解決したことは、街中に知れ渡っており、店も繁盛していた。
わいわいがやがやとした店内を店員たちが駆け回っている。
「混んでるな。俺たちの席はあるのかな?」
「空いてるといいんですが……」
にぎわう店内を進み、彼女に案内してもらいながらも、もしかしたら空席はないのでは? と二人は不安にかられている。
「こちらへどうぞ」
ふわりと笑顔で振り向いた女性店員の先には、二人の不安をよそにちゃんと席が用意されていた。
湖の見える特等席――ハルたちが最初に座った場所だ。
しかもテーブルの上には予約席という文字が書かれたプレートが置かれている。
「これは?」
「えーっと、お二人はきっと来るだろうと思って、私の判断で確保しちゃいました! 実は、今回の湖の問題に関して、お二人が活躍したというお話が耳に入ったので、少しでもお礼ができればと……」
プレートに顔を半分隠すように店員は照れた様子で、この席の説明をする。
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
照れているところに、礼の言葉が追撃してきたため、店員は赤い顔を更に赤くしていた。
「それじゃあ、早速注文をしようか」
「はい!」
そして、二人は念願の魚料理を注文することとなった。
――数十分後
「美味い!」
「美味しい!」
二人は料理に舌鼓を打っている。
ハルが注文したのは、湖でとれる魚を使ったカルパッチョとムニエル。
ルナリアが注文したのは、魚の煮込み料理だった。
湖の問題が解決して、元の美しさを取り戻すと、自然と魚たちも帰ってきていたようで、すぐに漁に出た漁師たちによって新鮮な魚介類が店にたくさん仕入れられていた。
「なんだこれ! 美味い!」
「うーん、すごく美味しいです! 臭みは全くなくて、ハーブの香りがとてもいいです。何より、口に含んだ時にじゅわっと広がるうま味! 最高です!」
ハルは語彙がなくなり、ルナリアは内から言葉があふれ出てきていた。
魚料理が自慢だという噂に違わぬおいしさに、彼らの表情はうっとりととろけている。
「ふふっ、二人とも美味しそうに食べてくれるから嬉しいです。よかった……もう一度本来の料理を出すことができて……」
店員の目じりには涙が浮かんでいた。
食事に舌鼓を打ちながら、二人も彼女が嬉しそうにしているのを心から喜ぶ。
その席から見える湖は当時のどんよりとした赤色はもうどこにも見当たらず、美しく透き通るような水面を静かに湛えていた。
二人はそれぞれ一品ずつ料理を追加で注文して、満足いくまで食事を堪能した。
こうして、二人は最大の目的である、魚料理を味わうことを達成することができたのだった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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