第七十一話
冒険者ギルドには騎士団の一人が先行して連絡に向かう。
それゆえに、ハルたちが戻る頃には冒険者ギルド、そして街全体が歓迎ムードに変わっていた。
誰もが湖が元の姿を取り戻したことを知り、そのことを心から喜んでいた。
「おかえりなさーい!」
「騎士団! 冒険者! ありがとう!!」
「これで俺たちはまた生きていけるよ!」
「ううっ、ありがとう!」
「みんなはこの街の救世主だ!」
戻る道すがら、歓喜に満ち溢れた住民たちが英雄を迎えるがごとく全員を称えている。
「――こいつはすごいもんだな……こんなに人がいたのか」
最初に街を散策した時にはこれほどの人がいるようには思えなかったが、街全体をあげて歓迎してくれているため、相当な人数がギルドまでの道に集まっている。
「俺たちが湖に向かう情報はみんな知っていたんだろうさ。それで、湖が変化したのを感じた住民はいち早く外に出てきたんだろ。残りは騎士団の情報を受けてからだろうが……確かに多いな」
周囲をぐるっと見回したザウスは分析をしつつも、やはり思った以上の住民がいることに驚いているようだった。
「あんたたちよく無事に戻ってきたね! まずは宴だよ!」
街を進み、住民たちに歓迎された道の先に立っていたのはギルドマスターの言葉だった。
町中が歓喜に沸いており、ギルドマスターの隣には騎士団の主である、領主の姿もある。
「皆、今宵の宴にかかる費用は全て私が出そう! 好きに食らい、好きに飲み、好きに騒げ! ただし、犯罪行為は許さんぞ! 住民、騎士団員、冒険者、旅人、問わない! 皆、楽しむがいい!」
大きく腕を広げつつ、最後に片目を閉じて茶目っ気たっぷりに宣言したこの領主の言葉に、町中が沸き立ったのがわかる。
「こりゃすごいな……あのギルドマスターに、あの領主。この街が一気に衰退しないわけだ……」
通常、街のメインともいえる湖に大きな問題があり、名物の魚料理も出せないとあっては、人の行き来もなくなってゴーストタウンのようになる可能性もあった。
しかし、この街のトップであり領主。そして、軸になる冒険者ギルドのギルドマスター。
この二人がしっかりと舵取りをしていたおかげで、廃れる道を免れ、すぐに活気を取り戻すほどになっていた。
「おう、ハル! ルナリア! 宴だ! 酒を飲むぞおおおおお!」
二人に声をかけて嬉しそうにいち早く走り出したのがザウス。うきうきした様子が足取りからも良くわかる。
「やれやれ、仕方ないな。皆の者! 本日は無礼講だ! 騎士団も好きに飲み、食うといい!」
「うおおおおおおお!」
そんなザウスの後姿を苦笑しながら見たカイセルは騎士団員に振り返ると大きく声をかける。
普段から厳しい彼の思わぬ発言に、騎士団員は嬉しさに大声で応え、次々と兜を外して宴に加わっていった。
「こりゃすごいな……」
「ですね……」
その様子をぼんやりとした様子で見入るハルとルナリア。
宴の宣言がなされてから、広場に集まっている者が次々に宴に参加していき、立場に関係なく盛り上がりを見せていた。
肩を組んで楽しげに酒を酌み交わしたり、食事をとったり――その誰もがこの事態の解決を心から喜んでいる様子が伝わってくる風景だった。
「二人も参加するといい。先ほどのうちの領主の宣言のとおり、金はかからない。疲れもあるとは思うが、酒に食べ物に花火も打ちあがっている。好きに過ごすといい。なにせ、今回の一件の最功労者だからな」
そう言うカイセルもいつの間にか木でできたジョッキを手にしており、二人に声をかけると一気にぐびぐびと飲み干す。
「よっし、ルナリア、俺たちも参加するぞ!」
「はい! 私も少しお酒飲みたいです! この街のお酒はとても美味しいって聞いたことがあります!」
「じゃ、行くぞ!」
そして、二人は外で酒を提供している酒場の臨時カウンターに行って、我先にと果実酒やエールをぐびぐびと飲み干していく。
ルナリアは一杯で顔を赤くするが、ハルは耐毒スキルが高いことでいつまでも酔わずに酒を味わうことができていた。
この宴は夜遅くまで続き、まるで街が眠ることを忘れたほどの盛り上がりを見せていた。
翌朝
ハルとルナリアは最後までは参加せず、途中で宿に戻って各々ベッドで眠りについていた。
「う、ううん、朝か……」
カーテンの隙間から差し込む日の光がハルの顔に当たり、朝の到来を告げている。
「ふう、昨日はよく飲んだな……」
「ふわあ、あれ? ハルさん、起きましたか?」
ハルがため息交じりに目をこすってベッドで寝がえりを打とうとした時、まだ半分眠りの中にいるようなルナリアの声が聞こえてくる。
「……なんか、声が近くないか。それに、このふわふわなのは……」
いち早く頭がさえてきたハルは、自分の左手の先にあるものを見て驚愕する。
「う、うおおおお! な、なんで!? なんで、ルナリアが隣にいるんだよ!? ……っ、この尻尾のふわふわ、すごい気持ちいいぞ!」
ハルと同じベッドで、隣にルナリアが寝ていることに驚き、そして手にしている尻尾のふわふわ具合にこれまた別の驚きを覚えていた。
ふわふわとしつつも吸いつくような肌触りは手を離したくないと思わせるものだった。
「うふふ、そんなに尻尾ばかり触らないで下さいよー。ちょっとくすぐったいですぅ……」
「す、すまん!」
クスクスと笑うように半分寝ているルナリアの反応に、ハルは慌ててベッドから出て立ち上がる。
「と、とにかく着替えをしよう。あと、水をもらってくる!」
ハルは自分の服を身に着けると、急いで一階に移動して宿の店員に水を注文した。
大きな器に入った水と、コップを二つ受け取って、深呼吸をしながら気持ちを落ち着かせてハルはゆっくりと部屋に戻っていった。
「――ふう、ルナリア。入るぞ」
自分の部屋ではあるが、ルナリアが中にいるのをわかっているため、ドキドキする心臓を抑えながら声をかける。
「は、はい! どうぞ!」
そして、少し焦っているかのような返事をしながらルナリアが部屋の中でバタバタと走り回っているのが聞こえた。
扉をあけて、中に入ると落ち着かなさげに髪を撫でつけるルナリアがベッドに腰かけていた。
「ルナリアも起きたか。下で水をもらって来たから飲むといい」
「あ、ありがとうございますっ」
それを受取るルナリアの頬は赤くそまっていた。
「えっと……その、さっきのは忘れてもらえると助かります……あ、あのっ、間違えてハルさんのベッドに入ってしまったのも……っ」
昨日から今日にかけてあったことを思い出したルナリアは顔を真っ赤にして下を向きながら、そう口にするだけで精いっぱいだった。
「あ、あぁ、俺も尻尾触って悪かったな。あまりに気持ちよかったもんだからつい、な」
「うぅ、だ、大丈夫です。でも、そのへんも忘れてもらえると……」
ルナリアにつられるように恥ずかしさを思い出したハルももごもごと言いよどんでしまう。
どこか甘酸っぱい雰囲気の中、そんなやりとりをして、落ち着くまでには一時間ほどが経過していた。
「――それじゃ、まあ、落ち着いたところで冒険者ギルドに行ってみるか」
「は、はい! 行きましょう!」
昨日の宴の際に、ギルドマスターから今回の依頼に参加したものは夜があけたら一度冒険者ギルドに立ち寄るようにという話があったため、ハルたちも冒険者ギルドへと向かうことにする。
その頃には、完全に日が昇っていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:3
ギフト:成長
スキル:炎鎧4、ブレス(炎)3、ブレス(氷)4、ブレス(毒)1、竜鱗3、
耐炎3、耐土3、耐風3、耐水3、耐氷3、耐雷2、耐毒4、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化4、筋力強化4、敏捷性強化2、自己再生
火魔法3、爆発魔法3、水魔法2、回復魔法1、解呪、
骨強化3、魔力吸収3、
剣術4、斧術2、槍術1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法2、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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