第六十六話
ザウスとカイセルの会話は船が到着するまで続く。
ハルたちもなるべく聞こえないように離れたはいたが、聞こえてきた話では二人は元々同郷の出身であり、いわゆる幼馴染ということだった。
それ以外の話はハルとルナリアの耳には届かなかった。
あまりに二人の声が聞こえるために、気を遣ったルナリアが新たに風の障壁を作ったためだった。
それは、船が目的の場所に近づくまで続く。
「――じゃあザウス、俺は向こうに戻る。冒険者のほうは頼むぞ」
それだけ言うとカイセルはこちらの船から跳躍して、騎士団が乗っている船へと戻っていった。
結構な距離が離れているにもかかわらず、それなど関係ないように軽々と乗り移っていた。
「……すごいな」
「……あんなに離れてる場所に軽々と」
ハルとルナリア、そして他の冒険者たちもカイセルの動きに驚いて呆然としていた。
「な? あいつすげーだろ? 自慢のダチだ。まあ、互いに立場が違うからこうやって話すのも数年ぶりだけどな。そんなことより、そろそろ見えてきたぞ。湖の中心」
自慢げに幼馴染を見送ったザウスは、真剣な表情になると船が行く先を見る。
そこは魔物がたくさんいると話のある場所。
周囲は霧が立ち込めていて視界が悪いが、小さな島があるのが徐々に見えてくる。
「ルナリア、風の障壁を張れるか? 船を包み込むサイズで」
「……できると思いますが、恐らくかなり薄い障壁でただ風の膜ができた程度であっという間に破られてしまうと思います」
魔力量は高いが、魔法のレベルがまだ低いため、船ほどの大きさともなると、通常張れる障壁を無理やり引き延ばすしかなかった。
「それで十分だ。この霧……ちょっとまずいかもしれない」
「あぁ、頼む。前回ほぼ全滅だったのもこれが原因の一つかもしれない……」
一見すると普通の霧と変わらないように見えるが、ハルは何処か嫌な気配を感じ取っていた。
そしてそれはザウスも感じていることであった。
二人の真剣な表情を見て、ごくりと息を飲んだルナリアは出来うる限りの魔法操作を行いつつ、風の障壁で船を覆う。
「おい! 風の魔法を使えるやつはこの嬢ちゃんと同じように風の障壁で船を覆ってくれ!」
「騎士団のほうは……」
そちらにハルが視線を向けると、既にあちらも障壁が張られていた。
「さすが」
ふっと鼻で笑うように機嫌よくザウスが笑う。
カイセルの指示は既に行われていた。騎士団は指示経路が徹底されているため、その動作は早かった。
「あいつらは命令に忠実に動くからな。それよりも有象無象のこっちは気をつけないとだぞ」
再び真剣な表情に戻ると、ザウスは視線を島に向けている。
「まずはこの霧をなんとかしないとだな。島に魔物がいる状況でこの霧を吸い込んだらまともに動けないぞ」
「あぁ、これは魔素と毒が混ざり合っている霧だ。吸い込んだらよくて気絶、悪ければ死んでしまう」
ザウスとハルが霧についての分析をしている。
それが聞こえてた冒険者の顔はさあっと青ざめていた。
「――この霧の出どころがどこか予想はつくか?」
ハルの質問にザウスが目を凝らす。
「あー……あの島の、向かって右手の方を見ろ。煙が出てるのが見えるか? 恐らくあれじゃないか? あいつを倒さないことにはこの煙を吹き飛ばしても一時的なものになるだろう」
じっと先を見ていたザウスが判断を下す。彼のいう方向からどろりと濃厚な煙が漂っているようだ。
「わかった、俺があいつを倒してくる。あいつが倒されたのを確認したら、一斉に風魔法でこのあたりの霧をふきとばしてくれ」
そう言うと、ハルが数歩前に出る。
「ハ、ハルさん! 危険です! 霧は全然晴れてません!」
「そうだぞ、何か手を考えるぞ。騎士団にも動いてもらえば何か方法が……」
魔法操作に必死で少し焦った様子のルナリアと窘めるように手を伸ばしたザウスが止めるが、ハルの足は止まらない。
「大丈夫だ。俺に毒は効かない!」
それを最後にハルは走り出す――全力で、船の船首に向かって。
そこまでたどり着くと、ハルは思い切って跳躍し、島に向かって飛び立つ。
「――なっ!? そこからじゃ届かないぞ!」
焦ったように声を荒げたザウスが大きな声で言う。そのままハルが湖に落下することは想像に難くなかった。
「大丈夫だよっと!」
ふっとハルは爆発魔法を使う。自らの後方に。
そして爆風はハルを吹き飛ばし、その身体を島へと向かわせる。
それを数回繰り返して、ハルは島に到着する。
「さて、行くぞ!」
気合十分の表情をしたハルは再び走り出す。向かうは目的の魔物。
魔物は巨体で鬼のような顔。皮膚の色は紫。
そして背中にはいくつものの筒があり、そこから霧が噴射されていた。
「お前だなああああ!」
ハルは走った勢いで飛び上がり、剣を思い切り振り下ろす。
他にも魔物がいるため、それらの攻撃を防ぐためにハルは身体に炎を纏う。
更に皮膚硬化、筋力強化、腕力強化、骨強化、魔力吸収を発動。
霧に含まれている魔素をハルは吸収していく。
そして、攻撃が魔物にあたる寸前で炎を剣に宿す。
「斬れろおおおおおおお!!」
ハルが持てる最大の攻撃を持って、紫鬼を真っ二つにする。
紫鬼の身体はまるで飴が熱で溶けるかのように綺麗に斬られた。
それと同時に霧の噴射もぴたりと止んだ。
「今だ、みんな早く来い!」
ハルが騎士団、冒険者の両方に声をかける。
それに呼応して前衛職はどんどん船から降りていき、魔術職は風の魔法を使って霧を払っていく。
全員が船から降りて、島へと移ってきた。
その原因を作りだしたハルに向かって無数の魔物が襲い掛かっていく。
「――やらせない!」
大きく息を吸ったハルは氷のブレスを前方に噴き出し、前にいる魔物の動きを止め、右から来る敵を剣で切り伏せる。
左から来る敵の攻撃を竜鱗で防ぎ、後ろから襲い掛かってきた魔物の攻撃を甲羅の盾で防ぐ。
「うおおおお!」
いつまでもそれを続けることはできないため、ハルは足を踏み込むと動きまわり次々に魔物を切り伏せていく。
「あいつ……すげえな」
ザウスも島に降り立って、魔物を倒しながらハルのもとへと向かう。
しかし、ハルの強さが以前試験で戦った時よりもはるかに強くなっていることに驚いている。
「ザウスさん! 呆けてないで、早くハルさんのもとにいきますよ!」
走りながらもルナリアはハルが魔物に囲まれていることを心配しており、早く駆けつけなければいけないと不安に思っている。
「――やつを死なせるわけにはいかんな。私が道を作ろう!」
それはカイセルの言葉。
大剣を背から引き抜いたカイセルが振るうと、強力な衝撃波を生み出してハルのもとまでの道ができる。
ぶわりと周囲のありとあらゆるものを巻き込んで吹き飛ばそうとするその衝撃波は、ハルをも吹き飛ばさんとする勢いだ。
「ぐおおおおお、俺まで巻き込むな!」
ハルは甲羅の盾を使って衝撃波を防ぐ。
だがそれを防ぎきれなかった周囲の魔物たちはあっけなく吹き飛ばされていく。
「……道は、できただろ?」
ハルに負けてられないと気合が入り過ぎて思った以上の威力が出てしまい、彼を巻き込んでしまったことに、カイセルは少し困ったような表情でそう呟いた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:2
ギフト:成長
スキル:炎鎧3、ブレス(炎)2、ブレス(氷)3、竜鱗2、
耐炎3、耐土2、耐風3、耐水2、耐氷3、耐雷2、耐毒3、
氷牙2、毒牙2、帯電2、甲羅の盾、鑑定、
皮膚硬化、腕力強化2、筋力強化2、
火魔法3、爆発魔法2、解呪、
骨強化2、魔力吸収2、
剣術3、斧術2
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:オールエレメント
スキル:火魔法2、氷魔法2、風魔法2、土魔法2、雷魔法2、
水魔法1、光魔法1、闇魔法1
加護:女神セア、女神ディオナ
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