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第六話



 ハルたちが手続きのために戻ってくると、ホール中の視線が勢いよく一斉に集まる。


「な、なんだ?」

「きゃっ!」

「……あん?」

 ハル、受付嬢、ザウスがそれぞれ何事かと驚いて反応する。


「な、なあ、どうなったんだ?」

「そうだ、ハルは冒険者登録できるのか?」

 出てきた三人に冒険者たちが次々に質問をしてくる。我先に知りたいと言わんばかりに、ぐいぐいと冒険者たちがハルたち三人に向かって迫る。


「ちょ、ちょっと待って下さい! みなさん、落ち着いて下さい!」

 こらえきれなくなった受付嬢が大きな声で、冒険者たちを制止する。だが、普段あまり気の強い方ではない彼女の叫びは冒険者たちの耳に入らない。


 それでも集まってくるのをやめないため、ため息交じりにザウスが彼女の前に立つ。


「おい、お前ら。嬢ちゃんを困らせるな」

 強く睨みを利かせて低い声で唸るザウス。Aランク冒険者の彼に睨まれては、冒険者たちも引き下がらざるを得なかった。未だざわついてはいたが、三人から徐々に離れていく。


「……それじゃあ、手続きを頼む」

 ハルは一歩下がったところでその様子を見ており、落ち着いたところで声をかける。


 その言葉はざわつきを大きくした。


「――おい! 手続きってことは、能無しポーターが冒険者になるのか!? おいおい、ザウスも落ちぶれたもんだなあ! ちくしょー、負けたぜ!」

 冒険者たちはハルが試験に合格するかどうかを賭けており、手続きイコール冒険者登録ということで負けたことを嘆くものがいた。


「……ああん?」

 しかし、それはザウスを貶める言葉であり、彼の怒りを買うことになる。空気が一瞬で冷え渡った。


「ザウス、いいじゃないか。俺はあんたと戦った、その結果が冒険者登録に繋がってる――それで十分だ」

 ハルが落ち着いて返事をしたため、ぼりぼりと頭を掻くザウスも自分だけ怒っても仕方ないと(ほこ)を収める。


「さあ、手続きを続けてくれ」

「は、はいっ」

 急いで駆け出した彼女はハルの冒険者登録を行っていく。

 冒険者についての説明はハルには必要がないため、スムーズに進んでいく。


「それでは、カードに手を触れて下さい」

 冒険者の誰もが持つ身分証明書となる冒険者カードにハルが指先を触れる。

 すると、カードはほのかに光を放ち、登録が完了する。


「はい、お疲れさまでした。これでハルさんは冒険者となりました。これからの活躍を期待しています」

 戦いを見ていた受付嬢はハルの力を理解しており、彼に期待の気持ちを込めて笑顔で応援する。

「っ、これが俺の……」

 緊張の面持ちで冒険者カードを受取ったハルはじっとそれを見つめながら一瞬身震いする。


 憧れの冒険者になれたことに感動が身体を駆け巡ったのだ。


「ハルさん……?」

 そんなハルを見て、受付嬢が気遣うように声をかける。

 ハルは声を聞いてすぐに我を取り戻すと、次の話に移ることにする。


「そうそう、金欠になったからこれを買い取ってくれると助かるんだけど。これ、サラマンダーの素材」

 感動のあまり呆然としてしまった気持ちを誤魔化すように、ハルは背に背負ったカバンを下ろして、そこからサラマンダーの角と鱗を取り出す。


 その瞬間、再びホールはざわついた。


「サ、サラマンダー!? そんなすごい素材を! 是非、買い取らせて下さい!」

 このあたりでサラマンダーが出たという情報はほとんどなく、あってもそれを討伐したという話はなかなかあがってこない。

 しかし、ハルが持ってきたのは受付嬢から見ても本物であると判断できるものであった。


 貴重な素材をどこかへ持っていかれないように、受付嬢は食い気味でハルの素材の買取を希望した。


「おい、どけ、どいてくれ!」

 冒険者たちの人波をかき分けてやってきたのは、ハルが最後にパーティを組んでいたメンバーだった。


「おい、テメー! なんのインチキをしやがった! お前なんかが冒険者になれるはずがねーだろう! しかも、サラマンダーの素材だと? あれは俺たちの獲物だぞ!」

 怒り心頭といった様子のパーティリーダーの言葉に、他の面子も同意だと頷いていた。

 彼らもハルが試験に合格しないほうに賭けており、更には自分たちを襲おうとしたサラマンダーの素材をハルが納品するのも気に入らなかった。


「……なんだお前たちは?」

 なにごとかとこれまたザウスが止めようとするが、ハルは首を振ってそれを断る。


「あんたたちは俺を囮にして、俺が死んだと報告して金と荷物を奪っておいて――まだ何か不満なのか?」

 目にただ静かな色をにじませながら、ハルはリーダーの目を見てそう質問する。


 ポーターの頃はどこか自信がない様子があったハルだったが、今の彼からは強い自信が感じられ、気圧されたリーダーは思わず一歩後ろに後ずさってしまう。


「う、うるせえ! アレはお前が死んだからもらってやったんだ! そんなことよりもインチキして冒険者になろうってのが生意気なんだよ! 素材だって本来なら俺たちが手に入れてるはずのものだろ!」

 正論を突き付けられて顔を真っ赤にしたリーダーはそう怒鳴りつけるが、ハルは落ち着いた様子でいる。


「帰らない、俺は冒険者として生きていく。ここからが俺の冒険者としての始まりだ」

 いろいろと騒ぐリーダーを静かに睨み付けたハルの強い決意。

 言葉にすることで、ハルはより自分の中で冒険者になれた実感を味わっていた。


「ぐっ、うるさい! お前みたいな能無しを産んだくそみてーな親のところに帰っちまえって言ってんだよ!」

 これまでとは明らかに違うハルを見たリーダーは我慢ならないといった様子でハルにつかみかかろうとする。


 急に雰囲気が変わったハルはその手を右手でつかんだ。

 リーダーの男は想像以上のハルの力にびくりと身体を揺らす。


「……おい、今なんていった?」

 少し俯いたままの静かな声だったが、それは聞いたものをゾクリさせる深く暗い声だった。


 これまでハルはギフトがないことを馬鹿にされても、能力がないことを中傷されても怒ることはなかった。

 それはギフトを手に入れた今でも変わらない。


 しかし、今回のハルは怒りに満ちている。


「帰っちまえって……」

「そこじゃない、その前だ」

 うろたえながら再度言葉を繰り返すリーダーだったが、ハルに言葉を遮るように止められて、ごくりと息を飲む。


「くそみてーな親のところに……」

「それだ……俺のことならいくら馬鹿にされても構わない。だが、俺の親のことを馬鹿にするのは許さない」

 顔を上げてぎろりと敵意をむき出しに睨むハルの手の力は次第に強くなり、掴まれたリーダーの腕がギリッと音をたてる。


「くそっ、こいつなんて力だ! お、おい、お前ら早く助けろ!」

 ハルの様相が変わったことに驚いていた仲間たちだったが、リーダーの慌てた様子にハルを引き剥がそうと動き始める。


「おい、そいつは男らしくねえんじゃねえか?」

 しかし、それを阻止したのはザウスだった。Aランク冒険者の彼の制止に仲間たちは駆けつけることができずにいる。

「ぐっ、ザ、ザウスさん、どいてくれ!」

「そうだ! 邪魔をするな!」

 男たちはそれでも食ってかかろうとするが、ザウスにぎろっと睨まれてはそれ以上どうすることもできなかった。


「ふう、もういい。もう、俺に関わらないでくれ」

 リーダーの男に構っていることが馬鹿らしくなったハルはぱっと手を離して、突き放すように軽くリーダーの胸を押すと目を細めながらそう告げる。


 強く押されたわけではなかったが、リーダーはバランスを崩してよろよろと尻もちをついてしまう。


「リーダー! 大丈夫か?」

 ザウスの制止が解けたことで仲間が彼のもとに集まる。


 周囲には多くの冒険者が集まっており、じろじろと彼らのことを見ている。

 時折ささやくようにリーダーをはじめとするメンバーを揶揄していた。


 それを屈辱だと感じたリーダーは顔を真っ赤にして立ち上がった。

「ぐううううう、おおおお、許さねえ! お前らやっちまえ!」

 リーダーの指示を受けて、パーティメンバーが武器を抜く。彼らもまた、リーダーと同じように苛立っていたようだ。


 冒険者は気性が荒いものが多いが、ギルドの只中で武器を抜くというはもちろん犯罪行為である。

 しかし、冷静な判断ができない彼らにはそのこともわからない状態だった。


「――お前ら、本気か?」

 信じられないものを見たような声音で問いかけたのはザウスだった。


 周りにいる冒険者たちも彼らを睨みつけている。

 自分たちのホームである冒険者ギルドで刃傷沙汰に及ぼうとしている彼らのことを許さないと思っているようだった。


「はあっ、まさかそこまでアホだとは思わなかったよ……みんなは手を出さないでくれ。俺がけじめをつける」

 リーダーをはじめとするメンバーのあまりの行動にため息交じりに肩を竦めたハルは、次の瞬間には既に動き出していた。


 まずは戦士のデグダズへと接近する。

 彼は斧を持ち、防具は胸当てを装備しており、腹の部分が露出している。


 呼吸を整えたハルはそこに勢いよく拳を撃ち込んだ。

 ザウスにもダメージを与えたその攻撃は、デグダズの自慢の筋肉によって守られている腹にめり込み、更に炎で焼かれ吹き飛ばされる。


「ぐあああああああ!」


 一番にデグダズを狙った理由。

 それはハルがポーターとしてパーティの一員となっている間、彼らの実力を目の当たりにしており、その中でもデグダズが最も強いと判断していたためだった。

 彼を制すればほかのメンバーが手を出すのが無謀だと証明できるだろうと思ったのだ。


「まだ……やるか?」

 あっという間にハルに倒されてぐったりと倒れこむデグダズを目の当たりにして、呆然と武器を構えたまま立ち尽くすリーダーと仲間たち。

 その結果を持って、まだ戦うのか? ハルはそう質問する。


「デ、デグダズが一発で……に、逃げるぞ!」

 脱兎のごとくリーダーは人波をかき分けて、慌ててギルドから出ていく。

 他のメンバーはデグダズを担いでリーダーのあとを追いかけていった。


「ふう、全く困ったもんだな――さあ、それじゃあ買取を再開してくれるか?」

 気を取り直して、とハルがサラマンダーの素材の買取へと戻るが、冒険者たちは今目にしたことに心から驚き、ざわざわと話し合っていた。


*****************

名前:ハル

性別:男

レベル:1

ギフト:成長

スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、耐炎2、耐氷1、氷牙2

加護:女神セア、女神ディオナ

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お読み頂きありがとうございます

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