第四十七話
ハルはゆっくりと周囲を見渡し、自分たちを囲むスケルトンの数を確認する。
「……十三体か。少し多いか? ルナリア、スケルトンと戦ったことは?」
買ったばかりの剣を引き抜きながらハルが静かな声音で問いかける。
「えっと、直接戦ったことはないです……」
少しためらうようなルナリアの回答にハルはならばと頷く。
「わかった、なら少し説明をしておこう。スケルトンはただ攻撃して骨を砕いてもすぐに修復する――だから倒す方法は大きく三つだ」
そう話している間にも徐々にスケルトンたちの包囲網が小さくなってくる。
「まず一つ目!」
気合を入れて飛び出したハルは一体だけ近づいていたスケルトンに向かって行くと、力強く剣を振り下ろして一撃で頭を砕く。
「こうやって頭を砕いても、少し動きが止まるだけだから……胸のあたりにあるはずの核を狙って――貫く!」
骨で構成されている肉体を持つスケルトンだが、核自体は魔力で包まれており、外からは視認することができない。
しかし、ハルはスケルトンの弱点についての知識を持っており、核の場所もわかっていた。
骨を砕いてむき出しになった核を一突きにした。
「すると、こうなる」
スケルトンは声もなく、骨がバラバラになってその場に崩れ落ちた。
他のスケルトンたちはカタカタと骨を鳴らしながら一定距離を保ってじっとこちらを見ている。
「これが一つ目の方法だ」
一体倒したあとは、すぐにルナリアのもとへと戻る。
「す、すごいですね。でも、私にはあんなピンポイントの攻撃はできないかもしれません……」
ぎゅっと武器を握ったルナリアは少し自信がなさそうな表情になる。
「そんなルナリアには、次の方法だ。これはスライムを倒した時と似た方法になるんだが、魔法で攻撃して倒す方法。ただし、少し威力は強め、魔法でスケルトンを飲み込むイメージだ。もしくは、胸のあたりを魔法で大きく貫いてもいい」
ハルの言葉は彼女にとって端的でわかりやすいと思えるものだった。彼が行ったことを意識しながら、ルナリアが杖をかざし、一体のスケルトンに向ける。
「“ファイアーボール”!」
火の矢ではなく、火の玉――これならば、着弾した際のダメージ範囲が大きいため、ルナリアはこれを選択する。
ルナリアが強く魔力を込めたその一撃は見事胸のあたりに命中し、スケルトンのその部分を大きく貫いた。周囲の骨ごと核を貫き、そこだけぽっかりと消滅していた。
「カラカラ……」
断末魔の声なのか、そんな声をあげながら二体目のスケルトンがその場にバラバラになって崩れ落ちた。
「うまいじゃないか。その調子で、残りのやつらを倒すぞ」
「はいっ!」
まだ三つ目の方法を説明していなかったが、二人はスケルトン退治に移っていく。
ハルは剣を中心に、しかし、それだけでは数多いスケルトンを相手にするのは難しい。
そんなハルが選んだ魔法。
「“フレアボム”!」
それは爆発魔法だった。
スケルトンの胸のあたり目がけて撃ち核ごと破壊する戦法を選ぶ。
一方でルナリアは、まず氷魔法でスケルトンたちの足を止める。
そして動きの止まったスケルトンにファイアーボールを放つことで次々に倒していた。
時間にして、十五分程度経過したところで十三体いたスケルトンの最後の一体にハルがとどめを刺す。
「――ふう、終わったな」
「お疲れ様です。何か面白い能力は手に入りましたか?」
達成感に満ちた表情のルナリアの問いに、ハルは自分の能力を確認する。
「……あぁ、面白そうではあるな。有用かどうかと言われるとちょっと微妙だが」
最初はちょっと期待した表情で確認し始めたハルだったが、言葉のとおり、微妙な表情で自らのステータスを見ている。
「あの、そんなに変わったものなのですか?」
「……骨強化」
不満げにハルがボソリと言うと、ルナリアはきょとんとした表情で首を傾げる。
「ほね、きょうか? ……あの、それはつまり?」
「……多分、骨が硬くなる」
予想にはなるが、恐らくそうなのだろうという答えがこれである。
「えっと、それは、その、あの、骨折しにくくていいですね!!」
困ったように笑いながらルナリアは一生懸命励まそうと頭をフル回転させた。
そしてなんとか褒め言葉を探そうとして出てきたのがこの言葉だった。
口にしたルナリア自身も微妙な反応だということはわかっていたため、頬に汗がつたっている。
「……まあ、こいつが目的じゃないからいいんだけどな。ただ、今みたいに地中から出てくることもあるから、慎重に進んでいこう」
「わかりました!」
一生懸命なルナリアの様子に元気をもらったハルは気持ちを切り替えて先へ進もうと踏み出した。
ルナリアも耳を立てて、変わった音を聞き逃さないようにと周囲に注意しながら進む。
城につくまでは特に交戦することもなく、静かだった。
ボロボロに朽ち果てた手入れの行き届いていない庭を横目に城の扉の間に二人は立つ。
「静か、ですね……」
「あぁ、静かだな」
静かすぎる――それはここに至るまで、最初のスケルトン以外、鳥の鳴き声も、何かの足音も何も聞こえず、風が静かに通り抜け、木が揺れる音がするだけだった。
「この扉の中に入ったら、何が待ち受けているかわからない……ギルドで手に入った情報は一部だけだからな」
ハルは、本当に大丈夫か? と確認の意味を込めた言葉を口にした。
この先は覚悟がないとまずいという認識があったからだ。
「はい! ……でも、行きますよね?」
しかし、にっこりと笑うルナリアから返ってきた言葉は行かないという選択肢はないですよね? という別の意味での確認の言葉だった。
「そう、だな。うん、だけど危ないと思ったら魔法で壁を壊してでも城から抜け出すぞ」
「はい、その判断のタイミングを間違えないようにしないといけませんね」
二人は慎重に、しかし大胆に動く心づもりである。
考え方が徐々に似通ってきていたが、当人同士はそれに気づいていない。
「――開けるぞ」
決意を秘めた表情でハルが扉に手をかける。
城の扉は古いためか、建付けが悪く、ギギギという大きな音をたてながら開いていく。
「ぐぬぬぬ……」
それはかなりの重さであり、荷物持ちや鍛錬をしていたハルでも顔を赤くしながら扉を押し開ける。
「はあはあ、やっと開いた……」
「お疲れ様です。長年開かれていないみたいですね……でも」
大きく息を吐いて一歩先に入ったハルに続いてルナリアも中にはいる。
重い扉の先に視線を向けて二人は入り口に立っていた。
ルナリアが言うように、確かに扉は長年開かれていないような固さがあった。
しかし、不思議なもので、中は埃っぽくなく、濁っていない空気だった。
「ルナリア、気をつけろ。見えないが、何かいるのはわかる」
「はい!」
警戒するように周囲へ気を配りながらハルは剣を抜き、その後ろでルナリアは杖を構える。
進行はゆっくりと、気配や空気の流れなどを感じながら二人は進んでいく。
左手にある部屋から順番に進んでいくが、特にこれといった変化はなかった。
そして、いくつか部屋をまわったところで、ひと際大きな扉を見つけた二人は先へと進む。
開いて中に入ったところで最大の変化があった。
「……おいおい、でかいな」
「あっ、扉が!」
二人がはいったのは魔物が待ち受けている部屋。
そして足を踏み入れる――と、同時に扉がバタンと音をたてて固く閉じてしまった。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、
耐炎2、耐土1、耐風2、耐水1、耐氷2、耐雷1、耐毒2
氷牙2、毒牙1、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、
火魔法1、爆発魔法1、解呪
骨強化1
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法2、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
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