第四十六話
廃城まであと少しというところで、ハルは馬車を停める。
「……あれ? まだ少し距離がありますが、降りるんですか?」
廃城の手前で降りると思っていたルナリアは、素直に馬車を降りながら質問する。
「あぁ、何しろ廃城だからな。あまり近くに停めたら馬車が敷地にいる魔物に襲われるかもしれないだろ?」
ハルの言葉を聞いて、なるほどとルナリアは頷き、ファロスの頭を撫でた。
「留守番お願いしますね、ファロス」
「ヒヒーン!」
ファロスは元気よくルナリアに返事をすると、ハルにつながれた木のそばで休む態勢に入っていた。
「さて、俺たちはあの廃城攻略だ」
「はい!」
ハルが先導し、それにルナリアがついていく。
前回はこの段階で聞いていたことをまだ聞いていないと思いだして、ルナリアが思い出したように問いかける。
「ここはどんな魔物がでるんですか?」
それを受けて、ハルはそういえばと、ポンッと手を打った。
「言ってなかったか。ここはゴースト系の魔物が出てくる。そいつらは普通に剣で斬っただけじゃ倒せないみたいだから――魔法が活躍する」
ハルの言葉を聞いて、自分の得意分野である魔法が生かせるとルナリアは気合が入る。
ゴースト系の魔物にはいくつかの種類が存在する。
一つは人間が死んだ際の怒りや恨みなどが魂と同化して魔物化する。
一つは何か物に魂が宿り魔物化したもの。
そして、最後の一つは何者かが作り出した場合の三種類がいる。
「多分だけど、廃城だから人間の魂が良くない感情と結びついたんだろうなあ。倒して浄化してやらないと……」
そうしなければ、いつまでもこの城に縛られたままになってしまう――ハルは廃城を見上げながら物憂げな表情になった。
「ゴースト系――たしかに、天に帰してあげたいですね」
誰しも魔物になりたくてなったわけではない、とルナリアもハルの言葉に同意する。
「その他だと、リビングアーマー――これはゴーストが鎧に乗り移ったものや、ただ思いだけが染みついてるものなどあるが、どっちにしろ元の鎧が強ければ強いほど、強敵になるな」
伝説の鎧がリビングアーマー化したなどということがあれば、目も当てられない――ハルは苦い表情で話す。
「ゴーストに動く鎧、ですか……他にもいるんですか?」
「あぁ、いるみたいだ。その他にもこういう場所特有の魔物がいるとしか資料には書いてなかったけど、恐らくはスケルトンや、場合によってはゾンビがいるんだろうな」
ハルの答えはルナリアの表情を曇らせる。
「あー、ゾンビですか。戦ったことはないですけど、話しには聞いたことがあります。なんという動く死体ですよね? 元の肉体が腐ったとかなんとか……」
元の人に対する悲しみと、ゾンビに対する嫌悪感がルナリアをそんな表情にさせていた。
「何がどれだけ出てくるかわからないけど、多分メインは魔法による戦いになると思う……がんばろう」
ハルは自信も魔法を使うことができるが、ここ最近ずっと魔法だけで戦っていたルナリアの方が魔法攻撃では一歩先を進んでいる。
仲間と言ってくれた彼女だからこそ、ハルは一緒に戦おうと申し出る。
「任せて下さい! ハルさんの分も活躍しちゃいますからね!」
ふんっと息巻き、力こぶを作って見せるルナリアだったが、筋肉の盛り上がりは見えなかった。
「期待してるよ。ここのやつらもなかなか面白い能力を持っているみたいだから、楽しみだ」
可愛らしいルナリアにふっと柔らかな笑みを浮かべたハルは廃城へと視線を移す。
彼はまだ見ぬ、しかし予想をしているある能力を楽しみにしていた。
「それじゃ、ここからは慎重に行きましょう」
そうして二人は話しているうちに、廃城の敷地の入り口に到着していた。
廃城の庭部分もかなり広さがあり、建物までもしばらく距離があった。
「なんか、空気が重いな……」
「はい……」
敷地の外と中では雰囲気、空気が一変していた。
どんよりとまとわりつくような重たくよどんだ空気が漂う。
ここに一歩足を踏み入れた時から敵の敷地に入ったという独特のピリピリとした雰囲気が流れていた。
この廃城、及び敷地内にいる魔物についての情報はギルドで見せてもらったが、なぜこの城が廃城となったかまではハルも調べていなかった。
その昔、この城の城主を裏切った部下が他の城に寝返り、この城を急襲した。
いつ城主が油断しているか、どういう警備配置になっているか、全てが筒抜けとなったため、あっという間に滅ぼされることとなる。
元々この領主のことをよく思っていなかった、他城の軍勢は悪逆を尽くし、この城の者たちは苦しみ、怒り、悲しみののちに滅ぶこととなった。
その強い怨念が魔物と化させたのかもしれない――。
そんな経緯を知らない二人だったが、それでもこの城は何かが違うと肌で感じていた。
「ルナリア、この城の情報って何か知っているか?」
「い、いえ、でも以前この街に立ち寄った時も、この城に関する依頼は何も出ていなかった気がします……」
ここに至って、そう質問されたため、記憶をたどったルナリアは依頼がなかったことを思い出す。
「なるほど、確かにこんな場所に進んできたがるやつらもいないだろうし、こんな場所の依頼を出すやつもいないか……」
過去にはこの城の調査と称した依頼が出されたことはあったのだが、城に向かった冒険者が帰ってこないため、依頼はぱたりと途絶えることとなった。
――そのことを知らなかった冒険者がここに二人。
「ど、どうしますか?」
「……いや、行こう。せっかくここまで来たんだ。慎重に進んでいけばいいだろう」
ハルは不穏な気配を感じてはいたが、この城の状況を把握しておきたいと思っていた。
今後、この城に誰かが訪れることがあった場合にも情報があるとないとでは安全の度合いが異なる。誰かがやらなければならないのならば、自分がやればいいとハルは判断する。
ハルの判断にルナリアは頷く。
彼女もこの場所の危険性を感じており、情報は必要だと感じていた。
「さて、というわけで早速でてきたぞ」
門をくぐり、入り口までのボロボロの庭園を歩いていた二人。
まだ城までは少し距離があったが、ハルが視線を向けた先の地面がぼこりぼこりとうごめくように盛り上がり、そこから魔物が姿を表そうとしている。
「さて、どっちがでるか?」
おおよそ地面から出てくる魔物といえば、スケルトンかゾンビと相場が決まっている。
ハルは警戒しながらもどこか好奇心に満ちた表情だ。
「できれば骨でお願いします……」
武器をぎゅっと握るルナリアはゾンビはできれば避けたいと考えていたため、ここにきて本音が漏れる。
――しばらく待っていると耳が良いハルが先にあることに気づく。
「ルナリア! 囲まれているぞ!」
「わっ! ほんとだ! これは、い、いきなりピンチです!」
ハルの言葉にルナリアも周囲の地面が一気にボコボコと盛り上がってきているのを確認して、驚きの声をあげていた。
飛び出すように地面から次々と姿を現したスケルトンたちは、一斉にカタカタと顎を動かして不気味に笑っていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、
耐炎2、耐土1、耐風2、耐水1、耐氷2、耐雷1、耐毒2
氷牙2、毒牙1、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、
火魔法1、爆発魔法1、解呪
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法2、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
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