第四十四話
平原で属性スライムを次々に倒していくハルとルナリア。
現れたスライムは、氷、火、風、水、土、雷の六種類。
そのかいもあってか、ハルの耐性スキルは次々と増えていた。
また、ルナリアも実際に魔物相手に魔法を使うことで命中精度や、細かな変化などを試すことができていた。
「なかなかいい感じだな。贅沢を言えば、何か魔法が習得できればよかったんだが……」
属性スライムは魔法を使えず、ハルが魔法を手に入れることはできなかった。
「それは私としては内心よかったと思います……だって、ハルさんが魔法を使いこなせたら私の存在意義がなくなっちゃうじゃないですか……」
前衛のハル、魔法使いの後衛ルナリアでバランスが良いと思えるが、ハルが魔法を十全に使うことができればそうとも言えなくなってしまう。そう考えてしまったルナリアの表情は暗い。
「いやいや、存在意義は十分ある……」
そこまで言ってハルは口を開けてルナリアを、正確には彼女の後ろを見ていた。
「どうかしましたか?」
きょとんとした表情で顔を上げたルナリアはハルの視線が自分を捉えておらず、後方を見ていることに気づく。
「――待て! ルナリア、動くな!」
思わず振り返りそうになったルナリアは一瞬だけビクリと動いて、その場に制止する。
「そして、ゆっくりとこっちに来るんだ……後ろを振り返るな。俺のことだけ見てこっちに来い!」
手を伸ばし、真剣な様子のハルの指示に従って、何が後ろにあるのかわからないルナリアは不安そうな表情でゆっくり一歩一歩ハルのもとへ近づいていく。
そして、ハルのもとへ到着したところで、彼はルナリアを後ろにかくまう。
「さて、ルナリア。次の相手はあいつみたいだぞ」
視線の先にいるのは、ここに来るまでにも話していた蛇の魔物――ポイズンスネイクだった。
サイズはハルやルナリアよりも大きく、彼らを丸のみできるくらいには大きかった。
ハルの声は確かにルナリアの耳に届いているはずだったが、ハルの服を握る手が震えている。
それに気づいたハル。
以前であれば、離れて隠れるように指示を出すところであった。
しかし、彼女自身が戦うと宣言していた。ならば、かける言葉は強気。
「ルナリア、足を踏ん張れ! 腹に力を入れろ! 戦うと決めたのはルナリア自身だろ!」
ハルの強い言葉はルナリアの心を大きく揺さぶる。
「は、はい!」
未だ震えはある。視線はポイズンスネイクを見てはいるが、全体像を捉えられずにいる。
しかし、彼女も自身が発した言葉を覚えている。自らが宣言したことを曲げるつもりもない。
だから、その場でしっかりと大地を踏みしめる。逃げだしたい気持ちをおさえるようにお腹に力を入れる。
「やれるか?」
「わ、わかりません! でも……がんばります!」
ハルの問いかけに、ルナリアはできると言い切れない、しかし逃げるつもりもなく戦うという気持ちを込めて力強く宣言し、奮い立たせている。
「よし、わかった! まずは俺が行く。ルナリアは隙を見つけて攻撃をしてくれ!」
できなかったとしても、立ち向かおうという気持ちがあれば十分だ。そう思いながらハルはポイズンスネイク目がけて走っていく。
ポイズンスネイクは、毒液したたる口を大きく開けてハルを迎え撃つ。
鋭くとがった牙がむき出しになり、長く細い舌がチロチロと妖し気に揺れていた。
「てやああああ!」
剣を振りかぶってポイズンスネイクに攻撃を入れようとするが、ポイズンスネイクの牙から毒液が発射されるのが見える。
「くっ、“甲羅の盾”!」
慌ててスキルを使用したハルは甲羅の盾を自分の前に呼び出して毒液を防ぐ。
毒液を受けた甲羅の盾の表面がじゅわりと音を立てて溶けていく。
「かなり強力な毒だな……」
ハルは足を止めて、盾の状態を確認すると振り払うようにそれを消す。
「――遠距離攻撃で行くか」
ハルも魔法が使えるので、右手を前に出してポイズンスネイクに狙いをつける。
「“フレアボム”!」
手を大きく伸ばし、ハルは身に着けた爆発魔法を放つ。
しかし、ポイズンスネイクは巨体にも関わらずそれをひょいっと避けて、再び毒液をハルに向かって放つ。
「……くそっ!」
ハルは横っ飛びで間一髪避けることに成功するが、先ほどまでハルがいた場所の地面は毒によって土が溶けて、ぽっかりと穴が開いていた。
姿勢を崩しているハルに向かってポイズンスネイクが再び毒液を放つ。
「まずっ!」
さっきのように飛んで避けようとするが、初動が一瞬遅く毒液を浴びてしまう――そう思ったハルだったが、その結果にはならなかった。
「はあはあ……だ、大丈夫ですか?」
苦手な蛇を前に震える手を伸ばしたルナリアが毒液を氷魔法で凍らせて吹き飛ばしていた。
「あ、あぁ、助かった。……でも、大丈夫なのか?」
動けずにいたルナリアのことを思い、そう質問する。
「今は、そんなこと、気にしてられないです! “アイスボール”!」
話している間にも再び毒液を吐き出しているポイズンスネイク。
それをルナリアが魔法で次々と凍結させることで防いでいる。
いつしかポイズンスネイクのターゲットはハルからルナリアへと移っていた。
自身の自慢の攻撃である毒液が通じないことで苛立ちが募っているのがわかる。
「怖くないのか?」
「怖いです!」
ハルの質問に被せ気味に大声で答えるルナリア。
「でも、やらなきゃ!」
力強く気合のこもった声でそう宣言したルナリアは必死の形相でポイズンスネイクと対峙していた。
苦手なものに立ち向かい、頑張ってるルナリア。今自分が動かないでどうする! そう奮起したハルが、ポイズンスネイクの側面から攻撃に移る。
蛇の魔物は普段薄暗いところに住んでいる影響か、特性上、あまり視力が良くない。
そして、前方は見えるが側方が見えにくい。
それを理解しているハル。
声も出さず、自分の居場所が悟られないように死角をつく。
狙うは巨体の腹の部位。蛇の魔物は腹の部分が他の場所に比べて柔らかい。
そして、ハルはただ腹を剣で突き刺すだけでなく炎を纏わせていた。
側面に辿りつき、剣を腹に突き立てる瞬間、気合の声をあげる。
「うおおおおおおおお!」
そして、剣は少しの抵抗を受けるがズブリとポイズンスネイクの腹に突き刺さる。
「キシャアアアアアアアアアア!」
悲鳴のような声をあげるポイズンスネイク。身をよじらせてハルを引き剥がそうとするが、ハルは剣から手を離さずに剣先から炎を生み出し続ける。
「“アイスアロー”!」
腹の痛みにのたうつポイズンスネイクの隙をついて、ルナリアが口元に氷の矢を放つ。まっすぐ口目がけて向かっていったソレは口から入り、そのまま頭部を貫通する。そして、着弾部位から徐々に凍り始めていく。
寒さに弱いポイズンスネイクの動きは徐々に鈍っていき、ついにはピクピクと動くだけでその動きをほとんど止めてしまう。
「いけええええええ!」
それを好機と読んだハルは、炎の出力を最大にしてそのまま腹を真っ二つに掻っ捌いた。
最後に一度小さくもがいたポイズンスネイクはそのまま息絶える。
「はあはあ、ふうううううう」
「ふう、ふう、はああああああ」
緊張感から解放された二人は大きく息を吐いて、しばらくの間ポイズンスネイクの死体を見ていた。
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名前:ハル
性別:男
レベル:1
ギフト:成長
スキル:炎鎧2、ブレス(炎)1、ブレス(氷)2、竜鱗1、
耐炎2、耐土1、耐風1、耐水1、耐氷1、耐雷1、耐毒1
氷牙2、毒牙1、帯電1、甲羅の盾、鑑定、皮膚硬化、腕力強化1、
火魔法1、爆発魔法1、解呪
加護:女神セア、女神ディオナ
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名前:ルナリア
性別:女
レベル:-
ギフト:火魔法1、氷魔法1、風魔法1、土魔法1、雷魔法1
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